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【栗村修】
一般財団法人日本自転車普及協会
1971年神奈川県生まれ
中学生のときにTVで観たツール・ド・フランスに魅せられロードレースの世界へ。17歳で高校を中退し本場フランスへロードレース留学。その後ヨーロッパのプロチームと契約するなど29歳で現役を引退するまで内外で活躍した。引退後は国内プロチームの監督を務める一方でJ SPORTSサイクルロードレース解説者としても精力的に活動。豊富な経験を生かしたユニークな解説で多くの人たちをロードレースの世界に引きずり込む。現在は国内最大規模のステージレース「ツアー・オブ・ジャパン」の組織委員会委員長としてレース運営の仕事に就いている。
2010年ツール・ド・フランスの覇者、アルベルト・コンタドールの尿サンプルから禁止薬物が検出されたというニュースが世界中を震撼させました。
現状で報道されている内容としては、検出されたのは「クレンブテロール」という物質で、呼吸効率の向上と筋肉増強作用があるため禁止薬物に指定されている一方で、家畜を早く成長させる薬物として飼料などにも混ぜられており、中国やスペインでは家畜への使用が近年まで一般化していたともいいます。コンタドールは、ツール期間中にスペインから関係者よって持ち込まれた食肉を食べたのが今回のポジティブ判定に繋がったと主張しているようです。
まだ、真実の判定は下されていませんが、人の想像や疑いという要素を加味すると、どの様な結果になろうとも今回のスキャンダルはある意味でずっと尾を引いていくのでしょう。
ドーピングという言葉の意味についてですが、“Doping”はカフィール族が、Dope(ドープ)という刺激・興奮するドラッグを戦い前の出陣式などに疲労回復・士気向上のため使用していたことに由来するとあります。
もし、今回の陽性反応が、コンタドールが主張するように食肉に混入していた「クレンブテロール」が原因だったとするならば、検出された量や経緯を考えると、一般の人が会話のなかで口にする「コンタドールがドーピングに引っかかったらしい」という表現はまったくもって適してないと言えます。
ただ、一般に“ドーピング違反”と表現されるものが、“規則違反”という意味で定義されるならば、今回のコンタドールの陽性反応は、経緯がどうであっても規則違反であるという事実は覆りません。
今後、コンタドールへの処分が回避された場合、ドーピング違反という言葉の定義は、あくまでも「悪意のある者が行う不法行為」であり、その判定はグレーな要素を含む裁判に近い形で判断されているということになります。
この場合、既に同様の経緯で2年間の出場停止処分を受けている中国人選手などは、到底受け入れられない感情に包まれることでしょう。
一方、明らかにコンタドールが“被害者”だということが証明された場合でも相応のペナルティが課せられたとするならば、ドーピング違反という言葉は、経緯や悪意の有無に関わらず課せられる機械的な“規則”ということになります。
このパターンでは、恐らくコンタドールには多くの同情が集まると思いますが、その様な肉を食べてしまったことに問題があったとして、ある意味での公平性は保たれるのでしょう。
現状で一般的に使われている“ドーピング”という言葉は、その定義が非常に曖昧な時代遅れな表現方法だと思います。
変に正義心などをもってこの問題を語ろうとすると、余計に問題は複雑になります。
規則(検査方法や罰則内容)をより明確化し、それを守れているか?そうではなかったか?というシンプルな解釈こそ、これから向かうべき方向性なのかもしれません。