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サイクル ロードレース コラム 2010年7月4日

【ツール・ド・フランス2010】プロローグ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ひどく蒸し暑かった開幕前夜のオランダは、オレンジ一色に染まっていた。サッカーワールドカップの準々決勝オランダ vs. ブラジルが行われたせいである。ロッテルダムのプレスルームにも観覧用のビッグスクリーンが設置され、地元ジャーナリストやサッカー好きのスタッフたちが本業そっちのけで応援に熱を込めた。結果はご存知、2−1でオランダが準決勝進出!オレンジ色の洋服に身を包んだ老若男女が街に繰り出し、一晩中お祭り騒ぎを繰り返した。……2日酔いのロッテルダム市民がツール・ド・フランスにどんな反応を示すか少々心配だったけれど、ふたをあけて見れば(レース開始は16時15分だったというのに)午前中からすでに熾烈な場所取りが始まっていた。しかも突然降り出した雨のせいでルート上ではツールオフィシャル雨具が飛ぶように売れ、明るいイエローのレインコートや雨傘が華やかに沿道を彩った。

天気予報を知っていたのだろうか?今ステージで優勝候補の一角に上げられていたトニー・マルティン(チームHTC・コロンビア)は、雨粒がわずかに落ち始めたステージ開始直後、11番目にスタートを切って10分10秒の好タイムを叩き出した。ちなみに所属チームのコロンビアは、今でこそアメリカ国籍のチームだが、数年前まではドイツスポンサーのドイツ国籍チームであり……だから当然のようにチームバス横の急造TVサロンでは選手やスタッフがサッカーのドイツvsアルゼンチン戦を食い入るように見ていた。もしかしたらドイツ人マルティンもサッカーが見たかったのかもしれない。なにしろマルティンは前半終了前に走り終え、そのドイツは4対0という圧倒的なスコアで準決勝へと進出したのだ。「ドイツが勝って最高!ボクもこのまま勝てたらいいけど」とサッカーの試合終了後に笑顔で語ったマルティンだが、約3時間ものあいだ首位を守りきった挙句、あと2人……というところで残酷にも初日マイヨ・ジョーヌの権利をさらい取られてしまった。しかし幸いにも手元には、新人賞マイヨ・ブランが残った。

雨脚は、第41番走者ブラッドリー・ウィギンス(スカイ・プロフェッショナルサイクリングチーム)がスタートエリアへ姿を現した16時50分過ぎから、急速に強まっていった。2ヶ月前のジロ開幕ステージでは快調に飛ばしてマリア・ローザを手に入れ、今ツールでは総合表彰台を目指しているイギリスTTチャンピオン。しかし運悪く、雨で滑りやすくなった路面に苦しめられてなんと10分56秒でレースを終えた。一方でウィギンスの総合ライバルたちはみなこぞってステージ終盤の出走順を選び、彼らがルートに飛び出した19時台には嫌な雨も姿を消していた。しかも刻々と路面は乾いていく。

ちなみに2度目のツールスタート地に赴いた新城幸也も、大雨にたたられた選手の1人だった。「これまでのTTはたいてい順位が真ん中、もしくは真ん中から少し後ろくらいだった。TTは早くないけれど、実は好きな競技。だから今回は真ん中よりも上の順位を狙いたい!」と意気込みを語っていたが、まるで思い通りの走りができず、1分22秒遅れの174位で初日を終えた。また雨のせいで2選手が激しく落車。マティアス・フランク(BMCレーシングチーム)は左太腿と右手の打撲で、マヌエル・カルドーゾ(フートン・セルヴェット)は頭部とヒザの負傷に首と肩への激しい打撲で、いずれも完走後に救急病院へと運ばれた。

有利なコンディションを大いに生かして、総合候補の中で最高タイムを叩き出したのは、鬼気迫るダンシングで攻め続けたランス・アームストロング(チーム レディオシャック)だった。区間トップから22秒差の4位。密かに狙っていた初日マイヨ・ジョーヌには手が届かなかったが、宿敵アルベルト・コンタドール(アスタナ)には5秒差をつけた。また半分濡れた路面での戦いを余儀なくされたカデル・エヴァンスから18秒、イヴァン・バッソから32秒、メンショフからは33秒のリードを奪うことに成功。昨年総合2位に輝いたアンディ・シュレク(チーム サクソバンク)は、総合本命の中で最も遅れをとってしまった。ルクセンブルクTTチャンピオンジャージを着ているとはいえ、またしてもタイムトライアルの弱さを露呈。これからの3週間で、アームストロングとの47秒差、そしてコンタドールとの42秒差を埋めなくてはならない。

そのシュレクをこの先のルートで助けていくことになる男が、2010年ツール最初の区間勝利とマイヨ・ジョーヌを手に入れた。彼の名は、もちろん、ファビアン・カンチェッラーラ(チーム サクソバンク)。タイムトライアル世界チャンピオンの証アルカンシェルを身にまとい、五輪&世界選TT優勝を誇示するように黄金に縁取られたヘルメットをかぶり、体内モーターをフル回転させて、まるで図ったように10分ぴったりでゴールラインを横切った。ツールでは2004年プロローグ@リエージュ、2007年プロローグ@ロンドン、2009年第1ステージ個人タイムトライアル@モナコに続く通算3つ目の初日リーダージャージ獲得。2004年はわずか2日間しかジャージ着用が許されなかったが、2007年はその後1区間制したおかげで7日間も黄色い日々を過ごした。また2009年はボーナスタイム不在が有利に働き6日間着用。今年もまたボーナスタイムがない(=集団スプリントゴールの場合、選手間でタイム差が生じない)ため、またしてもカンチェッラーラ長期政権も十分ありえる。

もちろん、カンチェッラーラは堂々たる走りで、自らにまとわりつく悪い噂もあっさりと振り払ってしまった。画像サイトから火がついた、例の電動モーター騒動のことである。UCIも対策に追われ、この日のスタート前は全ての選手に対してかなり入念なバイクチェックが行われた。単純な計量だけではなく、自転車を持ち上げたり触ったりしてギア板やフレームはくまなく確認された。またゴール後にはカンチェッラーラの使用バイクはスキャンがかけられ、怪しい機材が自転車の中に埋め込まれていないかどうか再検査された。この先も怪しい自転車チェンジを行ったチームや、疑惑の走りを見せた選手があった場合、ステージ・台数に関わらずゴール後に自転車スキャンが実施される予定だ。


●ファビアン・カンチェッラーラ(チーム サクソバンク)
区間優勝&マイヨ・ジョーヌ

チームバスの中でお天気の様子をうかがいながら、どうなることやらと困っていたよ。でもボクはマイヨ・ジョーヌがどうしても欲しかったから、太陽に戻ってきてもらえるようスタート直前まで祈った。幸運だったね。だってチャンスがボクのほうにやってきてくれたんだから。こういった運というのは、勝利をつかむために非常に大切なのさ。もちろん今朝から、ボクは10分ちょうどで走りきるための身体的準備が100%できていると確信していた。それから今朝チームメイトに、ボクはきっちり10分で勝つよ、なんて冗談を言って笑いあっていたんだ。それが現実のものとなったんだから!ゴール後にはボクの自転車がスキャン対象になったけれど、何の問題もない。おかげで一体モーターはどこにあるのか、皆さんがはっきりと分かったはずだよね。モーターが内蔵されているのは自転車ではなく、ボク自身なんだ、と。今までネット動画をクリックした人は200万600人らしいけれど、今夜、この数字がどれくらい変化するのか興味がある。

今日ラッキーだったのは、昨日のブラジル戦でオランダが勝って、おかげでオランダの人たちの機嫌がすごくよかったこと(笑)。いやいや、そうじゃなくても、オランダは自転車大国だよ。だから彼らにとって、ツールを地元に迎え入れることは非常に特別なことだったんだと思う。あいにくのお天気にも関わらず、沿道には信じられないほどの観客が詰め掛けたね。ツールの開幕地としては、本当に素晴らしい舞台だった。明日もきっと同じようにたくさんの人が応援に来てくれるはずだ。

ツール総合優勝はボクにとっては夢であり、これからも夢でありつづける。夢と目標は違う。世界中の人々がそれぞれに夢を見て、その夢はほとんど叶わないものだ。ボクにとっても同じかもしれないけれど、それでもボクは、パリでマイヨ・ジョーヌを着る夢を見る。ただボクには他に達成すべき目標がある。まずは目標をかなえることが先なんだ。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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