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【宮本あさかのツール2020 レースレポート】アラフィリップが20秒のペナルティで首位陥落。代わってマイヨ・ジョーヌのアダム・イェーツ「誰だってこんな風に着たいと思わない」 / 第5ステージ
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかマイヨ・ジョーヌを着たアダム・イェーツ
なんにもない1日の果てに、2つのサプライズが待っていた。良い衝撃は、前夜オルシエール・メルレットの1級峠で総合系クライマーたちを大いに苦しめたワウト・ファンアールトが、この日は純正スプリンターたちをまとめて薙ぎ払ったこと。そして悪い衝撃は、予想外のマイヨ・ジョーヌ交代劇が発生したこと。差をつけたのはペダルでも、落車やメカトラでもない。完全なる「無自覚」のルール違反によるペナルティだった。ジュリアン・アラフィリップはわずか3日で黄シャツを脱ぎ、アダム・イェーツが思いがけない栄光に酔いしれた。
「あまりに簡単なステージだったから、昨日の疲労を回復する時間はたっぷりあった。もしかしたらキャリアで一番簡単なステージだったかも。ただし、最終盤は、すごく難解だった」(ファンアールト)
日差しは強く、しかし風はすでに秋の涼しさをまとっていた。コース上には、首をがっくりとうなだれたひまわり畑が広がり、今が7月ではないことを改めて思い出させる。真夏の浮かれたような熱はどこにもなく、奇妙で寂しい2020年のフランス一周。
しかも5日目のプロトンは、ひどく淡々としていた。アラフィリップ曰く「すごく退屈で、すごく長いステージ」。開幕からの4日間は、スタートフラッグが降り降ろされると同時に誰かしらが弾丸のように駆け出して行ったものだが、この日はひとりも動かなかった。4km地点でようやくカスパー・アスグリーンが飛び出すも、あっという間に集団に回収された。
どうやら選手たちは逃げないことに決めたのだ。開幕からの4ステージがあまりにも厳しかったせいかもしれない。第1ステージの落車の影響を引きずる選手はいまだに多く、山岳続きで疲労も大きかった。ステージ後にブライアン・コカールが「今ツールがあまりにも難しいせいで、みんな恐れているんだ」と証言したように、今後を考えての体力温存策だったのかもしれない。序盤から難所をこれでもかと詰め込み、ひどく挑戦的なコースを描き上げた開催委員会は、思わぬしっぺ返しを食らってしまった。
決してのろのろと走っていたわけでもない。単に目に見える動きがなかっただけ。最初の勝負地である47.5km地点=中間スプリント地点へ向けて、プロトンは時速42km超で突き進んだのだから。
ここで意欲を見せたのは、やはりドゥクーニンク・クイックステップだった。前日の第4ステージでも、エーススプリンターのサム・ベネットは、ポイントを最大限に収集している(メイン集団先頭通過で9pt獲得)。ただ無念にもペーター・サガンに同点で並ばれたせいで、総合順位の比較でポイント賞2位に甘んじた。つまりこの第5ステージで、1点でも多くサガンよりポイントを獲れば、マイヨ・ヴェールに手が届く。
ウルフパックの強い連帯に支えられ、ベネットは先頭通過を成功させた。しかも専用発射台ミケル・モルコフが、最後までもがき2位に滑り込んだ。つまりサガンやその他ライバルたちのポイントをしっかり潰すほどの、念の入れようだ。おかげで4位通過のサガンがたったの13ptしか収集できなかったのに対して、自身は満点20ptを懐に入れ、まんまと緑ジャージ争いで「暫定」首位に立つ。
そもそも逃げがあろうがなかろうが、選手たちには気を休める暇などなかった。スタートからフィニッシュまで道は大蛇のようにうねっていた。しかも終盤には強いミストラルが吹き荒れる危険性だってあったのだ。だからこそ総合優勝候補を擁する複数チームは、常に集団前方で警戒態勢を続けた。横風分断にはまらぬよう、落車の罠に落ちぬよう、互いに目を光らせ合った。
ただ結局のところ、2つの4級山岳でブノワ・コスヌフロワがほんのわずかな山岳ポイントを収集したのと、残り9kmでイネオス・グレナディアーズの分断作戦が失敗に終わったこと以外は、なにも起こらなかった。レース委員長・元選手・記者の計4人で構成される敢闘賞審査委員会は、困ってしまったに違いない。最終的には第1ステージでの肋骨骨折に負けず、この日も7分以上遅れながら、最後まで走り抜いた勇敢なるワウト・プールスの手に「赤ゼッケン」が贈られた。
幸いにも、最後のスプリント合戦には、ステージ全長183km分の面白さがぎゅっと凝縮されていた。ラスト1kmを示すフラムルージュを、先頭で潜り抜けたのはサンウェブの4両列車。その4両目..つまりエーススプリンターのケース・ボルの後輪争いを制して、194cmの長身の背後にすっぽりと入り込んだのはファンアールトだ。そして200mでオランダ人が道の左側でスプリントを切ると..オランダチームのベルギー人は右に思い切って飛び出した!
元シクロクロス世界王者は、ぐん、と力強い伸びを見せると、一気にボルに並ぶ。自らの背後につくことを選び、同じ右側にハンドルを切ったサガンやベネットを、あっさり置き去りにするほどの力強さだった。フィニッシュラインではハンドルを投げた。..1年前の第10ステージではエリア・ヴィヴィアーニとのハンドル投げ合戦を制したファンアールトが、この日はボルを蹴散らした。
ステージ優勝のワウト・ファンアールト
「このステージにはあらかじめ目をつけていたんだ。ロードブックでしっかりコースを確認した。最終盤は僕向きだったから、スプリントに飛び込んだ。今日はリーダーのために働く必要がほとんどなかったし、チームが僕にこんなチャンスを与えてくれたことが本当に嬉しい。そのチャンスをつかめたことにも満足だ」(ファンアールト)
ツール2度目の参戦で、2度目の区間勝利。新型コロナウイルスによる中断からのシーズン再開後、このツール第5ステージまでに14日間レースを走り、なんと5つ目の勝利を手に入れた。またユンボ・ヴィスマにとっては2日連続の区間勝利であり、ちなみに前日のプリモシュ・ログリッチは再開後6勝目だった..!
「成功のコツは、もらったチャンスをすぐに生かすこと。今年の僕はそれほど多くのチャンスがあったわけじゃないけれど、十分な勝利を手にすることができている。ただし、これから数日間は、再びチームのためにひたすら働くつもり。チームはすごく調子がいい。この勢いをキープしていかなければならない」(ファンアールト)
すぐ背後で繰り広げられたサガンvsベネットの一騎打ちは..「マイヨ・ヴェール争いに集中しすぎて、区間争いのことはすっかり忘れてしまった」と冗談を飛ばすアイルランドチャンピオンが制した(ベネット3位、サガン4位)。おかげで中間スプリントと合わせて、この日だけでサガンを9pt引き離し、まんまと緑ジャージを剥ぎ取った。
「グリーンジャージを着られて心から満足している一方で、ステージが勝てなかったことには、やっぱり満足できないよ。それにジュリアン(アラフィリップ)が、ジャージを失ってしまったし..」(ベネット)
表彰式の途中に、衝撃的な一報が飛び込んできた。すでにマイヨ・ジョーヌ用控室に入っていたアラフィリップに、20秒のペナルティが課されるというのだ。UCI競技規則2条12.007とツール競技規則6条の「ステージ最終20km以内の補給は許可されない」に抵触したせいであり、17kmで補給を受け取ったアラフィリップ以外に、セップ・クスとカルロス・ベローナも同様の処分を下されている。
結果としてアラフィリップは、わずか4秒リードで守っていた総合首位の座から、16秒差の16位まで転がり落ちた。1年前は「ステージ中断」で不完全燃焼のまま黄色いシャツを手放したが、今年は「不注意」のせいだった。
「ルール違反を犯しているという意識は、自分としては全くなかったんだ。審判団の公式な決定に、僕は従うだけ。どうすることもできないよ。明日またトップに返り咲くまでさ!」(アラフィリップ)
もちろん前日まで2位につけていたイエーツが、代わりに黄色の権利を得た。2018年ジロで初めてマリア・ローザを着用し、2018年ブエルタでマイヨ・ロホを獲得した双子のサイモンから2年後。グランツールの総合リーダージャージに、アダムも生まれて初めて袖を通した。ところで新人賞で終えた2016年ツールの第12ステージ..いわゆるクリス・フルームが山を脚で走って上ったあの日、レース内のオートバイに激突して落車した数人に極めて例外的な救済措置が取られていなければ、アダムにマイヨ・ジョーヌが与えられていたはずだった。
「もうチームバスに戻って、シャワーも浴び終わっていたんだ。そしたら監督のところに電話がかかってきて、表彰台に向かうよう言われた。誰だってこんな風にマイヨ・ジョーヌを着たいとは思わないよ。だから明日はジャージを守りに行く。こうやって戦いを続けていく」(アダム・イェーツ)
アラフィリップとアダムの語る「明日」、つまり第6ステージの終わりには、厳しい峠が聳え立つ。距離が長く、勾配はきつく、大きなタイム差が生まれやすい地形だ。フィニッシュボーナスタイム10秒に加えて、ボーナスポイント8秒も待っている。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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