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マンチェスター・シティがホーム、エティハド・スタジアムにユナイテッドを迎え撃った「マンチェスター・ダービー」は、シティが3対1で完勝した。この試合に勝利して勝点3を積み上げて首位の座を守っただけでなく、ライバルとのチーム力の差を完全に見せつけた。いや、ユナイテッドとの比較という意味だけでなく、チームとしての絶対的な完成度の高さを見せつけたというべきだ。
本当に素晴らしい内容の試合だった。
マンチェスター・シティの良さが堪能できたのは、ユナイテッドのジョゼ・モウリーニョ監督がゴール前にバスを並べたりしないで、シティのビルドアップに対して前から激しいプレッシングをかける守り方を選択してくれたおかげでもある。
中盤にアンデル・エレーラを起用したのも、中盤での守備強化のためだった。そして、キックオフ直後から、高い位置でマンチェスター・シティのボール回しに対してプレスをかけてきたのだ。ところが、このユナイテッドの激しいプレッシングをシティはまったく苦にしなかった。
いや、「苦にしなかった」という表現では現実をうまく描写できていないかもしれない。激しいプレッシングをかいくぐって単にボールをつなぐだけではなかったのだ。試合開始からわずか1分15秒後には、はやくもダビド・シルバが抜け出して決定的なシュートを放った。そして、12分(時計の針が11分を回った直後)には、早くも先制ゴールが生まれた。
左のラヒーム・スターリングから逆サイドへの高速のクロスをベルナルド・シウバが折り返し、ダビド・シルバが落ち着いて仕留めたものだ。
まず、目を引くのはパスやクロスの球速であろう。日本の育成の場でもよく「パス・スピード」なる言葉が使われるが、まさにコントロールするだけでも難しいようなスピードのパスが行きかっているのだ。マンチェスター・ユナイテッドほどのチームが、激しくプレッシングをかけてくるのをかわそうというのだから、当然それくらいのパス・スピードが必要なのだろう。
そして、単にパスをつなぐだけでなく、相手の守備の組織を破るためには、パスの受け手の高速のランニングも有効だった。
たとえば、開始直後のダビド・シルバのシュート場面がそうだ。DFとDFの間のスペース目掛けてダビド・シルバが全力疾走する。そして、その走り出しと同時に縦への鋭いパスが通ってくるのだ。
トップに張っている、銀髪のアグエロが下りてスペースを作る(そのアグエロが下りてくるために走る場面自体がすでにかなりのスピードなのだ)。そして、その開いたスペースに2列目の選手が全力で走り込む。そして、そこに高速のパスが通る……。
日本のサッカーは「パス・サッカー」を志向している。
ハリルホジッチ監督時代にはデュエルが強調されたが、ロシア・ワールドカップでの「成功」を踏まえて、今は再び「パス・サッカー」志向に回帰している。だが、常にパス・サッカーを批判する声があることも事実だ。「パス・サッカーだけでは相手を崩せない。個の強さを求めるべきだ」というのだ。ハリルホジッチ監督解任直後には短期的にではあるが、そんな声が高まり、解任反対を唱える人もいた。
たしかに、ただボールを回すだけの「パス・サッカー」では強力な守備を崩すことは不可能だろう。だが、マンチェスター・シティの攻撃を見ていると、「あれなら、どんな強力な守備でも崩せるだろう」と思えてくる。実際、高速のランと高速のパスを組み合わせて、彼らはモウリーニョが構築した守備の網を完全に切り裂いたのだ。
マンチェスター・シティのサッカーは、「究極のパス・サッカー」であり、「パス・サッカーの目指すべきところ」とでも言うべきであろう。
だが、もちろんそれだけ高速のランを90分を通じて継続することは難しい。実際、今回のマンチェスター・ダービーでも、時間帯によってマンチェスター・シティは戦い方を微妙に変化させた。
そして、攻守が入れかわる場面では、彼らの守備の組織の素晴らしさを見せつけた。
マンチェスター・ユナイテッドがボールを奪ってカウンターをしかけようとすると、彼らはすぐにシティの青いシャツに取り囲まれてしまう。全力で駆け戻るわけではないのに、ボールの周りにはシティの選手の人垣ができてしまうのだ。
相手を囲い込んで、余裕を持って守備をしているから、シティの選手は反則を犯さないし、ボールを奪った瞬間には前を向いてボールを持てるから、すぐに攻撃に展開できるのだ。
ボールの周りに選手が集まって、ユナイテッドがパスを回すとシティの選手の輪が解かれて、ピッチ上の別の場所——ボールのある場所に輪ができる……。実に組織的で、秀逸な動きだった。
「立体視」というのを御存じだろうか? 意味のない模様などが印刷してある画面を、両目の視点の焦点を合わさずに眺めていると、そこに立体的な模様などが浮かび上がって見えてくるというアレである。両目の視線を平行にするように見るのがコツだ。単なるパズルだけでなく、立体地図を見るなど実用にも使える。
僕は、あのマンチェスター・シティの守備の組織のように離合集散を繰り返す組織的なサッカーを見るときに、あの立体視のような見方をすることがある。ボール、あるいはボールを持った選手、そこにプレスをかけに行くDFなどに焦点を合わさずに、全体を立体視する時のような感覚で眺めるのだ。どの選手が誰なのかは分かりにくいが(シティのように個性的な選手たちであれば、それでもかなりの程度はわかる)、チーム全体が離合集散する姿を見ることができる。
今回のマンチェスター・ダービーの場合は、僕は最初は普通に試合を見て、その後、録画で見た時にはなるべく立体視的な見方でシティのチームとしての動きを観察・堪能した。
ちなみに、スタジアムでの生観戦では立体視的な見方は難しい。テレビ観戦ならではの楽しみである。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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