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季節外れの寒気に包まれた4月10日の日本列島……。気温5度の氷雨が降りしきる中で行われたYBCルヴァンカップのFC東京対サガン鳥栖の試合を真冬用の防寒着を着込んで観戦してきた。
中盤でインテンシティの高いぶつかり合いが続いたが、互いになかなか思うようなチャンスが作れず、スコアレスドローも見えてきた矢先、後半の途中から投入された17歳の久保建英が自らが倒されて得たFKを左足で強烈に決めてFC東京に勝利をもたらした。
久保が右サイドに入ると、鳥栖の左サイド(つまり、久保の対面)のカルロ・ブルシッチがサイドハーフのイサック・クエンカとの関係を生かして盛んに仕掛けてくる。これに対して外へ開いたり、中に絞ったりと裏を取ろうとする久保。そして、まるでファウルを誘うためであるかのように相手のペナルティーエリア内でドリブルを仕掛け、そしてエリアを一歩出たところで久保が倒されてFKを獲得した。
こうした駆け引きもうまいのが、この17歳のすごいところ。そして、そのFKを一撃で決めてしまうあたり、まさに「持っている男」なのだろう。
久保以外にも、MF(いわゆるボランチ)として起用されたFC東京の岡崎新(20歳)は非常に丁寧で落ち着いた、そつのないプレーを披露。鳥栖の17歳の松岡大起も落ち着いたボールさばきを見せていた。若い選手たちが躍動したあたりも、YBCルヴァンカップという大会の趣旨にも沿った試合だった。
さて、この試合のもう一つの興味は、「ラグビーの聖地」秩父宮ラグビー場でサッカーの試合が行われたことだ。このスタジアムがサッカーの試合に使われたのは、1964年の東京オリンピックと、その前年にオリンピックのプレ大会として開催された東京国際スポーツ大会の時だけ。つまり、ここでサッカーが行われるのはなんと55年ぶりということになるのだ。
55年前の東京オリンピックでは、僕もサッカーの試合(ハンガリー対モロッコ)を観戦した。それが、僕がサッカーを好きになるそもそものきっかけだったのだが、その試合は国立競技場で行われたもので、秩父宮ラグビー場での試合は僕は見ていない。つまり、僕にとって、このスタジアムでサッカーを見るのは初めての経験なのだ。
もっとも、僕にとってもこのスタジアムは縁のない存在ではない。小学生の時、ラグビー協会がここで開いていた「秩父宮ラグビースクール」という催しに参加しており、毎週日曜日には秩父宮の芝生の上でボールを追っていたし、最近でも年に1、2回はラグビーの観戦に訪れている。
ただ、ラグビーを観戦する時はいつもバックスタンドの自由席だ。冬場の試合なので、陽が当たって暖かいし、バックスタンドの方が何か気楽に見ることができる。
つまり、メインスタンドにある記者席に座ってこのスタジアムを見たのは初めてだったし、ラグビーの試合の時に比べて短く刈り込まれた芝生には白線でサッカーのピッチが描かれていたので、とても新鮮に感じた。
問題だったのは、バックスタンドの照明塔の高さが低くて照明がまぶしかったこと。そして、何よりも気温が低くて寒かったことだけだ。
長方形のフットボールのピッチのタッチラインとゴールラインを取り囲む四角形のスタンド……。その雰囲気は、まさに本場イングランドにあるフットボール・グラウンドといったところだ。「スタジアム」と呼ぶより、「フットボール・グラウンド」と呼んだ方が似合いそうな雰囲気が醸し出されている。
記者席はメインスタンドの最上段に2列のデスクが置かれたもの。俯瞰的な位置からピッチ全体を見下ろすように眺めることができる。これも、まさに古いタイプのイングランドのフットボール・グラウンドの「プレスボックス」と同じような構造だった。
都心の一等地にイングランドのフットボール・グラウンドが現れた。そんな感覚を覚えざるを得なかった。ここを初めて訪れたサッカー専門記者たちも、「なんと見やすいのだ」と口をそろえていた。
FC東京の長谷川健太監督も「ロッカールームの施設なども立派で、階段を上ってフィールドに足を踏み入れていくときの感じがとてもよかった。ラガーマンが命を削って戦う気持ちが分かった」と絶賛していた。
秩父宮ラグビー場は1947年に完成したもので(当初は「東京ラグビー場」と呼ばれていた)、当時のラグビー関係者がかつてこの地にあた女子学習院が戦争で焼失した跡地を見つけて管理者である明治神宮と交渉。OBを中心に寄付を集めて建設費を調達し、最後は、ラガーマンたち自身も建設作業に加わって完成させたものだという。
まさに「ラグビーの聖地」であり、終戦直後の混乱期に「空襲で焼野原になってしまった今だからこそ可能なのでは?」と考えて、ラグビー場建設を企画したその先見性は尊敬に値する。
東京・青山という都心の一等地に、本場のフットボール・グラウンドを彷彿させる素晴らしい施設があるとは、サッカー関係者としてはなんとも羨ましい限りだ。建設に至る経緯を思えば、ラグビー関係者が「サッカーなんかには貸したくない」と思う気持ちは当然のことだとは思うが、ぜひ、ラグビーがシーズンオフの間だけでいいから、サッカーにも貸していただきたいものである。
秩父宮ラグビー場のそばには2020年の東京オリンピックのメインスタジアムとなる新国立競技場の建設が進んでいる。この新しいスタジアムはオリンピック終了後に球技専用のスタジアムに転用されるというが、陸上競技場として建設されたスタジアムではスタンドからピッチが遠いので秩父宮ラグビー場のような雰囲気は絶対に作り出せないはず。しかも、巨大すぎて、また使用料も高いのではサッカーに頻繁に使うことは無理だろう。
サッカー界としても、いつかは東京都内に秩父宮ラグビー場のような専用のグラウンドを作りたいものである。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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