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「本命」と目されていた強豪国が軒並み苦戦している。 前回優勝のドイツは初戦でメキシコに敗れ、2戦目もスウェーデンに追い詰められ、アディショナルタイムにクローゼがFKからのゴールを決めて最後の最後で勝点3を確保した。そして、やはり優勝候補と言われたチッチ監督のブラジルも初戦でスイスと引き分けた後、2戦目もケイロル・ナバスが鍵を閉めたコスタリカのゴールをこじ開けられず、2連続引き分けかと思われたアディショナルタイムに2点を取って振り切った。
スペインは、なんとかグループBのトップ通過を決めたが、本調子からは程遠い。 僕は大会前に「優勝はドイツ、ブラジル、スペイン以外にない」などと断言していたが、まったくの見当違いだったようだ。
一方で、僕はあちこちのメディアで「100万円を賭けるなら、日本は3戦全敗」などと失礼なことを言っていた。 別に「西野朗監督ではダメだ」とか言っていたわけではない。僕はもともと反ハリルホジッチの立場だったから、監督交代自体には賛成だったし、多少は上向くかと期待はしていたが、監督交代から大会開幕まであまりにも準備期間が短かった。準備試合もたったの3試合。これではテストをしている時間も、成熟度を上げる時間もない。「やはり、どう考えても勝ち目はないかな……」と思ったのである。
ところが、蓋を開けてみれば日本チームは快進撃。自分たちでしっかりボールを持って、主導権を握って試合をコントロールしているのだ。8年前の南アフリカ大会でベスト16に入った時とは、戦い方がまったく違うのである。たった3試合の準備試合で、多くのメンバーと組み合わせを試した西野監督の度胸には感心する。「成熟度」の部分には目をつぶり、おそらくベテランを多数起用することで解決しようとしたのだろう。
とにかく、チームの成熟度という意味では圧倒的だったはずのドイツ、ブラジル、スペインが大会に入るとまったく調子が上がらず、準備不足が明らかだったはずの日本代表が快進撃……。サッカーのチーム作りというのは本当に難しいものだということを痛感させられる。優勝を狙うような強豪は開幕に照準を合わせたりはしない。コンディション的にも「ピークは決勝トーナメントに入ってから」と考えているはずだ。そして、相手はそこに照準を合わせてくる。メキシコは何か月もかけて「ドイツ対策」の準備をしてきたそうだ。 だが、今回の強豪チームの苦戦ぶりは、「コンディションのピークを外しているから」という状況ではないように思える。
ボールを持ってパスは回ってはいるが、しかし、攻撃に入る迫力が足りない。それが、苦戦中の強豪に共通した症状のように見受けられる(アルゼンチンの苦戦は、他の理由、つまり「メッシへの過度な依存と何でも自分でやろうとするメッシの性格」が問題)。 「パスはつながっているのに、攻撃の迫力がない」。
日本チームに対して、かつてよく投げかけられた批判と同じだ。パスをつなぐことに気持ちが集中してしまい、肝心のゴールを目指す気持ちが薄れてしまうのだ。 ドイツは、10年以上もヨアヒム・レーヴ監督の下ですでに戦っている。若手も育って層も厚くなっているが、年代別代表も含めて同じやり方を徹底しているから、すべての世代の選手が代表でのプレーに仕方(つまり、「型」)を熟知している。
まさに、「完成度」という意味では世界のトップにいることは間違いない。 だが、今回のドイツを見ていると、その完成された「型」にこだわり、「型」を追及するのに汲々としている感じなのだ。今回の、チッチ監督のブラジルが高く評価されていたのは、全員が守備をする意識の高さだった。攻守の切り替えの早さ。そして、そうした完成されたチームの全員が、ブラジル人らしいテクニックを持っている。いや、そういった世界最高峰のテクニシャンが、戦術に忠実に動くことが驚異的だった。
だが、蓋を開けてみれば、ブラジルも「型」=戦術の実行に気持ちが集中してしまっていたため、ブラジルらしい奔放なテクニックとアイディアが見られなくなってしまっていたのだ。つまり、ドイツの場合も、ブラジルの場合も、戦術的な「完成度の高さ」が逆に足かせのようになってしまっていたのである。 それに対して、「完成」には程遠かったはずの日本チームがクレバーな戦い方で溌溂とプレーしている。前監督から「あれはしてはいけない。これはしてはいけない」と様々な制約を受けていた選手たちが、選手の本来のプレーを尊重しようという西野監督の下で自由を謳歌してプレーしているわけである。
西野監督だって、時間があったら戦術的な縛りを設けていたかもしれない(それは、当然のことだ)。だが、時間も準備試合も与えられなかった西野監督としては、選手の主体性を尊重する以外に選択がなかったのだろう。
つまり、「完成度」が低かったことが、逆に功を奏して日本が快進撃を始めたのだ。日本選手にはもともとポゼッション・サッカーが身についていたし、あまりメンバーが変わっていなかったこともあってザッケローニ監督時代の記憶を共有している選手が多かったことも、自然とコンビネーションが生まれてきた原因であろう。
そう、ザッケローニ監督時代にしても(2014年)、あるいはトルシエ監督の時にしても(2002年)、日本代表の完成度は今回よりはるかに高かった。そして、ワールドカップ本大会に入ることには、マンネリ感が漂っていたように記憶する。そして、2010年の岡田武史監督のチームも、今年のチームも何も期待できないような状況の中から、急激に方向性が固まって結果につなげていった。
サッカーのチーム作りというのは本当に難しいものだ。そのことを痛感させられたワールドカップの序盤戦だった。
後藤 健生
1952年東京生まれ。慶應義塾大学大学院博士課程修了(国際政治)。64年の東京五輪以来、サッカー観戦を続け、「テレビでCLを見るよりも、大学リーグ生観戦」をモットーに観戦試合数は3700を超えた(もちろん、CL生観戦が第一希望だが!)。74年西ドイツ大会以来、ワールドカップはすべて現地観戦。2007年より関西大学客員教授
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