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サッカー フットサル コラム 2018年9月10日

大坂なおみや大谷翔平の活躍に思う 日本人選手がフィジカルを武器に勝負することは不可能なのか?

後藤健生コラム by 後藤 健生
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スポーツ界は「大坂なおみの全米オープン優勝」の話題で持ちきりだ。 JリーグYBCルヴァンカップ準々決勝のセカンドレグが行われた会場の記者席でも、誰もがこの話題を口にした。レスリング、アマチュア・ボクシング、体操など各競技団体で不祥事が続き、芳しくない話題も多い日本のスポーツ界の中で純粋に誰もが喜べる話題だったからだろうか。

異口同音に皆が語ったのが、彼女の精神的なタフネスぶりだった。 セリーナ・ウィリアムズが審判の判定に対して猛抗議してペナルティを課せられるなど、試合は荒れ気味だったが、そんなことにまったく動じることなく、大坂は冷静沈着にポイントを重ねていった。いや、そんな「事件」がなかったとしても、初のグランドスラムのタイトルを懸けた戦いである。勝利が見えてきたら、それだけでも緊張感が高まったり、あるいは勝ち急いだりして自らリズムを崩していくようなことは、若い選手でなくてもありうることだ。

Jリーグが開幕したころの名指導者、スチュアート・バクスター(サンフレッチェ広島やヴィッセル神戸などで監督)が、「日本人はリードすると、とたんにパフォーマンスがおかしくなる」としょっちゅう嘆いていたのを思い出す。 それが、弱冠20歳の(女性に対して「弱冠」という形容詞が使えるのか知らないが)大坂はそんな緊張感とは無縁のように最後まで戦って、勝利を確実にものにしたのだ(試合終了後の表情からは、内面が緊張に包まれていたであろうことを思わせたが……)。

6月のロシア・ワールドカップでは日本代表が落ち着いたパフォーマンスを見せ、相手が1人少なくなったコロンビア戦も、2度も先行を許したコートジボワール戦も、まったく慌てることなく状況に合わせた戦い方ができた(さすがに、強豪ベルギー相手に2点リードした時には平常心を失ったようだったが)。

しかし、それは平均年齢が30歳近く。ワールドカップを過去2回も経験した選手が多数いたからだった。それなのに、あの大坂なおみという若い女子選手の落ち着きぶりは何なのだ。 競技は違っても、いつも勝負事を取材しているサッカー記者たちは、大坂の精神的な安定感について多くのことを思ったようだ。

僕が、大坂の試合を見ていてもう一つ感じ入ったのは、パワーであのセリーナ・ウィリアムズを圧倒したことだ。ラリーではフルパワーのショットはほとんど使わずに「ガマン」のテニスに徹した大坂だったが、相手にブレークポイントを握られた場面のような「ここぞ」というポイントでは、強烈なパワー・サービスを放って確実にポイントを取った。 あのセリーナ相手に、パワーで上回っているのだ。そんな大坂のパワーに追い込まれたことが、セリーナを過度にナーバスにしたのだろう。

日本人選手は、どんな競技でも「フィジカルが弱い」、「パワーで劣る」と言われる。だが、大坂のテニスを見ていると、そんな決まり文句はどこかに吹っ飛んで行ってしまう。 全米オープンで大阪が活躍しているのと同時期に、メジャーリーグ・ベースボールではロサンゼルス・エンジェルスの大谷翔平が驚くべきパワー・ヒッターぶりを見せて、ホームランを量産していた。パワーで距離を持っていくあのバッティングは、これまでの日本人選手にはなかったものだ。メジャーリーグの中でも、フィジカルで平均をはるかに上回っているのだ、大谷という男は……。

テニスにしても、野球にしても、コンタクト・プレーはないものの、打球戯というのは意外にパワーの差が如実に表れるものだ。格闘技のような、コンタクトのあるゲームでは、相手のパワーを利用して勝つことができる。「柔よく剛を制す」。相撲では、体重の小さい力士でも大型力士と互角に戦うことができるし、柔道だって本来は体重無差別の戦いだったはずだ。

だが、ボールを投げたり、そのボールをバットやラケットで叩く打球戯では、パワーをそのままボールに乗せるわけで、パワーの差がそのまま勝負に反映される。 僕が若かったころ、ジム・ラフィーバーというプロ野球のロッテ・オリオンズで活躍したアメリカ人内野手の講演を聞いたことがある。

当時は、日本人がメジャーリーグで活躍するなど(1960年代にサンフランシスコ・ジャイアンツで投手として活躍した村上雅則さんを唯一の例外として)考えられない時代で、ラフィーバー氏も「野球というスポーツはパワーの勝負なので日本人が大リーグで活躍するのは難しいだろう」と語り、日本の野球関係者もそれに頷いていたものだ。

そのメジャーリーグで大谷がパワーで相手投手を圧倒し、テニスでは大坂なおみがセリーナをパワーでねじ伏せてしまったのだ。さらに言えば、陸上競技のスプリント系種目では圧倒的にアフリカ系が優位にあるが、日本の4×100メートル・リレーチームは「バトンパス」の技術を武器に、今やオリンピックや世界陸上でメダルの常連になっている。 こうなってくると、「日本人はフィジカルに劣る」とか「パワーでは勝負できない」と決めつけることはできない。一部の人たちが言うように、それは「コーチたちの言い訳にすぎない」のかもしれない。

そういえば、ロシア・ワールドカップでの日本代表のパフォーマンスを見ても、日本のセンターバックだって、コロンビアやコートジボワールに決して引けを取っていたわけではなかった。

もちろん、日本人選手のストロングポイントがテクニックや俊敏性、集団で戦うメンタリティーにある。だから、「パス・サッカー」こそ日本が目指す方向性であることは間違いない。野球で言えば、「足を使う攻撃」が武器になるのだろう。

だが、パワーに勝る選手を発掘し、また育成していけば、けっして「パワーでは劣る」と決めつける必要はないはずだ。その部分で劣位に立たされなければ、日本人選手の俊敏性は、今まで以上の大きな武器になるはずだ……。

後藤 健生

後藤 健生

1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授

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