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【宮本あさかのツール2020 レースレポート】22歳の若き勢いが大会史上初の無観客山頂フィニッシュで炸裂!ポガチャル「最終週、チャンスがあれば、マイヨ・ジョーヌを獲りに行く」 / 第15ステージ
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかタデイ・ポガチャル
少年時代は「ちっちゃなポギ」と呼ばれていたタデイ・ポガチャルが、またひとつ大チャンピオンへの階段を上がった。ユンボ・ヴィスマ5人衆が刻んだ凄まじいリズムを、たった1人で軽々と乗りこなし、ひらりと勝利をさらい取った。スロベニアの先輩プリモシュ・ログリッチは、スプリントにこそ敗れたけれど……ずばぬけたチーム力と個人力とで、他のあらゆるライバルを完膚なきまでに圧倒した。
「うん、これからの計画は、ツールの総合を勝つこと!!」(ポガチャル)
暑い日曜日だった。気温計の数字は上昇を続け、「まさに7月末の気候です!」と天気予報は繰り返した。まるで「いつもの」ツール・ド・フランスのように、沿道にはサンダル姿の笑顔が並んだ。季節外れのひまわりが、ところどころで咲いていた。
長い平坦の先には、3つの恐ろしい難峠が突き立っている。しかし、そんなものの存在が、選手たちの勇気を挫くことなどないのだ。「だって翌日は休息日だったし、山岳ポイントもたくさん収集できるし」。こうピエール・ローランが語ったように、スタート直後からたくさんの選手が前方へと飛び出した。もちろん発言した本人も活発に攻撃を繰り返した。すでに第12ステージ(2位)と第13ステージ(5位)でロングエスケープを企て、「本当は自分としては今日は逃げるつもりはなかった」らしいフレンチクライマーだが、脚のうずうずは抑えられなかった。
しかもステージ前半は、キング・オブ・スプリンターたちにとっても大切な時間だった。だって山に入る前の58km地点に、中間ポイントが待ち構えているのだ。緑のサム・ベネットと、緑ではないペーター・サガンが、互いに睨み合いながら前方に飛び出したことさえ!
おかげで序盤30分は時速56km……というあり得ないほどの高速で突っ走った。ぴりぴりした空気が集団内に充満し、いくつかの落車が発生する。セルジオ・イギータは2度転び、涙のリタイアを余儀なくされた。
それでも30kmほど走った先に、前方に小さな一団ができあがった。ケヴィン・ルダノワ、シモン・ゲシュケ、マッテオ・トレンティン、ヘスス・エラダ、ニッコロ・ボニファツィオ、ミヒャエル・ゴグル、マルコ・マルカート、そしてもちろんローランの8人は、大急ぎでプロトンから遠ざかって行った。
たとえ逃げ集団に行かれてしまったとしても(しかもポイント賞3位のトレンティンに逃げられてしまったとしても)、中間ポイントは、9位争いのスプリントでやっぱり加熱した。いつものようにミケル・モルコフが、発射台の鏡のような働きを披露する。サム・ベネットに9位7ptを確実に獲らせるとともに、自ら次点に滑り込み、サガンのポイント収集の邪魔をした。おかげでサガンは、前夜かろうじて43ptにまで縮めたポイントを、またしても45ptへと離されてしまった。近年稀に見る熾烈なマイヨ・ヴェール争いは、果たして最終週にも繰り返されるのだろうか。いまだポイントは265pt残っている。
同じポイント争いでも、山岳ポイント争いは、今大会ここまで大した盛り上がりを見せてこなかった。ブノワ・コヌフロワとアントニー・ペレスが第2・3ステージで仁義なき戦いを繰り広げたものの、3日目に後者が落車負傷でリタイアして以来……いまだ前者が総計36ptで赤玉のまま。
すると8人の逃げは、区間勝利を追い求める旅であり、同時に赤玉を巡る戦いでもあった。3つある山のうちの1つ目の山に、4分40秒差で上り始めると、真っ先にゲシュケが加速に転じる。ローランとエラダがすかさず反応し、22%ゾーンでジグザグ走行を見せたゴグルも、粘り強く食らいつく。こうしてゴグル12pt、エラダ9pt、ゲシュケとローランは8pt……と、すでに以前からある程度の山岳ポイント収集を開始していた4人が、最前列へと集った。
1つ目の1級峠は、マイペースで上ったエラダが、山頂間際でライバルを出し抜き先頭通過を果たす。2つ目の1級峠は、ローランが早めに独走態勢に入り、きっちり満点を手に入れた。さらに3つ目の超級グラン・コロンビエには、最後まで生き残ったローランとゴグルが2人で上り始めたが……無念にもポイント収集には至らなかった。終わってみればローラン26pt、エラダ25pt、ゴグル24pt、ゲシュケ18ptと、相変わらずコスヌフロワから赤玉を脱がせられぬまま。ちなみに今区間勝者のポガチャル34pt、マイヨ・ジョーヌのログリッチ33ptも、ぎりぎりジャージに手が届かない。
「幸運な1日だった。だってログリッチが勝っていたら、抜かれてたから。正直に言って、エスケープに乗ろうと努力すること以外は、僕にはなにもすることは出来なかった。しかもトライしたけど、上手く行かなかった。だから山岳ジャージを守れたことには満足さ。どんなにギリギリだとしても」(コヌフロワ)
さて、最終峠グラン・コロンビエでついに独走態勢に持ち込んだローランだが、9年前のツール新人賞は、間もなく先頭から引きずり降ろされることになる。タイム差はわずか1分。しかも平坦部分から着実に集団制御を務めてきたユンボ・ヴィスマが、スピードを極限まで上げて、恐るべきスピードで山岳列車を走らせたせいだ。
長い下りを経た先の、グラン・コロンビエの麓では、メイン集団はいまだ40人ほどの塊だった。その時点で6人と、圧倒的な数的優位を誇ったユンボ軍団は、17.4kmの山道を大規模な戦場へと変えた。まずは前峠から引き続きロベルト・ヘーシンクが先頭に立ち、ペースを上げる。
最も衝撃的で、最も効果的な仕事をやってのけたのは、ワウト・ファンアールトだった。平地の大集団スプリントで2勝した元シクロクロス世界王者は、山道でも容赦なく非情なリズムを刻む。しかし「集団内でアタックの発生を避けるため」に行った保守的作業は、むしろ甚大な被害を生み出した。山頂まで13km、勾配10%超の難ゾーンで、総合3位エガン・ベルナルと総合5位ナイロ・キンタナとを地獄に突き落とした!
ところで、残り8.9km地点で任務を終えたファンアールトは、自らの犠牲者たちと一緒に山頂を目指している。数名のアシストに支えられ、力なく山を登るディフェンディングチャンピオンを、つまり背後からじっくり観測することができた。
「ベルナルはまさに穴の中に落ちてしまった感じ。単純な『バッドデー』じゃなくて、あれは『とてつもないバッドデー』だね」(ファンアールト)
最終的にキンタナは3分50秒、ベルナルは7分20秒を失う。パリ到着まで1週間を残し、早くも総合優勝の望みを失った。
大きくタイムを失った前回大会王者のベルナル(中央)
山岳ステージの先頭集団からイネオスを全員追い出す……という近年ありえない状況を作り出した大物は、集団の規模を17人にまで削ってから、バトンを引き渡した。次はジョージ・ベネットの時間だった。総合11位ギヨーム・マルタンを蹴散らし、いまだ数人残っていたアシストたちを、エースから少しずつ引きはがしていく。残り7kmのアダム・イェーツが加速攻撃に転じるまで、堅実に任務を遂行した。
アダムの一発。テンポが速すぎて、誰もがついていくだけで精一杯な状況の中で、マイヨ・ジョーヌ4日間着用の地力を見せた。ただ対応にはトム・デュムランがあたり、1kmほど先で、きっちり回収した。それにしても大会8日目に「本調子じゃないから」と、アシスト役への降格を自ら選んだ元ジロ総合覇者だったが、どうやらいよいよ調子を取り戻したのではないか。勾配12%超ゾーンは淡々と、少し勾配の緩んだ箇所は鬼気迫るほどのスピードで、元世界TT王者は引き続けた。
「仲間たちはすごく強かった。誰もが調子も良かったね。チームメート1人1人の働きに『脱帽』だ。彼らは恐ろしい列車を牽引し、しかも僕は一切の指示を出す必要すらなく、凄まじく速い。誰もが完璧に自分の仕事を成し遂げてくれた」(ログリッチ)
デュムランは残り600mまでモーレツに引き倒した。先頭集団は11人に小さくなり、前から3人がユンボ隊列だった。その2番目に潜んでいたマイヨ・ジョーヌは、大きなアシストの背後に潜み、じっと下ハンで機をうかがった。チーム全員で作り上げた作品を完成させるために、あとは自らが飛び出すのみ!
ポガチャルとミゲルアンヘル・ロペスがすぐさま後輪に飛び乗る。リッチー・ポートも一瞬は出遅れながら、執念深くついていく。あまりにチームメートたちの調子が良かったものだから、ここまで一切出番のなかったセップ・クスが、慌ててログラの前にまわって数十メートル引いたほど。
「残念ながら、僕の力がちょっとだけ足りなかった」(ログリッチ)
ポートが先行し、残り150mでポガチャルが仕掛けると、マイヨ・ジョーヌもスプリントに飛び込んだ。しかし若き勢いが「大会史上初の無観客山頂フィニッシュ」で炸裂。1年前の9月14日、スペインのグランツールで3つ目の区間勝利を手にした早熟な才能が、22歳の今年、世界最高のグランツールで2つ目の区間勝利をもぎ取った。
「ギフト?いやいや、違うよ。彼の方が強かっただけ。僕は本当に勝ちたかったんだから!だから少しがっかりしてる。でも彼はとにかく強かったんだ」(ログリッチ)
ポガチャルは10秒の、ログリッチは6秒のボーナスタイムもそれぞれ収集した。つまり互いについて「何でも話せる友達」(ポガチャル)、「ライバルであり友達」(ログリッチ)と語るスロベニアっ子2人の関係は、前日までの44秒差から、40秒へと縮まった。さらに年下の口から、記者会見中、幾度となく「マイヨ・ジョーヌ」との単語が聞かれるようになった。
「最終週、チャンスがあれば、マイヨ・ジョーヌを獲りに行く。たしかにチームから2人リタイアが出ているのは痛い。ただみんな僕の側にいて、素晴らしい仕事をしてくれている。だからジャージを守ることだって出来ると確信してる。それにプランシュ・デ・ベルフィーユの個人タイムトライアルは、好きなタイプのコースだ」(ポガチャル)
スロベニアントップ2の後には、前日まではコロンビアの4人が並んでいた。ただしベルナルとキンタナの脱落により、リゴベルト・ウランが1分34秒差の総合3位に、ミゲルアンヘル・ロペスが1分45秒差の総合4位につける。
15日間の戦いを終えたプロトンは、アルプスにて静かに2回目の休息日を過ごす。ご存知の通り、あくまで「チームバブル」厳守。家族や友達には会えず、外界との「オンライン以外」の交流は許されない。もちろんチームの選手&スタッフの全員がPCR検査を受け、同じチーム内で2人以上の陽性者が出た場合は、チームごと大会を離れなければならない。アフターコロナのツール・ド・フランスでは、最後まで決して心休まる時はない。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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