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サイクル ロードレース コラム 2010年7月7日

【ツール・ド・フランス2010】第3ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ステージ後半に待ち受ける約13kmのパヴェゾーンのためだけに、この日のスタート地にはアルミホイールが装着された自転車がずらりと並んだ。パリ〜ルーベではすっかりおなじみだが、ツール・ド・フランスでは珍しい光景に、訪れたファンたちは目を輝かせた。ただし関係者がもっぱら話題にしたのは、前日の落車とストライキの件ばかり。濡れた路面では総勢70人近くが転んだと言われており、テーピングや包帯をしている選手の姿が目に付く。集団先頭で音頭を取ったファビアン・カンチェッラーラの所属チーム、チーム サクソバンクのバス周辺にはたくさんのメディアが押し寄せ、ゼネラルマネージャーのビヤルヌ・リースに首謀者は一体誰なのかを激しく詰問する場面も。またストライキに不満の声を上げたトル・フースホフト(サーベロテストチーム)からは、多くの人間が事情を聞きたがった。

しかしカンチェッラーラが「過去のことを振り返っても意味がない」と言い、フースホフトも「その話は昨日の夜で終わり」と語ったように、選手たちの気持ちはすでに切り替わっていた。そしてツール一行の頭上に漂った「石畳の戦いも消されてしまうのではないか」という懸念——大会委員長のクリスティアン・プリュドム氏が大会前に最も恐れていたこと——は、石畳ゾーンに入ったとたんに、全て吹き消されたのだった。

ステージ前半のアスファルトコースを盛り上げたのは、8km地点で飛び出したスティーブン・カミングス(スカイ・プロフェッショナルサイクリングチーム)、ライダー・ヘシュダル(ガーミン・トランジションズ)、パヴェル・ブルット(チーム・カチューシャ)、ピエール・ローラン(Bbox ブイグテレコム)、ロジェ・クルーゲ(チーム・ミルラム)、イマノル・エルビーティ(ケースデパーニュ)、ステファヌ・オジェ(コフィディス・ル クレディ アン リーニュ)の7選手。ただし後方プロトンでマイヨ・ジョーヌのシルヴァン・シャヴァネル擁するクイックステップがきっちりスピードコントロールに務めたため、タイム差は最大5分程度までしか開かない。

石畳ゾーンが始まると、戦いの主役は後方プロトンへと自然に移行していった。「足慣らし」にぴったりな最初の石畳ゾーンでは、チーム レディオシャックを含む有力チームが軽くポジション取りを予習。続く第2・第3石畳部分ではチーム サクソバンクが完全に主導権を奪取し、カンチェッラーラやスチュワート・オグレイディという2人のパリ〜ルーベ覇者や疲れを知らぬイェンス・フォイクトが恐ろしい勢いでスピードを上げていく。プロトン後方を軽く引きちぎりつつ、前方の逃げ選手も1分差まで追い詰めた。軽い3つの前菜をこなしたプロトンは、長くて厳しい4つの石畳がぎゅうぎゅうに詰め込まれたラスト30kmへと突入して行った。

その4番目の石畳ゾーン半ばで、勝負を分ける事態が発生する。前方ではヘシュダル1人が先頭で逃げを続け、メイン集団はチーム サクソバンクが強烈に引いていた。ところがそのチーム サクソバンクのフランク・シュレクが、突然、激しく地面に叩きつけられる。同時にマイヨ・ジョーヌ姿のシャヴァネルも落車。それを合図にプロトンは完全にバラバラに分解されていった。前に行けたのはカンチェッラーラとアンディ・シュレク(チーム サクソバンク)、フースホフト、カデル・エヴァンス(BMCレーシングチーム)、ジェラント・トーマス(スカイ・プロフェッショナルサイクリングチーム)の5人だけ。……寄寓にも前日も落車分断を免れ、減速と加速の間で揺れたカンチェッラーラとフースホフトだが、この日は意見の相違なく全力で先を急いだ。一方でランス・アームストロング(チーム レディオシャック)とアルベルト・コンタドール(アスタナ)は分断にはまった。落車のすぐ後ろを走っていた新城幸也も、落車・パンクはうまく免れたものの、後方集団へと追いやられた。ちなみにシュレク兄弟の兄フランクは、左鎖骨骨折でレース途中にリタイヤ。またシャヴァネルはその後走り出したが、さらに2度のメカトラブルに襲われ、まるで運に見放されてしまったようだった。

いや、「運気が下がったみたいだね」とゴール後に語ったのはアームストロングのほうだ。実は分断にはまってしまったものの、当初はヘシュダルを吸収したカンチェッラーラ集団のすぐ後ろの2番手グループにつけていた。一方の宿敵コンタドールは3番手グループと出遅れた。ところが6番目の石畳ゾーンで、大ボスが痛恨のパンク……。タイヤ交換している間に、昨季のチームメイトにあっさり先を越されてしまった。確かに、7連覇時代のアームストロングは落車やパンクから縁遠かった。たとえば下りで目の前の選手が大落車しても瞬時に草むらへと駆け込むことができたし、観客のせいで落車したりペダルを踏み外した後にステージ優勝を手に入れたこともあった。ところが2010年ツールのアームストロングは、4日間終えただけですでに落車1回、重要なポイントでのパンクが1回。チャンピオンとしての「運」が落ちてきているのだろうか。この朝のスタート地ではリーダーの露払い役(ファンや関係者でごった返すスタート地において、ボディーガードと共に道を切り開く係……)を任されていたヤロスラフ・ポポヴィッチが、石畳上で必死に牽引役を務めたが、結局4番手集団から這い上がることはできなかった。区間首位からは2分08秒遅れでフィニッシュラインを超えた。

「サクソが仕掛けてくるのは当然。だから石畳で最も警戒しているのはアームストロング」と気を引き締めて今ステージに臨んだアスタナは、無事にコンタドールとアレクサンドル・ヴィノクロフを第2集団でゴールさせた。正確に言えばコンタドールは最終盤で数秒遅れたが、それでも石畳ゾーンではヴィノクロフの存在が常に隣にあった。しかも懸念していたアームストロングは手を出す前に沈んで行き、この日だけでコンタドールはアームストロングから55秒リードを奪った。「細かい注文はいろいろとあるけれど、全体的にみれば納得できる結果。明日は少し静かに暮らせそうだね」と、ゴール後、ゼネラル・マネージャーのイヴォン・サンケは満足そうに語った。

パリ〜ルーベ王者の走りを見せたカンチェッラーラは、おなじみのパワフルな走りで、たった1日でマイヨ・ジョーヌを取り返した。しかも前日に自らのイニシアチブで見事救い出してみせたアンディ・シュレクを、この日は力強く引っぱり続けて先頭ゴールへと導いた。おかげで初日タイムトライアルで思わぬ後れを取ったシュレク兄弟の弟は、去年表彰台を分け合ったコンタドールから1分13秒、アームストロングから2分08秒を奪取。総合ではそれぞれ31秒、1分21秒上回る。もちろん兄のリタイアのせいで嬉しさ半分、悲しさ半分といったところか。そして小集団スプリントを制し、区間とマイヨ・ヴェールを手に入れたのはフースホフト。パリ〜ルーベでは2009年3位、2010年2位と石畳巧者ぶりをアピールしてきた北の男が、前日のフラストレーションを健全な形で晴らすことに成功した。未だに5月の鎖骨骨折から完全に回復しておらず、体内にはボルト、骨にはヒビ……という状態だったようだが。

開幕の地ロッテルダムを旅立って以来、とてつもなく厳しい3日間をプロトンは潜り抜けてきた。風、雨、石畳、長距離、そして落車……。出走選手は197人から早くも189人へと減り、多くの選手が体のあちこちに傷を抱えている。ただし大会5日目の第4ステージから、ようやくクラシックの上着を脱ぎ捨てて、ツールはツールらしい側面を取り戻す。しかも午後13時50分とゆっくり目のスタートで、走行距離も150km程度。選手たちは少しだけ朝寝坊して、のんびりとする時間が持てるに違いない。


●トル・フースホフト(サーベロテストチーム)
区間優勝&マイヨ・ヴェール

すごく満足している。この勝利はボクにとって多くの意味を持つんだ。チームは完璧な仕事をしてくれたし、全員に心から感謝している。チームメイトたちは非常にモチベーションが高くて、ボクが好ポジションをキープできるよう多くを尽くしてくれたよ。ボクが前線に留まり続けて、あらゆるアクシデントを避けるためにね。自分には勝つチャンスがあると思っていたから、その通りに勝つことができた。今日の勝利は本当に誇らしいよ。スペシャルなステージだし、しばらく前からこの日に狙いをつけていた。それにナショナルチャンピオンジャージを着て優勝できるなんてステキな気分さ。そして今は、マイヨ・ヴェールを手に入れられたことがすごく嬉しいんだ。

昨日のことは確かに満足していない、と公言した。だってポイントをニュートラルにできる規則なんて、どこにも存在しないんだから。でも昨夜限りでこの問題を忘れることにした。頭の中からきれいさっぱり追い出した。そして今朝はフレッシュな気持ちで、モチベーション高く迎えることができた。そうそう、昨日ボクが言ったことは、決して抗議するつもりではなかったんだ。ただ納得はしていないと言っただけ。


●ファビアン・カンチェッラーラ(チーム サクソバンク)
マイヨ・ジョーヌ

色々な感情が入り混じっている。今日はまず嬉しいことがあった。素晴らしいやり方でマイヨ・ジョーヌを取り戻すことができた。さらにアンディ・シュレクがライバルたちからタイム差を奪った。今日はチームが本当に素晴らしい仕事を成し遂げてくれたんだ。そして悲しいこともあった。フランクの落車リタイアだ。でも今日はあらかじめ危険な1日になるだろうと理解していたし、我々チームはしっかり準備が出来ていた。これも自転車レースの定めなのさ。勝つ日もあれば、負ける日もある。

もしも、もう1度昨日のような状況が起こった場合、ボクは再び同じ行動に出るだろう。どんなことをしても、全員を満足させることなんて不可能なんだ。ただ昨日は70人が落車した。こんな異常事態は毎日起こるものではないんだから!それに昨日は待ったけれど、今日は別だよ。だって今日のレースは落車も戦いの一部であり、それは誰もが理解していたこと。このコースでは落車を利用して勝負するのもやり方の1つだ。とにかくボクが昨日やったことは、ボク自身の考えでやったこと。全ての人にとって正しいことだったかどうかはわからない。でも、機会が再びボクに巡ってきて、今またこうしてマイヨ・ジョーヌを取り戻すことができた。

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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