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サッカー フットサル コラム 2019年4月23日

VARは必要ではあるが、なにしろ時間がかかる。その分を取り返そうというのが、今年のルール改正?

後藤健生コラム by 後藤 健生
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チャンピオンズリーグとプレミアリーグにまたがった、マンチェスター・シティとトッテナム・ホットスパーの連戦は素晴らしいスペクタクルだった。2018−19シーズンの最大の記憶として、人々の心に長く残る試合となっていくのであろう。同じ2チームが(もちろん、メンバーは多少入れ替わったが)同じスタジアムで戦っても、一方の試合は壮絶な点の取り合いとなり、次の試合は最少得点の「1対0」というスコアになる。「チームというのは生き物」ということがよく言われるが、試合というものも、また、一つの生き物なのである。

さて、その2連戦の最初の試合では、最後の最後でVARによるドラマが起こった。

「またか!」と思った方も多かっただろう。だが、あそこで誤審が起こって、それによってあの名勝負が決着していたら、後でどんな騒動が起こっていたか。歓喜の瞬間から暗転させられたマンチェスター・シティのサポーターからすれば、がっかりもしただろうし、不満もあっただろうが、ビデオでの確認の後の決定であれば諦めもつくことだろう。僕は、もともと(10年以上前から)ビデオ判定導入論者だったからでもあるが、やはりVARは必要なものだと思う。

複雑なのは、国によって、リーグによって、大会によって、VARが導入されている試合とそうでない試合があることだ。たとえば、同じUEFA主催のカップ戦でも、チャンピオンズリーグではVARが投入されているのに、ヨーロッパリーグではVARが使われていないのだ。

ヨーロッパリーグの準々決勝、フランクフルト対ベンフィカの試合におけるフランクフルトの先制ゴールは明らかなオフサイドの見逃しだった。VARがあったら、即座に取り消されるはずの判定だったが、この大会ではVARが導入されていなかったので、ゴールが認められ、そして、フランクフルトがファーストレグのアウェーゴールを生かして勝ち抜きを決めた。ベンフィカ側からすれば、「なんでこの大会にはVARがないんだ!」ということになる。

もちろん、コストの問題もあるのであらゆる大会にVARを採用するのは不可能なことだ。VARの採用のためにはかなりの大掛かりな機材と数名の専門家を必要とするのだから、下部リーグでこれを実施するのは難しいだろう。

それなら、もっと簡易的なビデオ判定、つまり1台か2台のカメラと1人の審判で行う方式もあっていいのではないか。本格的なVARのようにはいかないにしても、1台のカメラさえあれば、あのフランクフルトのゴールがオフサイドだったことはすぐに分かる。

実際、下部リーグでは第4審判がいない試合も多いし、場合によっては主審1人ですべての判定を行っていることもあるのだから、「簡易VAR」というのがあっても良いように思うのだが……。

VARの問題点は判定に時間がかかってゲームの流れが途切れてしまうことだ。それは、導入前から言われていたことであり、ビデオ判定反対論の最大の論拠ともなっていた。ビデオ判定導入論者だった僕も、やっぱり今のVARは時間がかかりすぎると思う。

VARが導入されて経験を積んでいけば時間はだんだん短縮され、判定がスムースになっていくだろうと期待していたのだが、そうはなっていない。むしろ、最初のころより時間がかかるようになっているような気さえする。VARを巡って後から議論が巻き起こることが多いので、審判員が余計に慎重になっているのではないだろうか。

判定までの時間短縮。それが、VARの大きな課題だ。それなら、ピッチ上の主審ではなく、ビデオ審判に最終的な決定権を与えてしまうという方法もあるのではないか。

大昔のサッカーでは両チームから1名ずつのアンパイアがピッチ上でジャッジを行っていたのだが、そこで問題を解決できない場合に、ピッチの外にいる中立の人物にお伺いを立てていた。お伺いを立てることを英語で「レファー(REFER)する」と言い、お伺いを立てられる人のことを「レファーされる人=レフェリー(REFEREE)」と呼んだのが、今のレフェリー制度の始まりだった。そのうちに、レフェリーはピッチの外ではなく、笛を持ってピッチ上に下りて判定を下すようになったのだ。

同じように、ビデオを見ている人に最終決定権を与えれば、判定時間の短縮になるのではないか。

まあ、これはレフェリー制度の根幹に関わる議論になるから、簡単には決定できないだろうが、将来的にはそういった方向に進むような気はする。

さて、「VARに時間がかかるから」かどうかは知らないが、2019−20シーズンから適用されるルール改正をみると、時間の短縮が意識されているようだ。

たとえば、選手交代の時に、今は退く選手はハーフライン付近からピッチを去るが(反対側のタッチラインから出ていくこともあるが)、これからは退く選手は一番近い場所から出ていかなければならなくなる。退く選手がハーフラインまでゆっくりと歩いて時間稼ぎをするお馴染みの光景も見収めとなるのだ。

あるいは、レフェリーボールは、主審がボールをキープしていた側の選手に直接返すことになる。ボールを渡されたチームの選手が相手GKまで蹴ってボールを返したり、あるいはボールを返さないでそのまま攻撃に移ってブーイングを浴びるといったことはなくなる。

数年前にあったキックオフのルールの改正もそうだった。改正以前は、キックオフする選手がわざわざ相手陣内に短く蹴って、それをもう一人の選手がバックパスしていたのだが、そんな手間をかけずにキックオフのボールを直接後方の味方につないでもいいようになった。改正前のルール(キックオフは前方に蹴らなければいけない)は、ラグビーと同じようにキックオフのボールを相手陣内に蹴り込んでいたころの名残だった。レフェリーボールも、昔、ドロップボールと言って、レフェリーが落としたボールを両チームの選手が奪い合っていたころの名残だ。

そんな歴史的な理由によって存在していた余計で形式的なプレーをなくし、プレー時間を増やそうというのが、今回のルール改正の目的のようだ。FKの際に攻撃側の選手が壁の間に入れないようにするのも、そこで押し合いをして時間がかかるのを防ぐための改正だ。

だから、僕には、今回の改正は「VARで時間がかかるのを幾分でも帳消しにしよう」という改正のように思えたのだ。

ちなみに、日本ではこの改正は7月から適用されることになる見込み。また、5月のU20ワールドカップや6月の女子ワールドカップでも新ルールが適用されるという。

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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