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サイクル ロードレース コラム 2020年9月9日

【宮本あさかのツール2020 レースレポート】サム・ベネットが史上最強の緑男からまたしてもジャージを奪う「このチームが誇らしいし、本当に満足している」 /  第10ステージ

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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サム・ベネット

グリーンジャージを奪い返したサム・ベネット

2020年ツール・ド・フランス前半戦の最大の焦点は、間違いなく、マイヨ・ヴェール争いだろう。史上最多7回も緑ジャージを持ち帰った男ペーター・サガンに、サム・ベネットが真っ向から立ち向かう。3日前に風の中で失ったジャージを、この日は風の中でまんまと取り戻した。なにより、とうとう待ちに待った初めてのツール区間勝利を手に入れ、思わず感涙にむせんだ。プリモシュ・ログリッチはひどくめまぐるしいマイヨ・ジョーヌ初日を難なく切り抜け、総合トップ15圏内の選手たちは、転んだり遅れたりしつつも……一切のタイム変動はなかった。

「ずっとツールで勝つことを夢に見てきたけど、それが果たしてどんなものなのか、どうしても想像できなかった。だけど、ついに、成し遂げた。すべてが上手く行った。ラインを越えた瞬間は、まだ信じられなかった。それから、突然、一気に感動が湧き上がってきた。本当に幸せだ」(ベネット)

そわそわと1回目の休息日が明けた。出場22チームの選手・スタッフの「チームバブル」全650人と、選手たちと接触する立場にある「レースバブル」191人の計841人が、第9ステージの朝と休息日に分けてPCR検査を受けた。イネオス グレナディアーズ、アージェードゥゼール・ラモンディアル、コフィディス、ミッチェルトン・スコットのスタッフが1人ずつ陽性となり、またレースバブル内の技術者1人が陽性と判明した。幸いにも大会1週目を生き残った165人の選手は、全員が陰性。つまり「連続する7日間で2人以上の陽性者を出したら撤退」に該当するチームはなく、すべての選手が、問題なく2週目へと走り出した。

ただツールの「主」であるクリスティアン・プリュドムが、陽性と判定された。特筆しておくと、プリュドムは「レースバブル」の中にはいない。連日オフィシャルカーに招待客を迎え入れ、朝も夜も自治体やスポンサー関係者への挨拶回りという立場から、今回はあえて選手やチームとの接触は断っていた。検査も「自発的」に受けた。幸いにも症状は一切なし。すぐに大会を離れ、1週間の隔離生活に入った。ちなみに2003年までフランス公共放送局でツール実況を務め、2004年に開催委員会へ入り、2007年に開催委員長へ就任したプリュドムにとって、実に17年ぶりのツールTV観戦となる。

代わりにレース委員で、パリ〜ニースではレース委員長を務めるフランソワ・ルマルシャンがスタートフラッグを振り下ろすと、シュテファン・キュングとミヒャエル・シェアーが加速。大西洋の美しき島オレロンからフランス本土へと向かう橋の上で、前方へと飛び出した。すかさずプロトン前線は横一列に並ぶ。いわゆる「蓋を閉じ」、あっさり逃げを見送った。

スイスの強脚ルーラーの背後で、ただしメイン集団のスピードはちっとも緩まない。風のせいだ。大西洋の島から島へと向かうステージ上には、いくつも「分断」のリスクが待ち構えていた。誰もが集団前線に居場所を確保しようと、神経質にポジション取りを繰り広げた。特に大会7日目にボーラ・ハンスグローエが仕掛けた罠にはまった……本来ならば横風職人のドゥクーニンク・クイックステップが、この日は集団先頭で猛烈なリズムを刻む。おかげで序盤1時間の時速は49km超!

2人は力づくでどうにか2分ほどのタイム差を開くも、再び非情にも距離は縮まっていく。そして残り約102km、北西への方向変換と共にウルフパックがガツンと加速し、希望通りに分断を作り出したタイミングで、逃げにも終止符が打たれた。

風に加えて、この日やっかいだったのは、市街地に、狭い道幅、そして繰り返されるイロー(中央分離帯)やロンポワン(ロータリー)。風分断に慌てた選手たちが前へ前へと押し寄せたとき、これらは凶器に変わった。残り99km地点で、まずは1つ目の大きな集団落車が発生する。メイン集団半ばで、将棋倒しが起こる。複数が激しく地面に叩きつけられ、サム・ビューリーは左手首骨折で即時リタイアに追い込まれた。マイヨ・ジョーヌ護衛隊のロベルト・ヘーシンクもまた、右半身を痛めた。

その後スピードは落ち着き、脱落者たちも次々と集団復帰を果たすが、最前列は相変わらず混雑を極めた。誰もが次の攻撃を恐れていた。総合エースもスプリンターも位置取りにナーバスになり、特に7日目に風で1分21秒を失ったタデイ・ポガチャルのために、UAEチームエミレーツはがっちりと隊列を組んだ。しかし残り65km、ロシュフォールの市街地に入ったきっかけで……その前線が2度目の集団落車の犠牲となる。総合3位ギヨーム・マルタンや総合7位ポガチャルが巻き込まれ、ブライアン・コカールは背中から落ちた。無線機ごと腰を打ち付けたせいで痛みがひどく、監督から「今日はスプリントするな」と忠告されたほど。

もちろんコカールが我慢できるはずもなく、その後の中間スプリントではまっさきに仕掛けた。ただし1位通過を成功させたのはマッテオ・トレンティン。発射台ミケル・モルコフに連れられて前へ向かったベネットだが、必死に2位通過を果たしたサガンの背後で、決してもがかなかった。第5ステージでは中間で張り切って先頭通過も、フィニッシュでは3位に沈んでいる。今回の静けさは、おそらく、体力を無駄遣いしないための作戦だった。

残り31kmで3度目の落車が起こり、そのせいでちょっとした分断が起こると、さらにぴりぴりするような緊迫感が増した。しかもここから先は、方向変換+ロータリーの連続だ。道幅いっぱいに6〜7本のチーム隊列が並び、激しい競り合いを繰り広げる。イネオス・グレナディアーズが先頭でカーブに突っ込み、ユンボ・ヴィスマがスピードを上げ、そして残り19km、「扇」が開かれた。つまり最前列が風向きに合わせて斜めに隊列を組み、後方を千切にかかったのだ。

集団は3つに割れた。むしろ、またしても、メイン集団で集団落車が起こった。つまり4つ目だ!総合9位ミゲルアンヘル・ロペスや3日間黄色を満喫したジュリアン・アラフィリップ、昨ジロ総合覇者リチャル・カラパスが巻き込まれ、まさしくカオス。しかも直後には、海の上へと出る。あらゆるチームが入り乱れ、もみくちゃのスプリントで、レ島へとつながる橋へと走り込んだ。この橋の上でキュングが単独で短い飛び出しを見せ……敢闘賞を確保したしたあとも、いつまでもプロトンの猛進は終わらなかった。

ラスト10kmに入ってからは、ユンボ・ヴィスマとサンウェブの2本の列車が、周囲を圧倒する。ユンボのGM曰く「イエローマシーン」は、タイム救済措置が発動するラスト3kmで無事に任務を終えたが、ここまでスプリントで3位→7位→2位と勝利まであと一歩のケース・ボルを支えるサンウェブ隊は、フラムルージュを4両列車でくぐり抜けた。

先頭で突き進むトレインを、しかし発射台職人モルコフが350mでするりと抜き去る。もちろん背中には、ベネットが潜んでいた。

「このチームが誇らしいし、本当に満足している。信じられないような仕事を成し遂げてくれた。ただ僕のためだけに、切れ目なく働き続けてくれた。チームのみんなに感謝したい。彼らが僕にこの機会を与えてくれた。どれほど感謝してもしたりないほどさ」(ベネット)

あとはスピードに乗って一直線。ラスト150mを先頭で駆け抜けた。自らの後輪からスプリントを切ったカレブ・ユワンにも、その後ろにいたサガンにも、一度も先行を許さなかった。今大会ここまで4位→2位→3位と涙を飲んできた後の、嬉し泣き。2018年ジロで区間3勝を、2019年ブエルタで2勝を上げ、「サガンと同チームだとツールには絶対に呼んでもらえないから」と、今年思い切って移籍した新チームで、念願のツール1勝目を計上した。

ログリッチとサガン

レース前のログリッチとサガン

もちろんマイヨ・ヴェールも3日ぶりに取り戻した。区間勝利で大量50ptを稼ぎ出したおかげで、7pt差の2位から、21ptリードの1位へと浮上。1度だけでなく、2度までも、サガンからジャージをむしり取った。もちろん史上最強の緑男も黙ってはいない。「ベネットがグリーンジャージを手にしたけど、まだツールは半分終わっただけ。まだまだジャージを取り戻すチャンスはあるよ」と、リベンジを誓う。

最終的にプロトンは時速46.943kmでドタバタと忙しい休息日明けを終えた。一度は遅れたマルタンやポガチャル、ロペスやカラパスも、無事にメイン集団でフィニッシュし、その他3つのジャージにも変更はなかった。おそらく初めてのマイヨ・ジョーヌをゆっくり心から堪能する暇はなかったけれど、それでもログリッチは、これまでとの違いをはっきりと感じた。

「マイヨ・ジョーヌはなんといっても自転車界で最高のリーダージャージ。僕はその頂点にいる。このジャージを着ていることを心から誇りに思う。ツールはツールだ……なにものにも代え難い存在だ。1度でもこのジャージを着たことがある人なら、誰でも理解してくれると思う。これは中毒になるね」(ログリッチ)

文:宮本あさか

宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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