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アジアカップの準々決勝で韓国とオーストラリアが相次いで敗退した。
前回優勝のオーストラリアは大会初戦でもヨルダンに敗れており、「番狂わせ」感には乏しいかもしれないが、孫興民(ソン・フンミン)も第3戦から加わった韓国は「これで万全か」と思われたのだが、カタールに敗れて早くも姿を消すこととなった。
韓国とカタールの試合も、オーストラリアとアラブ首長国連邦(UAE)の試合も、どちらも格上の韓国、オーストラリアがボールを握って攻めてはいたが、相手の「一発」に沈んだ(とくに、オーストラリアはバックパスを拾われた痛恨の失点だった)。失点の形はともかく、ともにフィニッシュ段階の精度が悪く、なかなか点が取れなかったのが敗因だ。
前回のコラムで孫興民のことを書いた。韓国のパウロ・ベント監督は孫興民をフリーマンとして起用し、右サイドにいたかと思えば、左サイドに顔を出すなど縦横無尽の活躍は見せたものの、トッテナム・ホットスパーで点に絡んでいる時のようなキレ味が感じられなかった。やはり、プレミアリーグで1月13日のマンチェスター・ユナイテッド戦まで出場して、すぐにUAEに移動しての強行出場というのはスケジュール的に厳しすぎたのではなかろうか。「消化試合」だった中国戦は休ませて、決勝トーナメントから起用した方がよかったのではないかと思うが、これは結果論である。
さて、前にもこのコラムで書いたこともあると思うが、アジアのサッカーはもう20年以上にわたって日本、韓国、イラン、サウジアラビアの「4強」に支配されており、2007年にオーストラリアがアジア連盟(AFC)に加盟してからは「5強」となった。
1993年のアメリカ・ワールドカップ予選、つまりあの「ドーハの悲劇」のあった大会では日本は3位に入ったが、ワールドカップ出場権獲得を逃した。当時、アジア枠はたったの2つだったのだ。サウジアラビアが1位でワールドカップ出場を決め、韓国が2位。日本が3位で4位がイラン。つまり、当時の「4強」が上位を独占した。
そして、次のフランス・ワールドカップ予選では韓国とサウジアラビアが各グループ首位で予選突破を決め、ジョホールバルで行われた第3代表決定戦で日本がイランに勝ってワールドカップ初出場を決めたのだ(4位となったイランも、その後、オセアニア代表だったオーストリアを破ってフランス行きを決めた)。つまり、4年前のドーハでの予選と順位まで一緒だったわけだ。日本が出場権を獲得できたのは、ワールドカップの出場国数が1998年のフランス大会から32に拡大され、アジアにも3・5の枠が与えられたからにすぎなかった。
その後も、アジアでは「4強」(2007年以降は「5強」)がワールドカップ出場枠を独占し続ける。
「5強」でワールドカップ出場を逃したのは、2010年南アフリカ大会のイランと2014年ブラジル大会のサウジアラビアだけであり、2018年のロシア大会には見事に「5強」が顔をそろえてアジア代表として出場している。
ところが、この間に行われたアジアカップでは必ずしも「5強」の独占というわけではなかった。さすがに、「5強」以外で優勝を遂げたのは2007年の東南アジア共同開催の大会でイラクが決勝でサウジアラビアを破って優勝した時だけで、他の大会は「5強」が優勝している。ただ、「5強」がベスト4に勝ち残れなかったこともかなりあるのだ(たとえば、2015年大会の日本は準々決勝でUAEにPK戦で敗れて、ベスト4の座を逃している)。
現在UAEで行われている2019年大会でもオーストラリアが初戦でヨルダンに敗れたり、韓国がフィリピンに苦戦したりと強豪が苦しんだ。日本も5連勝でベスト4に勝ち上がってきたが、一つひとつの試合を見るとトルクメニスタンやオーマン、ベトナムといった格下に思わぬ苦戦を強いられている。
そういった現象を見ると「アジアのレベルも上がっている」という常套句が頭をよぎるかもしれない。だが、アジアカップでの「5強(もしくは4強)」の苦戦は、何も今回に限ったことではないのである。
アジアカップでの強豪国の苦戦の原因。それは、一言で言えば「準備不足」の一言に尽きる。
たとえば、準々決勝で敗退したオーストラリアは登録23人中、オーストラリア国内でプレーしている選手はたった1人だけ。他は、ヨーロッパ各国リーグやJリーグのクラブでプレーする“海外組”だ。全員が集合して合同トレーニングをする暇もなく大会に突入してしまったおかげで、コンディションも万全ではなかったし、戦術の浸透も十分でなかった。日本や韓国も同様だ。そして、3か国ともワールドカップ終了後に新監督が就任しており、アジアカップが1月に開催されたため、チーム作りも十分に進んでいなかった。
これに対して、サウジアラビアは全員が国内組。イランも国内組をベースに海外組が何人か入る構成だったし、両国ともロシア・ワールドカップを戦ったチームをベースに監督も交代していない。
そして、ワールドカップ出場権を獲得できなかったチームは、このアジアカップを目標に予選から同じ監督の下で戦ってきており、この大会のために十分な準備期間を経て参加しているのだ。彼らにとっては「アジアカップ」というのは大きな目標なのだ。たとえばベトナムがアジアカップで日本と戦うというのは、日本人にとって「ワールドカップでベルギーと戦う」のと同じくらいのビッグマッチなのだ。
それでも、日本はベスト4まで勝ち残り、韓国もオーストラリアも準々決勝で敗れたものの、内容的には優勢に試合を進めていた。アジア大陸では、「5強」の寡占状態がこれからも続くのではないか。
4年後のアジアカップは韓国開催が濃厚で、開催時期も1月ではなく6月となる見通しだ。6月開催となれば、強豪国も“海外組”を含めた合宿を組むことができるし、新監督の下でチーム作りが進んだ状態で大会を迎えられる。そうなれば、アジアカップでも「5強」が上位を独占する可能性がある。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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