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ツール・ド・ポローニュ/ポーランド一周現地レポート #1 五輪金メダル候補が続々エントリー 別府史之・宮澤崇史も参戦
サイクルNEWS by 寺尾 真紀ツール・ド・フランスが10日間の日程を終えて立ち止まった第1回目の休息日、ポーランド南西部の山間の町、カルパチで第69回ポーランド一周レースが幕を開けた。8月の第1週、という従来の日程がオリンピックとの兼ね合いで7月上旬に変更され、ツールの『裏レース』という位置づけとなる。
ロードレース最高峰のイベントの陰に隠れがちではあるが、オリンピックに向けた調整のためにトム・ボーネン、マッティ・ブレシェル、ラース・ボーム、トル・フースホフトなどが参加するなど話題性もある。レースが終盤ヒートアップする様子を視聴者が多い時間帯に放映したい、という主催者の意向でもともとレース開始時間が遅いポーランド一周だが、今年はツールのゴール放映に重ならないようにさらに細心の注意が払われた。
2005年にロードレース最上のカテゴリーにランクされるようになって以来(当時はプロツアーと呼ばれた)年々規模を拡大してきたレースだが、今年は18のワールドツアーチーム、ポーランド選抜チーム、招待枠で出場するプロフェッショナル・コンチネンタル6チーム、計25チーム200選手とこれまでで最大規模。
ポーランド自転車界の有力者、チェスロー・ラング率いるラングチームにとってもこのイベントの主催は最大のチャレンジとなる。
「ポーランド一周にとって最大のチャレンジは良いバートナーを見つけることです。それが企業であれ地方自治体であれ、スポンサーの協力なしにこのイベントを成功させることはできません」(チェスロー・ラング氏)
ポーランド一周レースを訪れてまずびっくりするのは、スタート地とゴール地のヴィラージュ(※ツールのようにパスが必要という訳ではなく誰でも入ることができるエリア)の活気である。スポンサー企業の色とりどりのテントにたくさんの観客が群がり、コース脇にはガスで膨らませた巨大な広告バルーン(気球型のものが多いが、例えばジャージの形や、ヌテッラのジャーの形をしたものもある)が並ぶ。レースのサイズはツアー・オブ・カリフォルニアと同程度だと思うが、スポンサー企業を上手に露出させているという点ではポーランドの方が上手という印象だ。
各ステージのスタート、あるいはゴール地に必ず周回サーキットを設けるというコース設定がされている。これは、コース設営や安全面のコストを抑え、コース脇に設置されたスポンサー広告を最大限に露出させ、スタート・ゴールを主催した市町村により大きな集客効果を与え、足を運んだ観客は一度のみならず何度もレースを楽しむことができる、という非常に合理的かつサービス精神に溢れた発想に端を発している。
チームのスタッフたちもポーランド一周のレース運営には概ね好意的だ。
「細かいことだけれど、例えばレース終了後にチームホテルに向かう道すがら、方向案内の看板(矢印)が設置されている。そんなレースは他にはないと思う」
反対に、選手からもスタッフからも不満の声が漏れるのは、ゴール時間の遅さ。
「午後7時にゴール、それからバスで移動・・・山岳ステージに入ると1車線の道が多く、交通渋滞に巻き込まれることもしばしば。ホテルに到着して、食事、マッサージ、気がつくと12時を回っていることもしばしば。このゴール時間だけは考え直してほしい」
テレビ放映がゴールデンタイムに重なるようゴール時間が遅いツール・ド・スイスでも同じような不満を耳にするが、ほぼ同様のスケジュールで動いているブエルタ・ア・エスパーニャではこういった不満の声は聞こえてこない。ラテン文化圏の解放感と太陽がなせる技なのかもしれない。
自国生まれのスーパースターも不在で、ロードレース大国と呼ぶには程遠いポーランド。しかしながら、スタートやゴール地に集まる観客の数には圧倒される。家族連れや学生たちのグループ、若いペアから老夫婦まで、皆が思い思いに歩きまわり、通過するプロトンに熱心な拍手を送る。これはポーランドにおけるロードレース支持率を映し出しているのだろうか。
「もしそうならば素晴らしいことですが、その通りだとは言えないようです。ポーランド人はイベント好きの国民性を持っていると思います。例えばリゾート地で行われるサマーフェスティバルなどに皆熱心に出かけていく。ポーランド一周は、アマチュアのサイクリングイベントとしての過去も含め、80年近い歴史を誇るスポーツイベント。多くのポーランド人にとって、夏の風物詩のひとつ、という印象がある。特にどの選手のファンだとか、普段からロードレースを見ている、という訳でなくても、ジャズフェスティバルに出かけるのと同じような感覚で観に来る観客もかなり多いと思います。ただ、このイベントがロードレースに興味を持つきっかけを与える、ということは間違いないでしょう」(チェスロー・ラング氏)
オリンピック自転車競技銀メダリストであるチェスロー・ラング(Czeslaw Lang)は私財を投じてこのレースの世界的な地位向上と規模拡大に尽力してきた。レース・ディレクターの彼が設定するコースは、アタッカーと総合狙いのクライマーたちのための山がちなステージとスプリンターのための平坦ステージのコンビネーション。7つのステージを結ぶルートには山岳の多いポーランド南西部が選ばれてきたが、今年もこれまでのコース設定が踏襲された。
簡単に、今大会の各ステージについて紹介する。
■第1ステージ カルパチ〜イェレニャ・グラ(179.5km)
1日目からかなりきついコース設定で、選手たちの口から泣き言が聞こえてくるほど。標高300mから826mまで13kmで登る、を4回繰り返す。ゴールに向かう20kmは下り基調。
■第2ステージ ヴァウブジフ〜オポーレ(239.4km)
レース期間中最長のステージ。チェコとの国境に沿って進むコースは起伏に富むが、後半は次第に平坦に変わっていく、パンチャーのためのステージ。登りに強いスプリンターたちによるゴール・スプリント勝負の可能性がある。
■第3ステージ ケンジェジン=コジレ〜チェシン(201.7km)
スタートから小さい上り下りをくり返しながら緩やかに高度を上げていくコースは、130.4km地点で1級山岳クバロンカ山頂に。7.6km下って再びクバロンカを登り、そこからチェシンの周回サーキットへと下っていく。3周回する6.3kmの市内サーキットは最大勾配13.5%の3級山岳を含み、カーブの多いテクニカルなコースレイアウトに加え、300m地点からの急勾配ゴールと最後まで選手たちの足が試される。
■第4ステージ ベンジン〜カトヴィツェ(127.8km)
ベンジンをスタートして市内サーキットを3周、そこからゴール地カトヴィツェに向かい、平坦な市内サーキットを6周するスプリンターのためのステージ。
■第5ステージ ラプカ=ズドルイ〜ザコパネ(163.1km)
6つの山岳が登場する。56.1kmで最初の1級山岳に到達したあとは、ドロガ・ド・オルチ(2級山岳)、グウォドゥフカ(1級山岳)を続けて2度攻略し、ゴールのザコパネに向かう。
■第6ステージ ブコビナ・テルマ・ホテル〜ブコビナ=タトシャンスカ(191.8km)
ゾンプ(1級山岳)、グリツァルフ・グルニ(1級山岳)、ブコビナ=タトシャンスカ(カテゴリーなし)の3つの登りが連続する38.4kmのループを5周するルートにはフラットな部分はほとんど見当たらない。今大会のクイーンステージの最後はブコビナ=タトシャンスカへの登りゴールで勝利が争われる。
■第7ステージ クラクフ〜クラクフ(131.4km)
序盤に3級山岳を含むが、12.4kmの市内コースを7周するルートはスプリンターのためのステージ。昨年は総合優勝がタイムボーナスで争われたため、総合狙いの選手たちにとっても気の抜けないステージとなる。
今大会には、オリカ・グリーンエッジの別府史之選手とサクソバンク・ティンコフバンクの宮澤崇史選手、2人の日本人が出場している。
寺尾 真紀
東京生まれ。オックスフォード大学クライストチャーチ・カレッジ卒業。実験心理学専攻。デンマーク大使館在籍中、2010年春のティレーノ・アドリアティコからロードレースの取材をスタートした。ツールはこれまで5回取材を行っている。UCI選手代理人資格保持。趣味は読書。Twitter @makiterao
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