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女子ワールドカップに挑んでいる日本代表(なでしこジャパン)は、グループリーグ最終戦でイングランドに0対2で敗れものの、なんとか2位でのグループリーグ通過を決めた。
それにしても、気まぐれなアルゼンチンにすっかり振り回された3試合だった。
女子のアルゼンチンは、まだまだ発展途上。日本よりはだいぶ格下のチームだった(コパ・アメリカを見ていると、男子もすっかり低迷しているようではあるが……)。
したがって、日本との初戦で守りを固めてくるのはある程度予想されたことではあった。だが、あれほど極端に引いて守ってくるというのは驚きだった。「日本より格下」とはいっても、個人的なボール扱いがそれほど劣っているわけではない。それなりのテクニックを持った選手たちが、ゴール前にバスを2台か3台置いたような守り方をすれば、そう簡単に攻め崩せるものではない。
しかも、日本代表の方にはワールドカップが初めてといった若手が多く、初戦の緊張もあってすっかり重心が下がってしまい、またコンディションもあまり良さそうではなく、とうとうスコアレスドローに終わってしまった。
アルゼンチンは、2戦目のイングランド戦でもまたバスを並べてきた。そして、イングランドも日本と同じにアルゼンチンを攻めあぐねて、どうしても得点できなかった。「おやおや、イングランドも日本と同じ運命か」と思われたのだが、後半にたった一度だけ、アルゼンチンが人数をかけて攻めに出た瞬間があり、そして、イングランドがその裏を突くことに成功。イングランドは、この1点を守り切って勝点3をゲット。日本との最終戦を前にアドバンテージを握った。
日本は、イングランドとの直接対決でイングランドのスピード(パスのスピード、人のスピード)に苦しめられ、縦に入れられたボールをともにホワイトに決められて0対2で敗戦を喫してしまう。
しかし、試合途中で「スコットランドがアルゼンチンをリード」という情報もあり、「まあ、これで2位通過」と思っていたら、0対3でスコットランドにリードされたアルゼンチンが突然のように追い上げを開始し、アディショナルタイムに3対3の同点に追い着いてしまったのだ。もし、アルゼンチンがもう1点を追加してスコットランドに勝利してしまうと、日本は2位ではなく3位通過になってしまう。そんなスリリングな瞬間を経て、アルゼンチンとスコットランドの試合が引き分けに終わり、日本の2位通過が決まった。
まあ、何位通過でも、通過さえすればいいようなものだが、3位通過になると、決勝トーナメント1回戦(ラウンド16)の対戦相手が優勝候補のドイツとなってしまう可能性が高かったのだ。これは、避けたかった。
グループリーグを終えて、ドイツ、フランス、アメリカが好発進に成功した。チーム力としても、この3チームが他を圧しているも明らかだ。この3チームの他で、優勝の可能性を持つのがイングランド、スペイン、オランダ、日本といったところだろうか……。
したがって、できればラウンド16ではドイツなど3か国とは当たりたくないのだ(もっとも、日本が優勝した2011年大会でも、日本はグループリーグ最終戦でイングランドに敗れて、決勝トーナメントで開催国であり前回優勝国でもあるドイツと当たったのだが、延長の末にドイツを破って快進撃がスタートしたわけだが)。
とにかく、グループリーグでの日本は、アルゼンチンに引き分けてしまい、イングランドにも完封され、グループリーグ3試合はかなり苦戦を強いられた印象が強い。
しかし、内容が上向いているのは間違いない。イングランド戦でも、シュート数は日本が上回ったし、攻撃のパターンも多かった。
そもそも、今回は初戦からコンディションが良さそうではなかった。
大会開幕直前に日本はスペインと練習試合を行ったが、その時など、明らかに日本選手の動きにキレがなかった。日本のサッカーは、男子でも、女子でも走る必要がある。走り負けていては、日本の勝機は小さい。アルゼンチンになっても、日本の選手たちの動きは戻っていなかったのだ。それで、僕はイングランド戦ではコンディションを見ていたが、この試合で後半に入った頃にキレが戻り、ドリブルやパスワークを使ってイングランドのDFをはがしていく場面も作れるようになった。
そもそも、男子のワールドカップでも同じだが、優勝を狙うチームというのは初戦にピークなど持ってこないのだ。ラウンド16が始まる頃までにピークに持って行き、それを決勝まで持続させる……。それが、強いチームのやり方だ。そして、まさに日本チームのやり方がこれだ。
グループリーグの3試合で収穫は岩渕真奈の状態が良くなったことだ。ヒザの故障を抱え、出場のめどが立っていない中で代表に招集されたが、初戦に交代の形でピッチに出されるときちんと仕事をこなし、そしてスコットランド戦で先制点を決めている。これから、ゲームをこなせば、さらにゲーム勘も戻ってくるはずだ。
さらに、出場が制限されている阪口夢穂や宇津木瑠美も、大会後半には戻ってこられるかもしれない。やはり、ベテランの力が必要となる場面は必ずある。彼女たちのフィジカル・コンディションやゲーム勘、コンビネーションが戻り、若い選手との連携が確立できれば、日本のチーム力は間違いなく上がる。
コンディションという意味では、グループ2位の通過となったため、ラウンド16までは5日の時間が生じた。この間に、故障者も含めて回復させ、コンディションを調整する貴重な時間をもらったと考えるべきだろう。中5日を終えて、日本の次戦はラウンド16の最後の試合となる。したがって、それ以降の日程は厳しいものになるだけに、ぜひとも5日間の間に万全の調整をしてほしい。
また、D組2位で入った山には優勝候補筆頭のアメリカもフランスもいない。ドイツと当たるのも(両チームが勝ち進んだとして)準決勝と組み合わせにも恵まれたものと言っていいだろう。
イングランドも最近はパスをつなぐサッカーを志向していると言われ、たしかにパスをつないできた。だが、パスをつないでいてくれる間は、日本のプレッシングが効果的だった。逆に、イングランドがパスを使ったフィルドアップを断念して速いロングボールを入れてきたところが最も危なかった。これから戦う相手も同じような戦い方をしてくるところが多そう。
スコットランド戦、イングランド戦で経験したことを今後に生かして、なんとか勝ちぬいてほしい。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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