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サイクル ロードレース コラム 2025年7月3日

【ツール開幕直前!タデイ・ポガチャル徹底分析vol.6】ポガチャルが挑む「史上最強」の称号。絶対王者メルクスらレジェンドたちが認めた「本物」の才能とは

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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現役最強レーサーのポガチャルが「伝説」になる日も近い

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絶対王者メルクスの譲位宣言

「今やポガチャルは、間違いなく、私を超えた。ツール・ド・フランスで彼が成し遂げたことを見て、すでに心の底では分かっていたことだったが、しかし、今日、もはや疑いようがなくなった」

残り約100kmでアタックし、ラスト約50kmを単独で駆け抜けて、2024年秋の世界選手権をタデイ・ポガチャルが制した直後、エディ・メルクスはこう口にした。50年近くも「史上最強」の呼び声をほしいままにしてきた絶対王者の、譲位宣言だった。

ロード525勝の大記録を打ち立てたサイクル界のレジェンドであるエディ・メルクス

数字の上では、メルクスの王座はおそらく永遠に不動だ。1965年から1978年までプロとして走り、ロード525勝という金字塔を打ち立てた。一方でプロ7年目のポガチャルは、6月のクリテリウム・デュ・ドーフィネでプロ99勝目を記録したばかり。たとえ25勝した昨シーズン並みに今後も勝利を重ねていったとしても……とうてい追いつくことはできそうもない。

ツール・ド・フランスの区間最多勝利(34勝)こそ昨夏マーク・カヴェンディッシュに塗り替えられたが、グランツール総合優勝回数11(ジロ総合5勝、ツール総合5勝、ブエルタ総合1勝)も、グランツール区間勝利数64も、メルクスの史上ナンバーワン記録はしばらくは揺るぎそうもない。もちろん7回のグランツール参加で総合優勝4回、表彰台3回、区間26勝と、26歳のポガチャルも驚異的なスピードで数字を重ねてはいるのだけれど。

「ライバルたちにパンくずさえ残さない」ほど勝ちまくったせいで「カニバル(人食い)」と呼ばれたメルクスの心を動かしたのは、数字ではなく、むしろポガチャルの走り方だった。

「私のような年寄りになると、ちょっとやそっとのことでは感動しなくなるものだ。でも、ポガチャルにはやられたね。彼が世界チャンピオンになれるとは思っていたが、まさかあんなやり方で勝つとは想像さえしていなかった。本当に偉大なる選手だ」

なによりポガチャルは、「負けることが大嫌いだった」という御大エディの脚をうずうずさせている。この6月、80歳の誕生日に際して、メルクスは告白した。

「今のプロトンで走ることを夢見ない者がいるだろうか?私も現代の選手たちと戦ってみたい。特にポガチャルと!」

イノーはポガチャルに夢を見る

ポガチャルにわくわくと「夢」をかきたてられるのは、どうやらベルナール・イノーも同じ。2027年にフランスで開催されるUCIスーパー世界選手権に向けた記者発表で、「ブルターニュのアナグマ」は楽しそうに語った。

「ポガチャルは余計なことを考えずにアタックを打つ。他の選手が苦しんでいると気がついた瞬間に、一撃を決める!これは自転車を愛するすべての人にとって夢のような光景だ。ためらわず攻撃に転じ、一発で相手をねじ伏せる場面が見られるなんて、本当に夢のようなことだ」

ベルナール・イノーは、グランツール通算10回の総合優勝を誇るレジェンド

メルクスに次ぐグランツール総合10勝を有するイノーにとって、ポガチャルは「メルクスや俺みたいな古いタイプの戦士」。そして、この先も本人が望みさえすれば……3大ツールも5大モニュメントもすべてを勝てるだろうと予言する。

レジェンドたちが期待するポガチャルの未来

ツール開催委員長のクリスティアン・プリュドムの考えでは、「力を出し惜しみせず、本能の声に従って走る」ポガチャルの姿勢は、アルベルト・コンタドールを彷彿させるという。そのコンタドール本人は、昨シーズンのポガチャルが1998年以来となるジロ&ツール同一年制覇を果たした時、「ブエルタにも出場し、年間3大ツール全制覇に挑戦すべきだ」と声を上げた。

「タデイには歴史を築き上げるチャンスがある。勝つのは簡単なことではない。史上最高のライダーになりたいと願うなら、必ず負うべきリスクがある」

グランツール総合7勝で一時代を築き上げた「エル・ピストレロ」は、自らが悔いの多いキャリアを送ってきたからこそ、若い時間を無駄にしてほしくなかったのかもしれない。幸いにも昨秋のポガチャルは、ブエルタを回避した代わりに、1987年以来となる史上3人目のトリプルクラウン(ジロ、ツール、世界選手権同一年制覇)を達成した。この春には、落車の危険も顧みずにパリ〜ルーベに出場し、表彰台に乗った。

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「ポギが成し遂げていることは、本当に驚異的なこと。クラシックでもグランツールでも活躍できるなんて、唯一無二の選手だ。このスポーツでそんなことが可能だなんて、僕は想像さえしていなかった!」

4月末にこう語ったのは、現役ではただひとり3大ツール全制覇を誇るクリス・フルームだ。「絶頂機にポガチャルと競い合えていたら、きっとすごく楽しかっただろうな」と、やはりメルクスと同じく、なにやら憧れにも似た気持ちを打ち明ける。

2025年ツール・ド・フランスに、ポガチャルは自身4度目の総合優勝を獲りに行く。7月27日のパリへ、もしもマイヨ・ジョーヌで帰還することができれば……、戦後最年少ツール総合制覇、史上最年少ツール連覇を成功させた26歳は、いよいよメルクスやイノーと同じ「5勝クラブ」への挑戦権を手に入れることになる。本物の伝説になる日も近い。

文・宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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