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3月の代表戦シリーズ。日本代表は「宿敵」コロンビアに敗れてしまった。決勝点となったPKは相手の至近距離からのシュートがDF冨安健洋の腕に当たったもの。あの距離からの速いボールをよけることは不可能なだけに、PKの判定はかなり厳しいものだったと思う。かなり攻め込まれてはいたものの、与えた決定機は少なく、守備は機能していた。問題だったのは得点できなかったことの方だ。やはり、大迫勇也の不在の影響は大きかった。
コロンビア戦でワントップとしてテストされた鈴木武蔵はそのフィジカルの強さとスピードを生かして、コロンビアの強力DFにも脅威を与えており、「可能性」を感じさせたが、しかし、代表初出場では周囲とのコンビネーションは機能せず、決定機にもシュートを枠に飛ばすことができなかった。
続いて日本代表はボリビアと対戦したが、守りを固めるボリビアを崩せずに苦戦を強いられた。ワントップには鎌田大地が起用され、2列目には香川真司を中央に、右に宇佐美貴史、左に乾貴士とロシア・ワールドカップにも出場した経験のある選手が並んだ。
だが、それなりにボールは回るものの、「どうしてもゴールを陥れよう」という迫力ようなものが感じられなく、じれったい展開が続く。また固いブロックを崩すときの常套手段でもあるサイドからのクロスもアタッカーと合わない。「攻めてはいるが迫力を欠く」という、かなりフラストレーションがたまる試合だった。
そして、後半61分に中島翔哉と堂安律が投入され、7分遅れて南野拓実が入って、2列目には昨年秋以降、日本代表の攻撃の中心を担ってきた若手が登場した。
すると、76分に堂安から南野、中島とドリブルとパスが縦につながって待望の得点が生まれた。もちろん、それまでの日本の度重なる攻撃をスライドしながら耐えていたボリビアの守備陣がかなり疲労を溜め込んだ中で若手3人が投入されたという事情は割り引いて考えなくてはいけないが、香川中心のベテラン3人の時に比べて若手3人の方が間違いなく攻めの迫力があり、これが相手のミスパスを誘発した。
若手3人に交代してすぐの先制ゴール……。まさに「新旧交代」を実感させるような場面だった。
日本代表が南米の2チームに苦労した3月シリーズだったが、お隣の韓国では韓国代表がボリビア、コロンビアと連戦して、ボリビアには1対0、コロンビアには2対1と連勝を飾った。
韓国代表は1月のアジアカップ(韓国は準々決勝敗退)の時のメンバーをそろえたベスト布陣で戦っていたのだ。ボリビアとの初戦とコロンビア戦で5人先発を変えたが、やはりこれまでにやって来た蓄積があるのだろう。2試合とも韓国の完勝と言ってもいいような試合をやってみせた。
なにしろ、韓国はこれまでの国際試合とほぼ同じようなメンバー構成であり、やはり日本代表とは成熟度が大きく違った。そして、今や、「韓国の」というより「アジアの」と言ってもいいスターとして存在の重みを増しているエースのソン・フンミン(孫興民)も2試合にフル出場し、コロンビア戦では先制ゴールを決めている。
イングランド・プレミアリーグのトッテナム・ホットスパーでもエース格のソン・フンミン。トッテナムはすでにチャンピオンズリーグでも準々決勝に進出しており、高いレベルの試合が続く厳しいスケジュールの中で代表戦のために長距離移動を強いられ、2試合フル出場。1月のアジアカップでもマンチェスター・ユナイテッド戦を終えてからアブダビまで移動して中3日で中国戦にフル出場という使われ方をしている。驚くべきタフネスぶりだが、どうしても疲労や故障が心配になってしまう。
これに対して、日本代表の森保一監督は「気配りの人」と言われる通り、選手の招集についても選手に対して実に優しい(監督本人の言葉によれば「選手ファースト」)。
昨年のロシア・ワールドカップと1月のアジアカップの両方に出場している選手は、オフが短かかったうえに代表の負担が重なっている。そうなると選手のパフォーマンスにも影響するし、クラブでのポジションを失いかけている選手もいるのだ。そうした諸々の負担を考えて、森保監督は3月のシリーズではこうした主力級の招集を免除したのだ。
ボリビア戦で先発した2列目の香川や乾、宇佐美。それに、コロンビア戦でワールドカップ以来のプレーを見せた昌子源などは、アジアカップに呼ばれていなかった選手だ(柴崎岳は代表にずっと呼ばれているが、これはクラブで出場機会が少なかったからか?)。
つねにベストメンバーで戦って勝ち続けようという韓国(もっとも、アジアカップでは主力を休ませなかったツケが回ってきて、ソン・フンミンなどに疲労がたまり、準々決勝で敗退)。そして、選手の負担を軽減しながらチーム作りを進める森保監督。
どちらが良いのか、それは結果——つまり2022年のワールドカップを見なければならないが、少なくとも日本のやり方の方が選手層は厚くなるだろう。アジアカップに向けて作られたチーム。そこに、3月シリーズで選ばれた選手たちを加えて、これからの日本代表は進んでいくはず。秋以降の戦いでは、この2つのチームの中から監督の目に叶った選手たちが選ばれて、その後、ワールドカップ予選を戦っていく中で次第にメンバーが絞られていくのであろう。
ボリビア戦などは、とても面白い試合とは言えなかったが、監督にとっては多くの情報を得ることができた試合だったはずだ。「この選手は使える!」という嬉しい発見はもちろん、「この選手は国際試合では使えない」という発見ですら、森保監督にとっては貴重な収獲だったはずだ。
招集した選手をフィールドプレーヤーは全員起用し、その中でも選手交代のタイミングを微妙に調整した。たとえばボリビア戦では61分に中島と堂安を先に投入して、その後南野投入を68分まで遅らせて、わずか7分間だけだったが香川を中心において両翼に中島、堂安を置く形もテストした。こうして様々な組み合わせを観察しながら戦った森保監督のチーム作りの手腕は見事だった。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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