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鹿島アントラーズが、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)の準決勝で韓国の水原三星(スウォンサムソン)ブルーウィングスと壮絶な撃ち合いを制して決勝進出を決めた。
ホームで行われたファーストレグでは立ち上がりに不用意な2失点を許したものの、そこから反撃に移り、残り時間わずかとなってから2点を奪って3対2と逆転勝利。だが、水原には貴重なアウェーゴールを2点も与えてしまった。
そして、アウェーのセカンドレグでは、前半は水原の流動的な攻めをうまくしのいでフリーキックから先制。優位に立って試合を進められるかと思われたが、後半に入ると水原が前線に朴己東(パク・キドン)を投入。デヤン・ダミヤノビッチと組んだツートップに変えて早めにクロスを入れるシンプルな攻撃に徹したことで鹿島は押し込まれてしまう。
日本チームにとっては、韓国のパワーを使ったシンプルな攻撃こそが最も怖いのだ(前半のようにきれいにパスをつないでくれた方が助かる)。そして、後半の15分までに3ゴールを奪われた鹿島は、2試合合計でも3対4と逆転を許してしまったのだ。
ここが、勝負の分かれ道だった。
リードを許した鹿島の選手たちが、ピッチの中央で円陣を組んで試合の進め方を確認する。2点をリードされたといっても、2試合合計ではあと1点を奪えれば、アウェーゴールを含めて完全に並ぶのだ。焦ることはない。その確認ができて、鹿島は前を向いた。
一方の水原の方は、怒涛の反撃で3点を連取したものの、やや難しい立場に立たされた。
残り時間はまだ30分もあるのだ。このリードを守りに入るのか、それとも追加点を狙って一気に勝負をかけるのか……。しかも、後半の開始とともにフルパワーで攻撃を仕掛けただけに、エネルギーも使ってしまっている……。
水原の徐正源(ソ・ジョンウォン)監督は「選手たちは興奮していたので、『冷静になろう』と声をかけた」という。
「1点を返そう」と意識を統一した鹿島と、その後の試合の進め方について選手間のズレがあった水原。水原の3点目からわずか5分後に左からのクロスのこぼれを西大伍が押し込んで、鹿島が2試合合計で同点とする。両チームのメンタルの差から生まれたゴールだった。
その後は一進一退の展開だったが、82分に鹿島がスローインからつないでセルジーニョが決め、鹿島が1勝1分で決勝進出を決めた。
それにしても、日本のチームにはない迫力のある攻撃を見せた水原と、リードを許しながらも常に冷静に戦った鹿島の対決は、2試合を通してすばらしいスペクタクルだった。
鹿島はJリーグと並行してACLを戦っていたのはもちろん、さらに天皇杯とルヴァン・カップでも勝ち上がっていたのでスケジュール的に非常に厳しい戦いを強いられていた(ルヴァン・カップは準決勝敗退。リーグ戦でも優勝の可能性は消滅)。そんな中で、準決勝の対戦相手が移動が楽な水原だったのはありがたかったはずだ。
鹿島からは成田空港も近く、そして韓国の仁川空港から水原までもわずか1時間の距離だ。これが、たとえば中国の広州とかオーストリアへの遠征だった場合を考えたら、移動の負担はかなり重くのしかかったことだろう(僕が水原のアウェーゲームを観戦に行ったのも、時間的にも、費用的にも負担が軽かったからだ)。
決勝の対戦相手はイランのペルセポリスと決まったので、決勝のセカンドレグはイランの首都テヘランまでの長距離移動となる。11月のテヘランは寒さもあるだろうし、約1000メートルの標高で「高地」という負担もある。8万人の大観衆を前にしての完全アウェーの戦いでもある。ACLは、実に負担の大きな戦いなのだ。
準決勝までは、東西に分かれての戦いとはいえ、東南アジアへの遠征では暑さに悩まされ、オーストリアまでは1万キロ近い移動がある。ヨーロッパのチャンピオンズリーグとは比べるものにならないほど負担の多い大会なのだ。しかも、ホームゲームの観客動員も伸びず、賞金は優勝でもしない限りわずかなもの。チームとしては、強い相手との対戦を通じて成長できるだろうが、クラブとしては負担ばかりが大きい大会と言ってもいい。
そんな中で、これまで大きなモチベーションとなってきたのが、クラブ・ワールドカップの存在だ。ACLを勝ち抜けば、欧州王者と戦うこともできる。とくに鹿島の場合は、一昨年のクラブ・ワールドカップにJリーグ優勝チームとして出場し、決勝でレアル・マドリードに惜敗した記憶があり、「あの舞台で、レアルと再び戦いたい」というのが今季のACLに対しての最大のモチベーションとなっていたはずだ。
ところが、FIFAは今後はクラブ・ワールドカップを4年に一度の、より大規模な大会とすると意向だと言われている。そうなったら、その開催年以外の年ではACLに優勝してもクラブ・ワールドカップに出場できないことになる。そうなったら、「いったい何のために、負担の大きいACLを戦うのだ?」ということになる。
AFCには、なんとか欧州王者に挑戦できる仕組みを考えてほしい。
たとえば、欧州(UEFA)以外の各大陸王者同士の大会を開いて、その優勝チームが欧州王者に挑戦するような大会を開くことはできないものか……。
かつての、インターコンチネンタル・カップやトヨタカップの時代に戻るのだ。あの大会は、FIFA主催の大会ではなく、欧州のUEFAと南米のCONMEBOLという大陸連盟の主催だった。そして、ホーム&アウェーの2試合または東京での一発勝負で勝敗を決めていた。
それを、UEFAと他の各大陸連盟の主催に拡大して復活させるのだ。そうすれば、欧州王者は昔と同じように1試合だけ、あるいはホーム&アウェーの2試合だけ戦えばいい。
南米勢は、欧州挑戦の可能性があるというなら、おそらく喜んで参加することだろう。そして、欧州側も「1試合だけ」という条件なら受け入れるのではないか。何しろ、最近の欧州サッカー界はマーケティング面でアジアの市場を重視しているからだ(今や、各国リーグで漢字それも簡体字による広告のディスプレーを見ない試合はない)。
まあ、それはともかく、鹿島アントラーズには、ペルセポリスとの決勝戦でも、またあの勝負強さを見せてほしいものである。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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