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気温は25度前後とそれほど高くなかったが、日差しの強い午後だった。カスティーヤ・ラ・マンチャ特有の風もなく、起伏もほとんどなく、荒野の中を真っ直ぐに進む広い道路で、プロトンはのんびりとした1日を過ごすはずだった。ところが130km地点で集団落車が発生する。しかも地面に叩きつけられた選手の中には、現在総合2位のロベルト・ヘーシンク(ラボバンク)と総合6位エセキエル・モスケーラ(シャコベオ・ガリシア)の姿があった。ヘーシンクは左足と左ひじを、モスケーラも左半身を痛めた。シャコベオ・ガリシアのアシストたちが力を尽くしたおかげもあり、2人はプロトン復帰を果たしたが……、今度はゴール前20km地点でシャコベオ・ガリシアの2選手が道路わきの草むらに放り出されてしまった!アルバノ・ピノ監督によれば「モスケーラの落車でチーム内が動揺してしまった」とのこと。総合表彰台を争っている真っ最中の2人は先頭集団で無事にゴールにたどり着いたあと、病院へ治療・検査に向かっている。
ステージは0km地点でのリューウェ・ウェストラ(ヴァカンソレイル プロサイクリングチーム)のアタックで始まった。これは一旦吸収されるが、6km地点でウェストラは再びトライ。今度はマルケル・イリサール(エウスカルテル・エウスカディ)とフランシスコホセ・マルティネス(アンダルシア・カハスール)、アントニー・ルー(フランセーズ・デ・ジュー)、マッタイン・マースカント(ガーミン・スリップストリーム)を伴って、順調にリードを広げ始めた。そして最終的に、この中から今ステージの勝者が生まれることになる。
山岳も難所もないこの日の結末は、しかし余裕の逃げ切り勝利ではなかった。なにしろ25km地点でプロトンを7分ほど突き放すと、早くもチーム コロンビア・HTCとチーム ミルラムがスピードコントロールを開始したのだ。それ以降は5分程度のタイム差をキープしながら、高速の追いかけっこが始まった。のろのろモードだった前日の平均時速が35.146kmで、この日が43.306kmだったから、その違いは歴然。しかも開催委員会の報告によると、最終盤のプロトンの追走速度は、逃げ集団の走行速度を10km/hも超えていたという。ゴールまで残り5kmでタイム差1分以内。逃げ切りを成功させるためにはもはやギリギリの差しかなかった。
「先頭がとたんに協力し合わなくなった。小集団スプリントを恐れる選手がいたんだね」とアントニー・ルー(フランセーズデジュー)が後に語ったように、先頭集団内ではアタックの試みが生まれていた。そしてマースカントがまずひとり、飛び出していく。「ボク自身は小集団スプリントに持ち込みたかったんだけど」と言うルーもまた、後を追い、残り1kmのアーチでマースカントをとらえた。そして単独で先頭に立って——。
背後からは大集団がうねりとなって迫ってきていた。ポイント賞ジャージのアンドレ・グライペル(チーム コロンビア・HTC)やグランツール区間通算10勝のダニエーレ・ベンナーティ(リクイガス)といった現役屈指のスプリンターたちは、ルーをとらえる前から早くもスプリントを切った。しかし、人生初のグランツールで毎日とにかく「体力温存」に努めてきたという22歳には、勝利をつかむだけのパワーが残っていたようだ。それこそ最後の最後までまで持てる力を全て振り絞って、文字通りタッチの差でルーが先頭でゴールラインを通過した。同時にゴールへとなだれ込んできたプロトンとのタイム差は、ゼロだった。
またBboxブイグテレコムのウィリアム・ボネが2位に入り、フランス勢がスペインの地でワンツーフィニッシュを成し遂げた。区間3位に入ったグライペルは16ポイントを獲得。ポイント賞争いでは2位以下との差を40ポイントに広げ、マドリードでのグリーンジャージへとさらに一歩近づいた。
●アントニー・ルー(フランセーズデジュー)
ステージ優勝
実はそれほど逃げ切り勝利を信じていなかったんだけど、監督が信じて励ましてくれた。だからとにかく最後までしがみついていったんだ。逃げ集団内でアタックが巻き起こったけれど、冷静に、フィニッシュのために力を温存した。後ろから迫ってくる集団のことは考えなかったし、振り返らなかった。とにかく自分の走りをしようと、ゴールラインだけを見て走り続けた。
ゴール前はここ2、3日のステージに比べて、危険なカーブは少なかった。それに少し下り気味だったから、ボクらエスケープにとってはありがたかった。それに右側に川が見えて、素敵なゴールだったよ。
8月末のGPプルエイではいい走りが出来ていたんだ(4位)。でもあれから3週間後に、再びこんなにいい走りが出来るとは思ってもいなかった。それにボクにとっては初めてのグランツールだったから、疲れすぎないように、回復をしっかりするように、毎日そればかりを考えていた。でも頭の奥のどこかでは理想のシナリオを描いていたんだ。エスケープに乗って、小集団スプリントを制して勝つ、なんていうね。結局は毎日体力温存に努めていたおかげで、逃げ切り勝利を手に入れる力があったんだと思う。本当に満足しているよ。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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