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サッカー フットサル コラム 2019年5月27日

柔軟な試合運びでメキシコ戦に完勝。試合運びなど、かつての日本サッカーの欠点は克服された?

後藤健生コラム by 後藤 健生
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ポーランドで開かれているFIFA U-20 ワールドカップ。初戦はエクアドル相手にしぶとくなんとか勝点1を確保したU20日本代表は、2戦目では見事に立て直してメキシコ相手に3対0と快勝してみせた。内容的にも「完勝」だった。

U20ワールドカップでのメキシコ戦といえば、思いだすのはちょうど20年前のことだ。

日本があらゆるカテゴリーを通じてFIFAの大会で初めて決勝に進出した当時の「ワールドユース選手権」。ナイジェリアで開かれた大会の準々決勝、場所はイバダンでのことだ。

ナイジェリア大会では治安の関係上、両チームもメディアも同じホテルに泊まっていた。メキシコに勝った夜、ホテルのレストランで日本人プレスが食事をしていると、隣のテーブルではメキシコのスタッフが食事をしていたのだ。あまり口を開く者もなく、早々に食事を切り上げたメキシコのスタッフたちは、飲み残したワインを「よかったら、飲んでくれ」とわれわれ日本人記者団に残して帰っていった……。

あの時も「完勝」だったが、今回の「完勝」は、ちょっと意味合いが違うような気がする。

1999年大会は小野伸二、小笠原満男、高原直泰などの黄金世代の大会。あらゆる意味で、メキシコを上回って圧倒した形の「完勝」だった。一方、ポーランド大会での「完勝」は必ずしも相手を完全に上回ったわけではない。むしろ、ゲーム運びの上手さ、守備力の差などで試合を完全に支配した。そんなゲームだった。

この大会が始まる直前に、このコラムで日本選手たちの頭の良さについて書いたことがあった。いわゆる「サッカー頭」というやつだ。ポーランドに向けて出発直前に流通経済大学と行った練習試合でのU20日本代表。寄せ集めのような形で始まった試合で、試合中に監督が声をかけ、選手同士で声を掛け合いしていくうちに、45分が経過する頃にはすっかりチームが出来上がったのを見てそう思ったのである。

メキシコ戦で感じたのも、彼らの「サッカー頭」の良さだった。まず、相手の陣形が予想と違ったのだが、それを慌てずにたちまち修正してしまったところだ。

メキシコは前線の非常に流動的に動くスリートップの下に3人のセントラルMFを配していた。だが、この3人のMFのうち両サイドの選手がタッチラインそばまで開いてくるのだ。ウィングバックではなく、セントラルMFが外に流れてくるので捕まえにくいというわけだ。

そして、これまでの試合の分析の中から、日本チームとしてはまったく予想していなかった相手の陣形だったそうだ。すぐに、ベンチの影山雅永監督から選手にポジショニングの指示が飛ぶ。しかし、選手たちはまったく慌てた様子はなかった。相手の出方を観察し、10分ほどのうちにはポゼッションで上回ることによって相手の意図を消してしまった。

しかも、18分には、そのMFのうち右サイドを使っていたロベルト・メラスが足を痛め、日本が1点を先行した直後の24分に交代してしまう。これによって、メキシコの戦術的な意図はぼやけ始め、最終的には普通の4−4−2の形に戻ってしまった。つまり、メキシコの戦術的な奇襲はまったく功を奏さなかった。日本代表の切り替えの速さ。とくにボールを失った後のリカバーの早さのおかげで、メキシコにはほとんど形を作らせなかったのだ。

メキシコは、仕方なく最終ラインからのロングボールを使ってきた。

これも、彼らとしては準備してきた形だったのだろうが、日本のストッパー、小林友希と瀬古歩夢がヘディングで競り勝ったため、そのうちメキシコのロングキックの精度自体が落ちてしまった。

日本がしっかりパスを回せるようになったのは、メキシコ戦で初出場となった藤本寛也の存在も大きかった。エクアドル戦で調子の悪かった伊藤洋輝に代わって出場した藤本。選手と選手の間の小さなスペースを見つけては、そのスペースを利用してフリーで受けて、バスのリズムを作っていく。初戦でも頼りになる動きを見せた斉藤未月と2人で作る中盤は圧巻だった。

さらに、最終ラインの安定感も素晴らしかった。ロングボールを跳ね返すだけでなく、4人のDFは相手のドリブル突破に対しても、相手のサイドチェンジにも、きちんと複数人で対応し、ほとんど危ない場面は作らせなかった。

U20ワールドカップは、すでに各チームが1試合ずつを戦ったが、これまで見た中で守備力だけを取り上げれば日本は間違いなくトップクラスに位置する。各国とも攻撃には迫力があったとしても、守備が安定していたのはノルウェーを3対1で破ったウルグアイくらいのものだった。

「サッカー頭」に関して言えば、1点をリードしてからの落ち着いた戦い方も素晴らしかった。追加点を狙って調子に乗って攻め急ぐこともなく、リードを守るために守備に入るわけでもなく、落ち着いて相手のやり方を見切って、リスクは背負わないで2点目、3点目を狙い、実際セットプレーとGKからの縦へのボールを素早くつないで、点差を広げて相手の戦意を喪失させてしまった。

かつては、「守備が弱い」、「センターバックで人材がいない」と言われていた日本のサッカーだが、この大会では日本のCBは平均レベルよりもだいぶ高い。また、かつては「ナーバスすぎる」、「リードするとかえって慌ててしまう」などと揶揄されていた日本のサッカーだが、1点を先制しても(あるいはエクアドル戦のように先制されても、あるいは相手のフォーメーションが予想とはまったく違ったとしても)、今の日本選手はそれで慌てるようなことはまったくないのだ。

あらゆる意味で、すっかり時代は変わってしまった。

そういえば、かつて「日本人はシュートを撃たない」ということも盛んに言われていた。しかも、「日本の教育のせいだ」、「肉食文化と農耕民族の違いだ」などと、まことしやかに理由付けまで盛んにされていただ。

だが、たとえばこの試合の3点目の宮代大聖の強引なシュートを見れば、「日本人が特にシュートを撃たない民族ではない」ということは明らかだろう。フランスだって、ウルグアイだって、せっかくのシュートチャンスにパスを選択してしまう選手がいるのだ。

時代は変わり、かつて日本人選手の欠点だとされていた部分は、いまの若い選手にはまったく関係のないことなのである。

文:後藤健生

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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