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サッカー フットサル コラム 2019年5月31日

圧倒的な個の力よりコレクティブなサッカー。勝利への戦略に徹したチームが目立つFIFA U-20 ワールドカップ

後藤健生コラム by 後藤 健生
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田川亨介

FIFA U-20 ワールドカップのグループリーグ最終戦。U20日本代表はイタリア相手に終始優位に試合を進めたものの1点が奪えずに引き分けに終わり、グループ2位でラウンド16進出を決めた。連戦の疲労の色も濃く、メキシコ戦の時のように90分間にわたってプレッシングをかけ続けることはできなかったが、それでも日本のプレスでイタリアのミスを誘発する場面が何度もあったが、伊藤洋輝のPK失敗もあって無得点。引き分けでも首位通過が決まるイタリアは、メンバーを大幅に入れ替えたうえで、中央をしっかり固めて守り切った。

日本は2位通過となってしまったが、おかげでラウンド16まで中5日の休養日を得ることができた。連戦の疲労が蓄積しており、しかも故障続出という状況を考えれば、対戦相手がどうこうよりも「中5日」の調整期間を得たことの方がありがたかったのではないだろうか。しかも、ラウンド16では対戦相手は中3日。日本にとってはアドバンテージとなるはずだ。

ただし、そのラウンド16の対戦相手はグループFの2位、つまりアルゼンチンまたはポルトガルとなる可能性が濃厚だ。両チームとも、今大会屈指の強豪である。

僕は大会開幕前日の5月22日にポーランド入りしてイタリア戦まで見て帰国するが、この間に7試合を観戦し、各グループの強豪チームを見てきた。

全体的な印象としては、今回のU20ワールドカップは突出したチーム、あるいは特別な才能を持った選手というのが見当たらない印象だった。

たとえば、前回2017年の韓国大会では若い力の台頭を見せつけたイングランドの溌溂としたスタイルとか、他にも各ポジションにテクニシャンを配し、近代的なヨーロッパ・スタイルを身に着けたベネズエラなどの印象が強かった。また、フランスにはあのリリアン・テュラムの息子をはじめ、強烈なパワーを秘めた“モンスター級”の選手が何人もいた。そんな中で、日本も堂安律がその才能の片鱗を発揮してしぶとくラウンド16まで勝ち進んだが、「ここと当たったらヤバイ」といったチームがいくつもあった。

それに対して、今回は圧倒的なチーム力で勝ち進んでいるチームはない。フランスにも前回のような“モンスター級”はおらず、しかも、この大会直前までリーグアンが行われていたためにベストメンバーも組めず、また準備期間も足りなかったという。

圧倒的なチームがない反面、まじめに守備をするチーム、手を抜くことなくハードワークができるチームが優位に立っている印象だ。昨年のロシア・ワールドカップとも傾向が似ていると言ってもいいかもしれない。

たとえば、ウルグアイ。僕はノルウェーとの試合を観戦したのだが、この試合の前半のウルグアイはまさに完璧と言える内容だった。4−3−3で中盤の底に位置するニコラス・アセベドの配給で前線を走らせるのだが、とくに右サイドのブライアン・ロドリゲスのドリブル突破が強力な武器。そして、ウルグアイの伝統とも言えるセンターバックの守備は堅固であり、DFのロナルド・アラウーホからは正確なフィードボールが前線に配給される。地味ではあるが、ハードワークを厭わず、勝負に徹したチームだった。もっとも、後半に入ってノルウェーが両サイドバックを高い位置に上げてツーバックの形にして押し込んでくると、ウルグアイもパスの精度が落ちてしまったのだが……。

大会の3日目にポーランドの北端に位置するグディニアで日本対メキシコ戦を見た翌日には7時間44分かけて、ポーランドの南端のビエルスコ?ビャワに移動した。日本のガイドブックはもとより、詳しい情報が載っているのでいつも愛用している『ロンリー・プラネット』のガイドを見ても載っていない地方都市だが、かつてはオーストリア領だった時代も長く、なかなか風情のある街で、平地ばかりのポーランドにあって山に囲まれた景色を見るのは新鮮だった(冬はスキーリゾートになるようだ)。

長時間をかけての移動ではあったが、十分にその時間と労力に値した。というのは、ポルトガル対アルゼンチンの試合は今大会のグループリーグ屈指の好カードであり、実際、インテンシティの高い90分の戦いは見ごたえのあるものだった。

試合はシュート数でポルトガルが18、アルゼンチンが11。内容的には90分を通してポルトガルが攻め続けた試合だった。中盤の底でゲームを操るフロレンティーノ・ルイス、左サイドの攻撃的MFのゲジソン、右サイドのミゲル・ルイスと3人のMFが中盤を支配。両サイドアタッカーと両サイドバックが左右にワイドに開いて、ピッチの幅をいっぱいに使って攻める攻撃は迫力があった。

だが、アルゼンチンのしたたかさがそれを上回った。サイドを使ったポルトガルの攻撃を見切って、サイドではボールを持たせた上で中央を固めて猛攻を跳ね返し続ける。なんと言ってもその立役者はGKのマヌエル・ロフォ。反応良く相手のシュートを処理し。そしてパンチングが実にうまい。パンチしたボール、あるいはスローイングしたボールがそのまま前線に繋がってカウンタ—の起点になることも何度もあった。実際、アルゼンチンの先制点もロフォが蹴ったゴールキックからつないだものだ。決めたワントップのアドルフォ・ガイチも単独でボールを運べるすばらしいFW。しっかり割り切って守ってカウンタ—とセットプレーで点を取って勝つというタスクを完璧にこなしたアルゼンチン。リードしてからは、あからさまな(それでいてイエローカードにはならない程度の)時間稼ぎやシミュレーションも織り交ぜて、ポルトガルを退けたあたりはいかにもアルゼンチンらしかった。

同じくビエルスコ・ビャワで観戦したアメリカも好チームだった。

アメリカ代表は選手の多くがアフリカ系、ヒスパニック系の混成チーム。そうした選手が、幼少期からしっかりとコーチングを受けて、じつに真面目なプレーをする。監督は、1994年ワールドカップの時の代表だったタブ・ラモスだ。

中盤の底のクリス・ダーキンがアメリカンフットボールのクォーターバックよろしく左右にパスを散らし、攻撃的な位置の2人のMFアレックス・メンデス、パクストン・ポミカルとMF3人がそれぞれ異なったタイプのパスを駆使。前線も右サイドがドリブラーのコンラッド・デラフエンテ、左がスピードとテクニックを併せ持った万能のティム・ウェア(あのジョージ・ウェアの息子)。中央に決定力のあるセバスティアン・ソトと攻撃陣が魅力的なチームだ。

こうしたハードワークを厭わず、集団で戦う強豪の中で、日本チームも守備力、結束力ではけっして劣っていない。コンディションが回復でき、故障者が戻れれば十分に戦えるはず。強豪ポルトガル、アルゼンチンとの対戦が見込まれるラウンド16に注目したい。

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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