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アラブ首長国連邦(UAE)を舞台に、FIFAクラブ・ワールドカップが開催されている。
日本からは、アジア・チャンピオンズリーグ(ACL)を制覇した鹿島アントラーズが参加して準決勝でレアル・マドリードと対戦。南米代表を決める「コパ・リベルタドーレス」の決勝ではアルゼンチンのスーペルクラシコが実現し、ボカとリーベルのサポーターの暴力沙汰のおかげで決勝戦のセカンドレグが中立地のマドリード開催になり、ようやくリーベルが南米代表に決定したものの、準決勝で開催国王者枠のアルアインに敗れ去ってしまうなどと、話題には事欠かない。
クラブ・ワールドカップは、日本で長く開催されてきただけにわれわれにとっても馴染みの大会でもある(最後の日本開催となった一昨年の大会では、鹿島がレアル相手に大健闘したことで長く記憶されるはず)。前身の「トヨタカップ」を含めれば、日本人はクラブ世界一決定戦を30年以上にわたって観戦してきたのだ。
しかし、FIFAはこのクラブ・ワールドカップを大規模化して、4年に一度の開催に変更することを計画している。従来のように、各大陸王者を集めて毎年開催されるという形式の大会は、今年の大会で最後になる可能性もあるのだ。
本来、FIFAはFIFAワールドカップなどナショナルチーム同士の大会を主催してきたのだが、ヨーロッパでチャンピオンズリーグが財政的にも大成功を収める、ナショナルチームの大会を凌ぐ規模になったとみるや、FIFAはヨーロッパ連盟(UEFA)に対抗するかのようにクラブレベルの大会開催に熱心になってきたのだ。
巨額の富を生み出すクラブの「世界一決定戦」を巡って、FIFAとUEFAの対立と確執はこれからも続いていくことだろう。過密日程に苦しめられる選手の立場やファン、サポーターの立場にも十分に考慮されるといいのだが……。
そんな中、先月には「ヨーロッパ・スーパーリーグ」構想が報道された。
レアル・マドリードやバルセロナ、マンチェスター・シティやマンチェスター・ユナイテッド、バイエルン・ミュンヘンなどヨーロッパ各国を代表する16のメガクラブが、従来の国内リーグ(プレミアリーグやリーガエスパニョーラ、ブンデスリーガ)の枠組みを離れて新しいリーグ戦を発足させるというのだ。
構想自体には、目新しさはまったくない。
僕が、海外のサッカーに興味を持ち始めた1970年代の初めころから、当時定期購読していた『ワールドサッカー』誌でも話題になっていた。その後も、数年に一度は必ず話題になり、そしていまだに実現できない夢物語の一つである。
面白いのは、これまで様々な局面で確執を繰り広げてきたFIFAとUEFAが「スーパーリーグ反対」では一致して反対に回り、もしこの「スーパーリーグ」に加盟するなら、FIFAは参加した選手たちをワールドカップにも参加させないなどと言われている。
既得権益を守るという立場で、FIFAとUEFAは見事に一致したわけだ。
だが、僕はこの「スーパーリーグ」構想はぜひ実現すべきだと思う。40年前には不必要だったかもしれないが、今のヨーロッパ各国の主要リーグの状況を見ると「時代が変わった」ことは明らかだ。
1990年代にテレビマネーが流入することによって、ヨーロッパのサッカー界はすっかり様変わりした。巨額の資金を得たメガクラブはますます強大化し、他のクラブとの戦力差は拡大の一途をたどっている。今シーズンの各国リーグを見ても、イタリアはユベントス、フランスはパリ・サンジェルマンが圧倒的なポジションにいる。ドイツではバイエルンが低迷したおかげでブンデスリーガは混戦模様だが、イングランドのプレミアリーグはリヴァプールとマンチェスター・シティの一騎打ちなど、各国とも優勝を狙える戦力を持つクラブは1つか2つに絞られてしまっているのだ。
そんなリーグが面白いのだろうか?
日本のJリーグは川崎フロンターレがあっさりと優勝を決めたものの、ACL出場が懸かる3位争いやJ1残留争い、J2上位による昇格争いが最後まで大接戦となった。つまり、Jリーグは実力差のないリーグなのだ。そして、僕は本来リーグ戦というのはこうあるべきだと思っている。
最近サッカーに目覚めた若いファンは、ヨーロッパの状況を見慣れているので「リーグ戦には圧倒的な王者が存在するのが普通で、Jリーグがおかしい」と思っている人もいるようだが、話は逆だ。リーグ戦は混戦の方が面白い。
たとえば、横綱制度がある大相撲だって最近は横綱たちの不調で大混戦。11月の九州場所では22歳の貴景勝。数年前だったら「白鵬の優勝は当たり前」だったが、そんな時代よりも混戦の方が面白いと、僕は思う。
だから、ヨーロッパのサッカー界もメガクラブを集めて、大混戦必至のリーグ戦を作った方が面白いのではないか。そして、こうしたメガクラブが抜けた各国リーグは、こちらも「スーパーリーグ昇格」を懸けて大混戦を繰り広げればいい(昇降格の道はぜひとも残すべきだ)。
EU(ヨーロッパ連合)の統合が進んだヨーロッパは1つの連邦国家のようなものだ。通貨もほとんどの国で共通化され、国境も自由に移動できる。
もっとも、各国でポピュリズム政党が台頭しており、EU統合の将来は見通しがきかない。
あまりにも急激に加盟国を増やしすぎたことや、財政・金融政策は各国政府の手に委ねながら共通通貨(ユーロ)を導入した矛盾など多くの問題を抱えるEUだが、英国の離脱を巡って交渉が暗礁に乗り上げてしまったことでも分かるように、統合は後戻りできないところまで来ているのだ。独自通貨ポンドを残しているなど比較的独立性の強かった英国ですら、離脱は容易ではないのだ。まして、ドイツやフランスがEUを離脱することはもはや不可能に近い。
それなら、サッカーのリーグ戦もナショナルなものにこだわらずに、ヨーロッパ・リーグを創設してもいいのではないか。いや、ヨーロッパ統合の象徴としてサッカーのヨーロッパ・スーパーリーグが存在すべきでさえある。
既得権益を守りたいFIFAやUEFAとメガクラブの間のこれからの攻防に注目したい。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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