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強豪国が相次いで消えていく波乱続きのロシア・ワールドカップ(そもそも、大陸予選の段階からイタリア、オランダ、チリといった強豪が消えている)。そんな中で無風のグループGを勝ち上がった(「ブラジル回避のための2位狙い」説まであった)イングランドはコロンビアとの激戦を勝ち抜き、スウェーデンに順当勝ち。ついに、ベスト4までたどり着いた。
コロンビア戦は1点を先制したイングランドの勝ちが見えてきた後半のアディショナルタイムにコロンビアが追いつくというスリリングな展開から結局PK戦に持ち込まれ、イングランドが準々決勝進出を決めた。
1点のリードを守り切れなかったあたりは、詰めの甘さ、チームの若さが出てしまったが、内容的にはイングランドが開始直後からコロンビアを圧倒していたから、結果は順当と言っていい。スウェーデン戦は、実力の違いもあり完勝だった。
スウェーデンは大型選手を並べて守備は強いが、攻撃力が劣り、ほぼイングランドが主導権を握っていた。そして、セットプレー(CK)から、ハリー・マグワイアーが決めて楽な展開に持ち込んだ。コロンビア戦とは打って変わって、試合運びとしてプラン通りだっただろう。
とはいえ、高さのあるスウェーデン相手にCKからのヘディングでゴールを決めるのは容易なことではない。だが、この得点場面ではゴール前で何人かの選手が動いてスウェーデンのマークをはがし、マグワイアーはスウェーデンの中でも小さなエミル・フォスベリとの競り合いに持ち込んだ。
スウェーデンのヤンネ・アンデション監督も「セットプレーは重要だ。我々も準備してきたが、イングランドも準備してきた」と悔やんだ。 今大会のイングランドは欧州予選を好成績で突破したものの、予選の当時は単調なサッカーに終始しており、本大会ではあまり期待されていなかった。だが、ガレス・サウスゲート監督は本大会に向けて攻撃的なチームを作り上げてきた。コロンビア戦などは、そのアグレッシブさが前面に出た試合ということができるだろう。
3バックのイングランドは、両サイドハーフのキーラン・トリッピアーとアシュリー・ヤングがスピードを生かして攻め上がるだけでなく、トップ下(下がり目のトップ)のラヒーム・スターリングがスピードを生かしてゴール前のスペースに飛び出してくる。さらに、最終ラインのストッパーでも、ボールを持って前にコースがあれば躊躇わずにドリブルで持ち上がってくる。次々に相手アタッカーが飛び出してくるのだから、相手の守備陣から見たら、かなりやっかいなはずだ。
ハイスピードの展開の中でも、しっかりとボールテクニックも示しているあたり、イングランド・サッカー協会(FA)が若手育成に力を入れ始めたことの結果なのであろう。 イングランド代表の最大の特徴は、代表23人全員が母国のトップリーグ(つまり、プレミアリーグ)に所属していることだ。国際移籍が日常茶飯事の今日、これは珍しいケースだ。これはプレミアリーグという世界でも最も裕福なリーグとクラブがあればこその話だ。母国のクラブで最高の年俸を稼げるのだから、イングランド国籍の選手でプレミアリーグから離れたいと思う選手はいないだろう。
もちろん、選手の輸入超過国であることは、イングランド代表強化のためにはマイナス材料でもある。つまり、強豪クラブは多くの外国人選手によって構成されており、せっかくアカデミーから育ってきたイングランド国籍の若い選手の出場機会が失われてしまうからだ。
強豪クラブの選手中心に選ばれている中でGKだけは、正GKの座をつかんだジョーダン・ピックフォードがエヴァートン、控えのジャック・バトランドがストーク、ニック・ポープがバーンリーと、いずれも「強豪」とは言い難いクラブ所属なのは、つまり強豪クラブではGKというポジションが外国人によって占められているからだ。
フィールドプレーヤーにしても、外国人のスーパースターによって構成されるクラブでの戦いと、自分たちで試合を組み立てていかなければならない代表での戦いのギャップに苦しんでいる。 だが、サウスゲート監督は国内リーグの選手で固められるイングランドは、クラブでのコンビネーションを生かせるという利点を十分に利用している。
たとえば、準々決勝のスウェーデン戦のスタートリストを見ると、トッテナム・ホットスパーの選手がハリー・ケイン主将を含めて3人、マンチェスター・シティが3人、マンチェスター」・ユナイテッドが2人と3つのクラブで大半を占めているのだ(残りは、GKのピックフォードがエヴァートン。得点を決めたマグワイアーがレスター・シティ。中盤の要のジョーダン・ヘンダーソンがリヴァプール)。
もちろん、全体の戦術などは代表独自のものだが、2人、3人のグループ戦術の面では、たとえばケインとデレ・アリとの関係性のようにクラブでのコンビネーションを生かせるのだ。これは、たとえば多くの選手が各国のリーグでプレーしている日本代表のような選手輸出国の監督から見たら、羨ましい限りだろう。
ドイツ代表などもバイエルン・ミュンヘンを母体にチームを作ることができるし、スペイン代表もレアル・マドリードとバルセロナの連合軍だから、そこそこクラブでのコンビネーションを生かすことができる。
イングランドがワールドカップで優勝したのは1度だけ、地元開催の1966年大海のことだったが、この時は主将のボビー・ムーア、中盤の司令塔のマーチン・ピータース、そして決勝でハットトリックを決めたジェフ・ハーストの3人がウェストハム・ユナイテッド所属でクラブでのサインプレーなども代表で使っていたと言われている。さて、1966年の再現はなるのだろうか?
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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