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サイクル ロードレース コラム 2021年7月8日

【ツール・ド・フランス2021 レースレポート:第11ステージ】マルチすぎる脚質を誇るワウトが神々しい姿でモン・ヴァントゥを制す「僕はいまだ復活途上にいる」

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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【ハイライト】ツール・ド・フランス 第11ステージ|Cycle*2021

その特別な脚と、特別な運命。前日はピュアスプリンターたちに混ざり区間2位に滑り込んだワウト・ファンアールトが、この日はツール屈指の伝説峠、モン・ヴァントゥを先頭で駆け抜けた。イネオス・グレナディアーズとユンボ・ヴィスマは極めて攻撃的に走り、タデイ・ポガチャルは魔の山でほんのわずかな綻びを見せたが、すべてを冷静に、正確に対処した。

独走するワウト・ファンアール

独走するワウト・ファンアール

「言葉にならない。僕のキャリアの中ではダントツで最高の勝利だ。ツール・ド・フランスの山岳ステージで、しかもモン・ヴァントゥという歴史的な山で、独走勝利を手に入れられたなんて。間違いなく、少し前の僕なら、信じられないような快挙だよ」(ファンアールト)

前日までの悪天候が嘘のように、朝目覚めると、南仏プロヴァンスには突如として真夏が訪れていた。蝉の声と、風にゆれる糸杉。太陽の光は強烈に照り付け、しかし木陰の空気は、ひんやりと心地よい。からりとした、フランスらしい夏。悪魔のようにそびえたつモン・ヴァントゥは、すっぽり雲の帽子をかぶっていたけれど、心配された雨も、強風もなかった。

戦いはジュリアン・アラフィリップのアタックで幕を開けた。初日ステージ勝利で、1日だけアルカンシェルをマイヨ・ジョーヌに交換した世界チャンピオンは、「人生初」のモン・ヴァントゥへと攻撃的に挑みかかった。自らが火をつけたアタック合戦をかいくぐり、ぴたり張り付いてきた赤玉ナイロ・キンタナさえ力づくで振り払うと、1つ目の4級峠で矢のように飛び出した。そのまま直後の中間ポイントまで独走を貫き、同僚マーク・カヴェンディッシュのマイヨ・ヴェール保守に向け先頭通過……というウルフパック精神も忘れなかった。

その後ようやく他選手の合流を許し、追いつてきたダニエル・マーティン、ピエール・ローランとアントニー・ペレスと共に、4人の先頭集団を作り上げた。

その背後ではファンアールトも猛烈に、何度となく、加速を試みた。上り坂フィニッシュの初日2日間や個人タイムトライアル、クラシック並みの長距離戦……と1週目に幾度もマイヨ・ジョーヌ着用の機会がありながら、ここまで決して目標を達成できずにきたーー一方の宿敵マチュー・ファンデルプールは6日間黄色で過ごしたーー。5月の虫垂炎手術のせいで生じた調整のズレを、正すのに苦心したせいだった。ただ、幸いにも、調子はクレシェンド!

「ツール開幕前には、このステージを勝てるなんて期待さえしていなかった。でも昨日、行ける、と感じたんだ。今朝はチームメートたちにも逃げを宣言した。信じさえすれば、すべてが可能なのさ」(ファンアールト)

ただし真っ先に飛び出したアラフィリップとは異なり、ベルギーチャンピオンを含む13人の追走集団が出来上がったのは、ようやく50kmほどの奮闘の果て。そこからさらに40km近い追走をも余儀なくされる。そして残り約100km。モン・ヴァントゥへの1度目の登坂口で、ついに前を行く4人と合流を成功させた。計16人に大きくなった逃げ集団は、後方プロトンに5分20秒差をつけ、ツール史上初のモン・ヴァントゥ二重登坂へと乗り込んだ。

大急ぎで集団内のセレクションを仕掛けたのは、やはりアラフィリップだった。山道のちょうど半ばで、せっかちに加速を切ると、逃げを7人に絞り込む。アラフィリップ、ファンアールト、アントニー・ペレス、ヴェガールステイク・ラエンゲン、ルーク・ダーブリッジ、そしてジュリアン・ベルナールとケニー・エリッソンド。後者2人のチームメート、バウケ・モレマも1度は遅れをとったものの、最初はピエール・ローランと共に、最後は単独でブリッジを仕掛けた。トレックの同僚たちが逃げの最後尾で待っていてくれたおかげで、山頂へたどり着く前に、無事に先頭集団へと加わった。

ちなみにイケイケなアラフィリップは、本日1回=ツール史上17回目のヴァントゥ先頭通過さえ、積極的に獲りに行く。

ジュリアン・アラフィリップ

ジュリアン・アラフィリップ

「自分のために楽しみたかったんだ。時にはこんな風に、計算をしない走りも大切さ。先頭でモン・ヴァントゥを通過できたのは嬉しかった。あの山に登ったのは初めてで、つまり小さな歴史を刻むためだった」(アラフィリップ)

もちろん8人中3人のトレックが、その後は逃げ集団で主導権を握る。まずは1987年にこの禿山で個人タイムトライアルを制したジャンフランソワ・ベルナールの息子、ジュリアンが精力的な牽引を行った。2回目の登坂口で仕事を終えると、次はエリッソンドの番だった。2013年にスペインの魔の山アングリルを勝ち取ったポケットクライマーは、フランス版魔の山でも先行を開始した。

「麓の急勾配ゾーンでアタックを打った。ファンアールトを風の強い山頂まで連れて行ったら、絶対に振り払えないだろうことは分かっていたから。それに僕は切るべきカードを切った。これでバウケが後ろで体力を温存できるはずだった。でも僕らは難関にぶち当たった。僕らよりはるかに強い壁だった」(エリッソンド)

残り36km、ファンアールトは少し先を行くエリッソンドを追いかけ、あっさり追いついた。共に走っていたアラフィリップとモレマは、ほぼなんの抵抗もなく振り払った。さらにはフィニッシュまで33km、山頂まで約11km。勾配9%超の急勾配で、ついにファンアールトは勝利へと続くアタックを決めた。力強いダンシングで、まるで山道を飛ぶように上ると、独走態勢に持ち込んだ。

モン・ヴァントゥ山頂はあくまで通過地点。天高く聳える気象観測塔の脇をすり抜けた後には、22kmの長く曲がりくねった下りが待ち受ける。もちろんシクロクロス世界制覇3回のチャンピオンは、まるで危なげなくコーナーを攻めた。エリッソンドと、さらにはアラフィリップを置き去りにして猛烈な追走モードに切り替えたモレマのトレックコンビの追い上げを、一切許さなかった。

ワウト・ファンアールト

神々しい姿でフィニッシュするワウト・ファンアールト

ペダルに立ち上がり、まるで山の神が降臨したかのような、神々しい姿でファンアールトはフィニッシュエリアに姿を現した。2019年から3年連続出場で、3年連続4つ目の区間勝利。うち3つは横風分断やちょっとした起伏を含む集団スプリントで、難関山岳ステージをもぎ取るのは初めて。マルチすぎる脚質を誇るワウトは、するとこれを第一歩に、近い将来、総合系進化計画を本格的に始めてしまうかもしれない。

ところでツール終了直後に東京へ飛び、シャンゼリゼ6日後のロードレースはもちろん、10日後の個人タイムトライアル出場が決まっているファンアールトは、MTB出走ファンデルプールとは違って、ツールでの連日の奮闘こそが最高の調整になると考えている。

「もちろんパリまで行く。そもそも初めからそういう計画だし、僕はいまだ復活途上にいる。今ツールは毎日徐々に調子が上がってきているし、開幕時よりはるかに調子はいい」(ファンアールト)

区間争いのはるか後方のメイン集団は、ほぼ1日中、イネオス・グレナディアーズが制御に努めた。逃げの形成と同時に、文字通り8人全員で隊列を組み上げると、リチャル・カラパスのために強烈なテンポを刻んだ。だからこそ最終牽引役ミハウ・クフィアトコフスキーが、モン・ヴァントゥ通過2回目の山頂手前2kmでぎりぎりの奮闘を終えた時、総合5位カラパスの周りに踏みとどまっていたのは、ただ総合首位ポガチャル、総合3位リゴベルト・ウラン、4位ヨナス・ヴィンゲゴー、7位ウィルコ・ケルデルマン、8位アレクセイ・ルツェンコの5人だけとなっていた。

モン・ヴァントゥ

モン・ヴァントゥ

チームメートたちの尽力むなしく、カラパスは反旗を翻すことはできなかった。休息日前の2日間、たしかに最終的には失敗に終わったとはいえ、積極的な動きを見せてきたはずだ。しかし、この日は、直後のヴィンゲゴーの加速に反応すらできなかった。

そもそもただ1人動けたのはポガチャルだけで、そのマイヨ・ジョーヌさえもすぐに脚が止まる。初めての失速。寒さが得意なスロヴェニア人に、急激な気温上昇は堪えたのだろうか。それとも第1週目に繰り返してきたとてつもない努力の反動か。

「200mほどついていったあと、脚が止まってしまった。アタックへ反応しようと力を絞り出しすぎて、あれ以上は無理な状態になったんだ。失速し、離されてしまった」(ポガチャル)

ただし、あくまでも小さな失速に過ぎない。22歳のディフェンディングチャンピオンは、自分の代わりにマイヨ・ブランを着るヴィンゲゴーの背中が遠ざかっていくのを見送りつつ、冷静に状況を判断し、すぐさま今の自分が取るべき最善の行動へと切り替えた。

「山頂までマイペースで上るよう心掛けた。それほど距離は残っていなかったから、あとたった2分ほどの努力で良かった。一旦山頂までたどり着いたら、ただ超高速でダウンヒルへと飛び込むだけ」(ポガチャル)

その山頂ではヴィンゲゴーには40秒ほどの差をつけられたが、下りを利用して、計算通り、フィニッシュまでにきっちり回収を済ませた。下り開始と共に再合流したカラパスやウランも味方となった。しかもファンアールトが勝利を祝った1分14秒後に、エリッソンド&モレマ2人組が区間を終えていたせいで、ボーナスタイムを誰かに取られる心配すらなかった。

「終わってみれば、良い1日だった」(ポガチャル)

総合ライバルから1秒たりともタイムを失わなかったのだから、もちろんだ。一緒にフィニッシュラインを越えたウランが総合3位から2位へ、ヴィンゲゴーが4位から3位へ、カラパスが5位から4位へと順位をスライドさせたが、3人とのタイム差は変わらない。むしろ今区間を総合2位として走り出したベン・オコーナー2分01秒が、5位5分58秒差に後退したことで、とうとうポガチャルの5分圏内にはただの1人もいなくなってしまった。一方で総合2位ウラン5分18秒差から6位ケルデルマン6分16秒差まで、つまり2位から6位までの5人は1分以内にひしめいている。

ひどく暑く、ひどく激しかった1日の終わりに、新たに8人が大会を離れた。ファンアールトが区間を制し、ヴィンゲゴーがマイヨ・ジョーヌを苦しめる……という前も後ろも大活躍のユンボ・ヴィスマだったが、ステージ序盤にトニー・マルティンを落車リタイアで失った。大会序盤の落車で3日目にロベルト・ヘーシンク、8日目にプリモシュ・ログリッチがすでに帰宅しており、チームメンバーは早くも5人に減ったことになる。またイネオス・グレナディアースのルーク・ロウは、カラパスのために大いに働いた後、制限時間内にフィニッシュにたどり着くことができなかった。

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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