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代表チームでも、クラブチームでも、一生懸命プレーしているのに、何故かうまく行かない試合ことがある。持っている力のおよそ半分も出し切れない、もどかしい試合……。U20ワールドカップ初戦でエクアドルと戦った試合はその典型のようだ。
日本だけではない。「うまいかない」のは、両チームともそうだったのだ。
原因は、もちろん一つではない。どんな大会でも初戦は硬くなるもの。南米の、それもコロンビアやエクアドルのアフリカ系の選手たちのトリッキーなプレーや大きなフェイント。そして、プレーの柔軟性。「相手は南米チャンピオンである」ということから生じるリスペクトの気持ち……。さらに、ビドゴシュテュのスタジアムの硬いピッチ。日本の選手たちのプレーが委縮してしまったのは、そんなあたりが原因だろう。前半の日本の選手たちは、とにかく硬かった。
幸いなことに、相手のエクアドルもやはり慣れない環境で戸惑っていた。何しろ、エクアドルは世界大会に駒を進めることは、それほど多くない。不安を抱えながらの初戦だったのだろう。つまり、比較的インテンシティ—の低い入り方だったことで日本は助かった。
全体が引いて守る中で、最終ラインはよく耐え忍んだし、中盤では齊藤未月が豊富な運動量で攻守にわたってチームを支えた。このあたりは、J1リーグで湘南ベルマーレの屋台骨を背負ってプレーしている経験が生かされた形だ。やはり、選手にとっては試合に出ていることが何より大切なのだ。
しかし、15分を過ぎる頃からエクアドルのパスがつながり始め、日本の選手たちはさらに受け身になってしまう。攻めでは受け手の足が一歩前に出ずにパスが通らず、守備では寄せが一歩遅くなる。
エクアドルはパス回しの中心になったホセ・シフエンテスやトップ下のホルタン・レサバラがテクニックを使って日本のMFを振り回し、右サイドのゴンサロ・プラータを走らせる。また、S左サイドはサイドハーフのアレクサンデル・アルバラドをサイドバックのディエゴ・パラシオスが追い越してくる。しかし、日本の最終ラインがなんとか耐えて、ようやくスコアレスでハーフタイムを迎えることができたかと思われた45分、ミスから失点が生まれてしまった。
GKのボールを若原智哉がパンチで逃れようとしたのだが、そのボールがなんと田川亨介に当たってゴールの中に飛び込んでしまったのだ。
エクアドルが、それまでのFKはすべてレサバラの左足で蹴って来ていたのを、この最後のFKではアルバラドの右足に切り替えたこと。若原の前をエクアドルの選手が横切ったことで、残念ながら若原のパンチが正確に当たらなかったのだろう。
もちろん、ミスはミスなのだが、強いられたミスだった。
いずれにしても、せっかく前半を無失点で耐えきったと思ったところでの失点で、メンタル的にどこまで立ち直らせることができるのかが後半の勝負だった。
後半は明らかに前半に比べて改善されており、しっかりボールを握れた。だが、その後、CKの守備の場面でペナルティーキックを与えてしまう。しかし、レサバラのキックが甘いコースにとんだところを、GKの若原がしっかり反応して失点を防いだ。キックの瞬間までしっかり相手を見て反応した若原の完勝だった。キッカーを最後まで見て反応するタイプのGKの方はPKには強い。
後半も立ち上がりのこの時間に1点を追加されていたら、エクアドルの攻撃のテンポは明らかに上がっていたことだろうが、PKの失敗によって前半の硬さをそのまま持ち越してしまった。実に、大きなPKストップだった。
エクアドルは、攻撃では質の高いタレントがそろっていた。だが、DFとくにセンターバックはかなり不安定だった。前半にも、CBのリハルド・ミナのミスから斉藤光毅がフリーになってGKを交わしてシュートを打ったビッグチャンスがあった(相手DFがゴールライン手前でっクリア)。
そして、ようやく後半に入ると、日本の選手たちもその相手の弱点を衝こうという意識を持ち始めて、何度かチャンスを作る。相手チームの攻撃力が強かったら、守っていてはいけないといのがサッカーの鉄則だ。かつて、イビチャ・オシムは「ロナウジーニョに守備をさせろ」とよく言っていたではないか。
実際、ようやく後半に入って日本が仕掛けていくと、案の定、相手の守備に綻びが生まれる。PK失敗でナーバスになっていたエクアドルの選手たちはメンタル的に追い詰められていく。そして、68分、やはり相手のDF陣がゴール前で混乱に陥ったところを山田康太がループ気味に押し込んで同点とした。
相手の混乱に乗じて追加点を奪って逆転勝利の可能性もあったので、引き分けに終ったのは残念だが、これだけ拙い試合をしながら、相手の硬さに乗じて勝点を奪えたのだから、ポジティブに考えるべきだろう。
勝点1の日本は、この後メキシコ、イタリアと戦うのだが、初日の日本とエクアドルの試合より前に行われた試合ではイタリアがメキシコを2対1で下している。
開始3分で先制ゴールを決めたイタリアだったが、その後、しばらくすると構えた守りに入ってしまい、逆に相手の攻撃を活性化させてしまった。後半に入ると、どちらもミスが増えて難しい試合になってしまった。イタリアとしても、勝ちはしたものの、とても満足のできる内容ではなかったはずだ。
つまり、このグループは4チームすべてが初戦で思った通りの内容でなかったということになる。「何も終わっていない」という表現がよくつかわれるが、初日を終わった時点では、4チームとも「何も始まっていない」というのが現状であろう。
硬くなってしまった原因。相手をリスペクトさせてしまった原因。そんな不安要素を払拭して、早く通常の力を出せる状態になったチームがこのグループを勝ち抜くことだろう。精神的なリカバリ—。そして、硬さを生んだ具体的な理由の追求。選手たちの気持ちを解放させるマネージメントの勝負でもある。
影山雅永監督の、持ち前の明るさがその方向に働くといいのだが……。
文:後藤健生
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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