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アジアカップが開幕した。
開催国アラブ首長国連邦(UAE)はバーレーンと引き分け、前回王者のオーストラリアはシリアに敗れた。さらに、韓国もフィリピン相手になかなか先制点が奪えずに1対0の辛勝……。強豪国が初戦で苦しんでいる。
強豪国が苦戦しているのは各国ともコンディション的にまだ仕上がっていないからだ。
強豪国は2018年にはワールドカップに出場した。そして、日本もそうだが、新体制に切り替わって時間が経っていない。しかも、選手の多くが欧州クラブで活躍しているので、集合してからの準備期間が足りず、これも日本代表と同じく国内組と海外組のコンディションのバラつきが解消されていないのだ。
日本代表もグループリーグの3試合は、ウズベキスタンを除いてそれほど難しい相手ではないが、やはり素晴らしい内容での快勝は期待できないのではないか。日本代表も、「まだまだ調整中」と見るべきだ。
シーズンオフ中のJリーグ所属の選手たちのコンディションはなかなか上がらない。これまでも1~2月に開催された大会では日本代表はいつの時代にも苦しんできた。たとえばACLでも、開幕直後の2~3月の試合では日本のクラブはいつも苦戦を強いられる。
「海外組」はシーズン真っ最中でコンディションに問題はないはずだが、長いウィンターブレークがあるリーグの選手たちは実戦から遠ざかってしまっているし、一方で年末年始の連戦を終えて現地で日本代表に合流したばかりの選手は(移動の負担を含めて)疲労が蓄積しているはずだ。さらに、日本代表の場合、開幕直前になって故障のために2人の選手が緊急招集される事態となった。
もちろん、状態は12月末の国内合宿当時よりはるかに上がってはずだが、まだまだバラつきは否めない。グループリーグ3試合を通じてコンディションを上げて決勝トーナメントに入るころに全体が仕上がればいいのだろう。
日本代表は森保体制発足以来5試合を戦って4勝1分と好調だ。それも、大迫勇也をトップに2列目に堂安律、南野拓実、中島翔哉を並べた若手「カルテット」による小気味よい攻撃サッカーで勝利を重ねてきた。世界最高のDFディエゴ・ゴディンを擁するウルグアイからも4ゴールを奪ったのだから、その攻撃力は本物と言っていい。
アジアカップでも、中島は残念ながら離脱してしまったが、その攻撃サッカーで対戦相手をぶっちぎって圧勝してくれれば言うことはない。
だが、親善試合とタイトルマッチは違う。
たとえ格下の相手とはいえ、屈強なDF陣が反則覚悟で止めに来たとき、南野や堂安、あるいは乾貴士、伊東純也らのドリブルだけで簡単に勝ち抜けると考えるのはあまりに楽観的すぎる。
もし、あの攻撃的な攻撃が止められてしまった時にどうするのか。つまり、「プランB」を用意できるか否か。それが、優勝へのカギとなるはずだ。
そういう場合には一時的に試合のテンポを変えてゆっくりつなぐことによってリズムを取り戻せばいい。もし遠藤保仁や長谷部誠のような選手がいれば、試合展開に合わせて自在にリズムを変えることができるのだが、今のチームでその役割を果たせるのは青山敏弘くらいしか思いつかない。柴崎岳がそういう役割を果たせるようになれば、それは立派な「プランB」となるのだが……。
メンバー交代を使って流れを変えることも考えられるが、11月シリーズのベネズエラ戦とキルギス戦ではレギュラーとして使われている「カルテット」と、それ以外の選手による「第2FW」の戦力差が大きいことを露呈してしまった。
森保監督が率いていた当時、サンフレッチェ広島は慎重に後方でつなぎながら、相手の隙を見つけて一気にテンポアップするサッカーを展開していた。それができれば立派な「プランB」となるのだが、森保監督はA代表ではまだ一度もそういうサッカーを試していない。
森保監督にとっては就任以降初めてトレーニングに長い時間を割ける直前合宿および大会期間中に戦術の浸透を図ろうと考えているのかもしれないが、新戦術をこなすのはそれほど容易なことではないだろう。
もし「プランB」が用意できずないまま大会に突入したら、決勝まで7試合を戦わなければならない日程の中で若手「カルテット」への負担が大きくなりすぎる。前回2015年のオーストラリア大会ではハビエル・アギーレ監督がメンバーをほぼ固定して戦ったため、準々決勝では疲労で足が動かなくなり、UAEによもやの敗戦を喫してしまった。その二の舞を避けるためにも「プランB」の確立が必要となる。
いずれにせよ、森保監督以下スタッフにとっては、コンディション調整が難しい大会となるだろう。
しかし、ここで経験したことは3年10か月後に日本代表にとって大きな意味を持つ。次回のワールドカップは2022年11月にカタールで、つまり今回のアジアカップと同じ「冬場の中東」で開かれるのだ。2022年のJリーグの日程がどうなるのかまだ決まっていないが、おそらくワールドカップ前にシーズンは終了となるだろう。そうなると、シーズンオフに入ったばかりの国内組とシーズン中の欧州組を融合させるという課題も今回と同じということになる。つまり、今回のアジアカップは次のワールドカップへの絶好のシミュレーションとなる。そして、他大陸の強豪国は「冬場の中東」で長期の大会を戦うという経験ができないのだ。その点で、今回のアジアカップでの経験を生かすことができれば、日本にとってはアドバンテージとなる。その日のためにも、じっくりと調整しながら7試合を戦って、タイトルを奪っておいてほしいものである。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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