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開幕が迫ったプレミアリーグの2018/19シーズン。楽しみの一つがトッテナム・ホットスパースタジアムの完成だ。 トッテナムの新しいホーム・スタジアム。ホーム開幕戦(第2節)のフラム戦はウェンブリー・スタジアムでの開催となるが、第5節(9月15日)のリヴァプール戦から新スタジアムが使用される。
イングランドの大規模スタジアムの新設としては、マンチェスター・シティのエティハド・スタジアム(シティ・オブ・マンチェスター・スタジアム=サッカー専用化は2003年)、アーセナルのエミレーツ・スタジアム(2006年完成)、新ウェンブリー・スタジアム(2007年)、ウェストハムが使用しているロンドン・スタジアム(オリンピック・スタジアム=2011年)に次いで久しぶりの新スタジアム誕生である。
このスタジアムについてはこれまでもかなり報じられているが、クラブのオフィスやミュージアムをはじめ、ショッピングセンターやホテル棟、住居棟などが併設された総合的な大規模開発計画(ノーサンバーランド・ディベロップメント・プロジェクト)であり、その中心が収容人員は6万2000人強というサッカー・スタジアムだ。
今では、スタジアムにショッピングセンターや映画館などの諸施設を併設して試合の行われない日にもスタジアムから収益を得るというのは、フットボール・クラブにとって当たり前のビジネス・パターンになっているが、今回のトッテナムの計画ほど大規模なものも珍しい。
トッテナムが旧スタジアムのホワイトハート・レーンからの移転(または大規模な建て替え)を検討し始めてからいくつものアイディアが検討され、候補地の選定、土地の収用等々さまざまな問題で新スタジアムの着工そして完成は大きくズレこんだが、その分、最新のトレンドを盛り込んだ近代的なスタジアムが完成したようだ。
スタジアムの移転、建て替えはクラブにとっては大きなリスクも伴う大事業だが、収容力もかつてのホワイトハート・レーンの2倍程度となり、収益力が上がるのは間違いない。しかも、多くのイングランド代表に多くの選手を送り込み、ちょうどチーム力が上がっている時期に新スタジアムが完成したのだ。本当の意味でのビッグクラブに飛躍するには絶好のタイミングでの新スタジアム完成ということになる。
経営面のことは別としても、スタジアム自体も新しいアイディアに彩られている。 特筆すべきは天然芝の移動可能のサッカー用ピッチの下に人工芝のピッチを備えていること。この人工芝ピッチを使ってアメリカン・フットボールの最高峰NFLの公式戦を毎年2試合ずつ開催するというというのだ(欧州進出を目論むNFLは、新スタジアム建設に出資した)。人工芝のピッチは、コンサートなどにも使用可能だ。
スタジアムからの収益を考えると、試合数がそれほど多くできないサッカーだけで黒字化が難しい。そこで、ショッピングセンターなどからも収益を生まなければならないし、他の競技やコンサートなど多目的化することでシーズンオフにもスタジアムが使用できれば言うことはない。
しかし、多目的化を進めるうえで厄介なのがピッチ・コンディションの維持だ。コンサートなどで使用するためにピッチ上に構築物を設け、アリーナ席のためにカバーで覆ったりすると、ピッチはたちまち傷んでしまうからだ。その解決策として、移動可能の人工芝ピッチを設けるのは理想的と言える。天然芝ピッチを移動可能として、人工芝ピッチに転換すれば芝生の育成のことを考えずにコンサートなどに頻繁に使うことができる。また、日照や通風性に欠ける大規模スタジアムでは芝生の養生は難しい課題となるが、これも移動可能なピッチをスタジアム外に出すことで解決できる。移動可能式のピッチは、将来はサッカー・グラウンドにとって当たり前のものとなるのではないだろうか。
いずれの面でも、トッテナム・ホットスパースタジアムは世界最高、最新のスタジアムになることは間違いない。これからスタジアムを開発しようとしている人たちにとっては見逃せない先例となっていくことだろう。 新スタジアムは、かつてのホワイトハート・レーンに隣接して建てられた。いや、「隣接」というより、新スタジアムの南側はかつてのスタジアムの跡地の上に建設された(新スタジアムのピッチの南半分は旧スタジアムのピッチに重なる位置に当たる)。
新スタジアム計画策定にあたっては、遠く離れた候補地も検討され、さらにはアーセナルと共同スタジアムとする案もあったという。その点、旧スタジアムとオーバーラップした位置に新スタジアムが建設されるというのは、クラブの伝統を守る上でも、またサポーターの忠誠心を維持するためにも最高の選択だった。
また、取り壊されたスタジアムのゲートを新スタジアムでも活用したり、基礎の一部も再利用したり旧スタジアムのいくつもの構造物が残される。かつてのホワイトハート・レーンは、20世紀初頭にイングランドやスコットランドでいくつものスタジアム設計に携わったアーチボルト・リーチが設計したスタジアムで、古き良き(20世紀前半の)イングランドのフットボール・グラウンドの雰囲気を残した名建築だった。
新スタジアム建設するのは時代の趨勢であり、避けられないことではあるが、歴史あるスタジアムの記憶を大事にしながら新スタジアムが開発されたのはうれしいことだ。こういう心遣いが積み重なって、その国のサッカー文化が育まれていくのであろう。 日本でも、これから、新しいサッカー専用スタジアムが建設されていくだろう。観戦環境が良くて美しいスタジアムであるのは当然として、クラブの伝統、地域の伝統を大事にした設計にしてほしいものである。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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