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なでしこジャパン(日本女子代表)は、ラウンド16でオランダの前に敗退。ワールドカップへの挑戦は、誰もが期待していたよりずっと早い段階で終わってしまった。
オランダ戦は残念な試合だった。
序盤は相手のスピード、とくにオランダの左(日本の右)サイドのマルティンスのスピード・ドリブルに何度も突破を許して押し込まれ、日本の最終ラインがなんとか耐えていたものの17分にはCKからの低いボールにマルディンスが足で合わせてオランダが先制。
しかし、その後は日本もオランダのパスの出どころにプレッシャーをかけて、次第にゲームを落ち着かせることに成功。20分には岩渕のドリブルから中嶋、菅澤とつながるビッグチャンスがあったが、菅澤のシュートが右のポストに嫌われてしまう。そして、その後は両チームの守備が攻撃を上回り、ともにビッグチャンスを作れない思い試合となっていく。
日本はオランダが前線に入れてくる縦へのパスコースをしっかりと切り、オランダは中観での寄せで日本が保持しているボールを奪う……。
そんな展開が続くなかで、前半終了直前に左から杉田が持ち込んだボールを相手ゴール前で菅澤、岩渕とつないで、最後は相手ラインと駆け引きしながら飛び出した長谷川が冷静に決めて、日本は同点に追いついた。
後半も、同じように重苦しい展開が続く中、日本は焦らずにゲームを組み立て、オランダに疲れが見え始めるとともにチャンスが生まれはじめる。そして、72分に中島との交代でこの大会初登場となる籾木が入ると、その後は日本が何度も決定機を迎えるが、79分の杉田のシュートがクロスバーに当たるなど、どうしても決め切れない。
そして、延長も見えてきた89分に相手のCFのミーデマのシュートが熊谷の手に当たり、主審はPKの判定。「故意のハンド」というのは厳しすぎるシーンだったが、VARで確認しても判定は覆ることなく、オランダが決定的な時間でリードを奪った。
先制されても慌てることなく、膠着状態が続く時間帯にも焦れることなく、しっかりとゲームを組み立てて、終盤は完全に押し込んでチャンスを作った日本代表。ゴールの枠に2度も嫌われて、厳しい判定でPKを受けての敗戦はかなり不運なものだった。
優勝した2011年大会でも、準優勝に終わった2015年大会でも幸運の女神は日本に味方してくれたが、今大会の日本は運にも見放されたようだ。
ただ、今大会の日本代表に優勝を狙うチーム力がなかったのも間違いない。
なにしろ、全24チーム中で2番目に若いチームであり、経験豊富な阪口や宇津木が故障から復帰することができなかったため、ワールドカップ経験のある選手は数少ない状態だった。日本の若い選手たちは、昨年のU20ワールドカップなど年代別の大会で優勝経験を持ち、潜在能力が高いことは確かだ。
たとえば、今大会ボランチとしてチームの中心となった三浦。阪口が起用できそうもないという中で、大会開幕前に女子のサッカーにも詳しい記者たちの間で「誰を代役にすべきか」について話したことがあったが、「三浦ではどうか」と僕が言ったのに対して、あるベテラン記者は疑問を挟んできた。しかし、大会が始まってみると、攻撃的センスのある杉田とバランサー役の三浦のコンビは素晴らしいパフォーマンスを見せた。他のポジションでも、センターバックの南や市瀬は強力な相手FWと一歩も引かないバトルを見せるなど、若い選手は期待以上だった。
だが、経験不足は否めない。
さらに、高倉監督は2月にアメリカで行われたシー・ビリーブスカップの頃までチーム内競争を続けさせており、チームのメンバー決定が遅れた。対戦相手の強豪国はベテランた健在で、しかも2月の段階ではすでにメンバーを固定してチーム作りの最終ステージだったにも関わらず、日本はまだ多くの選手を試しており、本大会のメンバー構成も見えていない状態だった。
“チーム作りの常識”を考えれば、明らかに遅すぎた。
ワールドカップ本大会が始まってから試合を重ねることにチームは良くなっていった。コンディションも上がり、そしてコンビネーションも確立され、オランダ戦の後半などは素晴らしいパス・サッカーを見せてくれた。だからこそ、「もったいない」のだ。もっと早くチームを完成させていれば、もっと上の成績が狙えたのではないか……。
2019年の大会を若いメンバーで戦ったことは、将来への大きな財産となる。地元開催となる2020年の東京オリンピック、そして日本が大会を招致しようとしている2023年のワールドカップで地元優勝を狙う布石だと考えることも当然できる。
監督が(あるいは協会が)そこまでの長期的戦略を考えて今回のようなメンバー構成にしたというのなら、それは十分に“ありうる選択”だった。だが、そうではなく単にチーム作りが遅れてしまったというのなら、これは原因の究明を進めるべきだ。
オランダの勝利によって、今大会ではベスト8のうち7つをヨーロッパ勢が占めることになった。
ヨーロッパでは、今、女子サッカーが大きなムーブメントとなっている。この春にはスペインの国内リーグ(アトレティコ対バルセロナ)で6万人以上の観客が詰めかけたというニュースがあったが、今度はレアル・マドリードも女子部門を発足させるという。あるいは、欧州チャンピオンズリーグ連覇中のリヨンの財政規模はJ1の浦和レッズ並みだという。
それに引き換え、日本ではワールドカップでは地上波放送を含めて大きな注目を集めるものの、なでしこリーグの観客動員力はせいぜい2000〜3000人程度。2011年の優勝後の盛り上がりは嘘のようだ。
2011年当時に比べて、リーグ戦の試合のレベルははるかに上がっている。当時と違って、上位と下位のレベルの差は縮まっているし、今では下位チームでもどのポジションにもきちんとプレーできる選手がそろっている。
せっかく若い世代にも優秀な選手が多くそろっているだけに、日本の女子サッカーがこれからどうなっていくのか、とても大事な時期にあるはず。なでしこリーグをどうやって盛り上げていくのか(日本でも、もっと多くのJリーグクラブに参入してもらいたい)。そして、代表強化にもっと多くの時間を割いて、来年のオリンピック、自国開催となるかもしれない次期ワールドカップで上位進出を果たすために何をすべきなのか……。
今回の敗戦を、長期的視野に立って女子サッカーの将来を考え直す機会としてほしいものだ。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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