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日本以外の強豪国はすべて順調に勝点3を確保。FIFA女子ワールドカップ、上位と下位の実力差は男子の大会より大きいのか
後藤健生コラム by 後藤 健生フランスで開幕したFIFA女子ワールドカップもグループリーグの2巡目の対戦に入っている。日本女子代表(なでしこジャパン)は、初戦でアルゼンチンの堅守を崩すことができずにスコアレスドローでの発進となってしまった。
「攻めながら崩すことができなかい」。いつの時代でも、サッカーという競技ではしばしば起きることであり、とくにボールポゼッション率が高いサッカーを目指す日本ではお馴染みの光景だ。先日は、FIFA U-20 ワールドカップのラウンド16で日本代表がやはり攻め込みつつあった中で韓国の守備を崩しながら無得点に終わり、韓国に敗れて帰国の途につくこととなった。
アルゼンチン戦で印象深かったのが、試合後のアルゼンチンの喜び方だった。
日本の選手たちはスコアレスドローに終わった瞬間に肩を落として困惑の表情を浮かべたが、ピッチ上ではアルゼンチンの選手たちが互いに抱擁を交わし、歌を歌って喜びを表していた。
それを見て、僕は男子のワールドカップのことを想像していた。
今回の女子ワールドカップ。8年前の栄光の記憶があるからだろうが、サッカー・ファン向けではない一般メディアでも大きく取り上げられている。たとえば、日本の初戦はJ SPORTS以外でも、地上波を含んでいくつもの局で放映されていた。このコラムの読者でも、ふだん女子の試合をあまり見たことがない人も大いに違いない。そんな方は、男子のワールドカップに当てはめて考えてみることをお勧めする。どこが同じで、どこが違っているのか……。
たとえば、日本とアルゼンチンの関係。
男子のワールドカップの初戦で日本がアルゼンチンと対戦してスコアレスドローに終わったとすれば、アルゼンチンの選手たちは肩を落として落胆し、日本の選手は満足とは言わないにしても、自信に満ちた表情を見せるに違いない……。
男子と女子ではその関係は逆転するのだ。そして、日本のメディアは言うはずだ。
「優勝を狙うアルゼンチンは、初戦はベストコンディションではなかった」と。
日本チームはアルゼンチンを攻めあぐねた。たしかに、男子と同じく、アルゼンチンの守備意識は非常に高く、中央を固めて分厚い守りをしき、そして日本代表がトップの菅沢や横山に当ててくるボールに激しいタックルを繰り返し、日本は最後までアルゼンチンのゴール前まで侵入できなかった。
パスの精度を欠き、スピードもなかった日本チーム。その原因はアルゼンチンの守備力の高さでもあったし、また若い選手の初戦での緊張のせいでもあったろう。そして、同時にコンディションがピークでなかったことも事実だった。
大会直前に日本はスペインとトレーニングマッチを行ったが、この時も日本はコンディションが悪かった(男子も女子も、日本チームが運動量で劣っていては、勝ち目はない)。その時に比べれば、アルゼンチン戦ではだいぶ改善したとはいえ、まだピークでないことは確かだった。
そう、優勝を狙う強豪国は約1か月にわたるワールドカップという大会を乗り切るために、コンディションのピークはラウンド16の当たりに置く。ノックアウト・ステージ、つまり負けたら終わりの強豪同士の対決にピークを置くのだ。
一方、挑戦者の立場の国は初戦にピークを合わせて強豪相手に一泡吹かせることを狙う。
そして、「まだピークではない強豪国」対「初戦を狙っている挑戦者」の戦いでは、しばしば強豪国が足元をすくわれる。
昨年のロシア・ワールドカップの初戦では、前回優勝のドイツがメキシコに敗れ、前回準優勝のアルゼンチンがアイスランドと引き分けに終わり、ブラジルがスイスと引き分け、コロンビアは日本に敗れている。そして、ここで結果を出せなかった強豪国にとって、ロシア・ワールドカップは失意の大会となってしまったのだ。
若手が多く、しかも高倉麻子監督が最後の最後までメンバーを固定せずに選手間の競争を促していたので、日本はまだまだコンビネーションも出来上がっていないのが現状だ。これから、コンディションを上げ、試合とともに連携も深まり、さらに故障で出遅れていた岩渕や阪口の状態も上がってくるはずで、大会後半にピークを持ってくることができれば狙い通りなのかもしれない。ただし、初戦が引分けに終わってしまったため、次のスコットランド戦に敗れると、グループリーグ敗退の危機にも直面してしまう。高倉監督のリスキーなチーム・マネージメントが成功するかどうか……。
さて、男士のワールドカップでは初戦で強豪が勝点を落とすことはよくあることだが、女子のグループリーグ初戦は日本がアルゼンチンと引き分けた以外には、優勝を狙える強豪国が軒並み勝利を収めている。アメリカは、タイ相手になんと13対0で大勝した。
ドイツは中国に苦戦し、オランダもニュージーランド相手にあわやスコアレスドローかと思われたが、どちらも終盤に(オランダはアディショナルタイムに)得点を奪い取って勝点3を確保した。強豪国同士は実力差が接近しており、どこが優勝するか見通しの立たない女子ワールドカップだが、上位チームと下位チームとの格差はやはり男子の大会より大きいのだろう。
ポーランドで行われている FIFA U-20 ワールドカップに至っては、最初からどこが強いのかまったくわからないまま、決勝はウクライナ対韓国という予想もしなかった対戦となってしまったのだが……。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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