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天国と地獄を味わうアルペシン・ドゥクーニンク マチューの“翻意”でチームの方向性が定まるか|ツール・ド・フランス2025
サイクルロードレースレポート by 福光 俊介たった数日で天国と地獄を味わったアルペシン
開幕2ステージを連勝し、これ以上ないツールのスタートを切ったはずだったアルペシン・ドゥクーニンク。しかし、ヤスペル・フィリプセンが勝利の2日後に落車で負傷リタイア。2年ぶりのマイヨ・ヴェールを目指すと公言し、意気揚々と大会に乗り込んでいたエーススプリンターを思わぬ形で失うこととなった。第2ステージを勝ったマチュー・ファンデルプールがその後のステージでも奮起し、マイヨ・ジョーヌに袖を通しているが、チームとしては天国と地獄を味わっている。プロトン随一のスピードチームが今大会で目指すべきところは。マチューの決断が、チームの方向性を定める可能性をはらんでいる。
フィリプセンの離脱で余儀なくされている軌道修正
フィリプセンとマチュー両選手の勝利、またフィリプセンの負傷については各ステージのレポートをご参照されたい。
第1ステージ
第2ステージ
第3ステージ
この状況を受けて、アルペシン・ドゥクーニンクがこの先のステージをどう戦っていくのかが焦点になっている。もっとも、マチューも、フィリプセンも、ともにスーパーエースである。とりわけツールのスプリントステージにおいては、マチューからフィリプセンへのホットラインが近年の定番だった。それが崩れているのである。プロトン最高クラスのスプリンターチームがまだまだ続く戦いにいかに対応するかは、誰もが興味を持つところ。
大方の予想は、「カーデン・グローブスを代役に立てる」。代役というには役者がすぎる。ブエルタ・ア・エスパーニャで2度のポイント賞実績を誇り、ジロ・デ・イタリアでもステージ優勝経験を持つトップスプリンターだ。このツールでも、第1ステージで発射台としてフィリプセン快勝の一助になった。今後のスプリントステージでは、彼を“昇格”させるのは自然な流れといえる。
マイヨ・ジョーヌも獲得し「今年のツールは大成功」と話していたマチューだが…
マチューが“翻意”した!?
スプリントステージはメドが立った。さらに大事なのは、ツール全体を見通してチーム方針をどこに定めるかである。
マチューが第2ステージでマイヨ・ジョーヌに袖を通した。ねらい通りに第5ステージまで着続けたのちに手放したが、第6ステージで逃げ切ったことで再び舞い込んできた。
マチューは山岳を得意としていないので、マイヨ・ジョーヌを長く着続けることは考えにくい。だけど、本気で狙えるものがステージ優勝のほかに、もうひとつある。
ポイント賞、マイヨ・ヴェール
大会開幕前の公式記者会見でマイヨ・ヴェールを狙うかと問われ、「僕が着ることには一切の興味がない」と言い切っていた。発言の真意としては、フィリプセンでの獲得をもくろんでいたことにあるのだが、自身は丘陵ステージでの勝利にフォーカスしたいとしていた。
これまで幾多のタイトルを手にしているマチューだが、チームプレーヤーとしても超一流なのはレースを追う者なら誰もが知る。チームとして、このツールで戦った証を残したい。そう考えたときに、マイヨ・ヴェールを目指すというのはアルペシン・ドゥクーニンクのカラーとしては自然である。そして、チームを代表して獲りに行くのがマチューというのも、実力を考えれば自然だ。
果たして、その気になったのだろうか。第6ステージでは中間スプリントに挑んで2位通過。この動きがマイヨ・ヴェールを念頭に置いたものであることを、チームのスポーツディレクター、クリストフ・ルードフート氏が認めている。
マチューは昨年末、「ツールには興味がない」と発言した。もちろん、ツールが嫌いなわけではなく、いくつかの目標設定が必要な中で、ツールをレーススケジュールに含むのが難しいと感じていた…というのが実意だった。ただ、今はツールを戦い、自身とチームの目標のために走っている。もし、マイヨ・ヴェールを本気で目指すというなら、先の発言などを踏まえ、相当な“翻意”と言えるだろう。
何よりも、今大会のレギュレーションもマチューに味方する可能性がある。大会第1週の丘陵ステージの一部は、平坦ステージと同じポイント配分なのだ。現に、第2ステージで勝ったときにはフィニッシュで50点を獲得。スプリントステージで勝つのと同じ配点だ。
丘陵ステージで勝利を狙い、スプリントステージでは確実に上位入り。同時に、日々の中間スプリントポイントでも着実に上位で通過する。マチューの脚なら、可能な仕事といえる。そうなると、グローブスをリードアウトマンのまま動かさず、彼からマチューが加速するケースが増えるかもしれない。
アルペシンの動向には注目が集まる
第8ステージでチームの方向性が見えるか
4年前に劇的な勝利を挙げたミュール・ド・ブルターニュを目指した第7ステージ。今回はあのときの再現とはならず、タデイ・ポガチャル(UAEチームエミレーツ・XRG)やヨナス・ヴィンゲゴー(チーム ヴィスマ・リースアバイク)から遅れてのフィニッシュ。着用していたマイヨ・ジョーヌは手放した。
ここからマイヨ・ヴェールを目指しての動きに切り替えるだろうか。ちなみに、第7ステージはフィニッシュだけでなく、中間スプリントも獲りに行かなかった。つまりは、この日の獲得ポイントはゼロ。このステージを終えた段階で、同賞首位のポガチャルからは48点差(ポガチャル156p、マチュー108p)となっている。
グリーンへの猛攻が始まるか。第8ステージは平坦。マチューの、そしてアルペシン・ドゥクーニンクの“本気度”を測るにはピッタリのステージといえよう。
フィリプセンは手術成功
最後にフィリプセンの容体に触れておくと、落車翌日にはベルギーの病院で鎖骨と肩甲骨関節の修復手術を受け、成功。しばしの安静の後、レース復帰に向けてリハビリに取り組んでいくこととなる。
文:福光 俊介 from Mur-de-Bretagne, Guerledan, France
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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