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11月の国際試合で、日本代表はベネズエラとは引き分けに終わったものの、格下のキルギスには完勝。森保一監督が就任してからの5試合で4勝1分無敗という成績となった。アジアカップに向けて、一見、万全の態勢で強化が進んでいるように見える。森保監督がもともとすばらしい人間性を持つ人格者であるだけに、批判の声もほとんど聞こえてこない。
だが、チーム強化の方向性を考えるとすべてが順調とは言えないのではないだろうか。
多くの人たちが抱いている疑問の一つが、この5試合を通じて、森保監督が一度もスリーバックにトライしようとしなかったことだ。
ベネズエラ戦、キルギス戦に向けてのメンバーが発表されたとき、多くの評論家や解説者が「今回はスリーバックを試すだろう」と言ってい。2試合目の対戦相手であるキルギスは明らかに日本より格下で、新しいことにトライするには格好の相手と思われたからだ。
実際、キルギスとの実力差ははっきりしていたのだが、しかし、これまで出場機会の少なかった選手を先発させたものの布陣は「4-2-3-1」のままだった。
サンフレッチェ広島時代、森保監督は独特の「3-4-3」を駆使して戦っていた。そして、昨年秋にU-20(現在のU-21=東京オリンピック世代)代表監督に就任した森保監督は、早速、スリーバックを採用して「森保監督らしいサッカー」を展開していた。だから、当然、フル代表でもスリーバックを取り入れるだろうと誰もが思っていたのだ。
しかし、システムだけでなく、しっかりボールを保持するかつてのサンフレッチェ広島のサッカーを知る者にとっては、アップテンポな日本代表のサッカーは「森保っぽくない」という印象を受ける。
フル代表監督に就任した森保監督は、まず選手たちに自分たちの個性を発揮するように求めた。そして、2列目に配された若い選手たち(中島翔哉、南野拓実、堂安律)が積極的に前に仕掛けるプレーを存分に発揮してフル代表は快進撃を続けることとなった。
競馬でいう「馬なり」の状態だ。
手綱をしごいたりして、無理に馬を走らせるのではなく、馬の気持ちのままに走らせるという調教方法のことだ。
そして、「馬なり」の戦いが予想以上の成果を生んだことで、森保監督は(少なくとも当面は)チームに自分のやり方を押し付けることは避けて、そのまま選手の気持ちを大事にした戦い方を続けているのだろう。
若い2列目の3人とワントップの大迫勇也が絡む攻撃のカルテットは、プレーしていても、見ていても楽しい攻撃的なサッカーで結果を出しているのだから、森保監督の選択は正解と言っていい。自分のやり方を貫くことも大事だが、選手の個性を生かすことも、うまく流れに乗ることも監督の重要な資質である。
だが、こうして順調に結果を出し続けた中でどういう現象が起こったかというと、前線のカルテットの完成度が上がると同時に、他の選手との間の差が明確になってしまったのだ。
それを象徴するような試合となったのがキルギス戦だった。
ほとんど攻撃に出てこない(90分でシュートは1本だけ)キルギスを相手に、19分までに幸先よく2点を奪った日本代表だったが、その後はラストパスやシュートの精度を欠き、無理な縦パスを入れては跳ね返され、ドリブルで突っんではつぶされる拙攻の連続。
ところが、業を煮やした(?)森保監督が59分に大迫、堂安、柴崎岳、72分に南野、中島を投入して「レギュラー」のカルテットを並べると、途端に大迫、中島が連続ゴールを決めてしまったのだ。
「レギュラー」の攻撃陣と、「二軍」の差を誰にでも分かるほどまざまざと見せつける形となった。「誰にでも」というのは、「素人目にも」という意味でもあるが、同時に「選手たち自身にも」という意味でもある。そして、試合後の会見では、森保監督自身も2つのセットに「『力の差』がある」と認めてしまったのだ。
新チームを結成した直後の今の段階で「レギュラー」と他の選手の間に大きな差が生じてしまうというのは決して望ましいことではない。今の時期には、大きなグループが作られ、その中で競争が熾烈になっているというのが理想の形だ。
そもそも、11月の2試合の選手起用も疑問を持たざるを得ないものだった。
森保監督はベネズエラ戦では現時点での最強メンバーを並べた(ただし、欧州組は集合直後の金曜日の試合だったためにコンディションが悪く、これまでの試合のようには機能しなかった)。そして、終盤にはレギュラーのカルテットを退けて、杉本健勇、北川航也、伊東純也、原口元気を投入した。続くキルギス戦では、杉本以下の「控え組」を先発させ、終盤に「レギュラー組」を投入したのである。つまり、森保監督自身が選手たちに「レギュラー組」と「控え組」というレッテルを張ったようなものだ。
たとえば、ツートップは1試合目は大迫と北川を同時に使い、2試合目では杉本と南野で戦うといったように、レギュラー組と控え組を組み合わせて使えば、新しい組み合わせで、また違った化学反応を起こすことも考えられたのだが、レギュラー組と控え組を完全に別扱いしてしまったのでは両者の差を固定化してしまうばかりだ。
チーム内に競争を強いるためにも、あのレギュラー組のカルテットを脅かす選手を加える必要がある。それには、例えばワントップでは武藤嘉紀(ニューカッスル・ユナイテッド)や久保裕也(ニュルンベルグ)、鈴木優磨(鹿島アントラーズ)といったように、可能性のある選手を早急に招集すべきだろう。とくに、大迫に代わるワントップ候補の発掘は喫緊の課題だ。もちろん、1月のアジアカップで、森保体制で招集歴のない選手をいきなり使うにはリスクもあるのだが……。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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