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【宮本あさかのツール2020 レースレポート】ログリッチがツールのボスに名乗りをあげるも本人はいたって冷静「まだ、たった4日目だから」 / 第4ステージ
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさかプリモシュ・ログリッチ
「最強の選手に負けたんだから、後悔なんてない」と、ジュリアン・アラフィリップは肩をすくめた。2つ掲げていた目標のうち、最も大切な「マイヨ・ジョーヌ保守」を果たせたのだから、心の底から満足していた。なにより、間違いなく、この日はユンボ・ヴィスマとプリモシュ・ログリッチこそが最強だった。大会最初の山頂フィニッシュを完膚なきまでに制圧し、「2020年ツール・ド・フランスのボス」として名乗りを上げた。
「今日は最初から狙っていたし、チーム全員が僕のために働いてくれた。だから結果を出さなきゃならないっていう凄いプレッシャーもあったんだけど、だからこそ一番で終えたいっていう思いもあった。これほどに強いチームメートたちに囲まれて、僕は本当に幸せ者だよ」(ログリッチ)
フランスに「ニューノーマル」の新年度がやってきた。すべての学校(11歳以上)や職場(個室以外)には完全なるマスク着用義務が命じられ、山で暴力的な努力を行った直後の選手でさえ、フィニッシュ後に深呼吸する暇もないままマスクをつける。ツール・ド・フランスはウイルスとの戦いに打ち勝ち、絶対に、パリまでたどり着かねばならない。
アレクシー・ヴィエルモ、クリスツ・ニーランズ、ニルス・ポリッツ、ティシュ・ベノート、カンタン・パシェ、マチュー・ブルゴドーの6人の飛び出しで、2020年大会初の山頂フィニッシュステージは幕を開けた。もちろん「マイヨ・ジョーヌに敬意を表して、今日は絶対にジャージを守りに行く」と公言していたジュリアン・アラフィリップは、すぐさまドゥクーニンク・クイックステップの仲間たちを集団前方に配置。きっちりタイム差制御に乗り出した。前夜の段階で総合3分53秒遅れのヴィエルモが、ほんの短時間だけ暫定マイヨ・ジョーヌに躍り出るも、たいがいは手堅く3分半ほど後方で手綱を引いた。
黄色だけでなく、緑にも、ウルフパックはこだわりを見せた。前夜早くもペーター・サガンが定位置=首位につき、「あとはパリまでず~っと守りたいな」なんて楽しそうに語ってはいたけれど、実際はポイント賞上位3名が5pt以内で競り合う大接戦だった。だからこそ山に突入する前の、51.5km地点の中間スプリントポイントでは、アラフィリップ用隊列が一時的にサム・ベネット用列車に早変わり。まんまと自前スプリンターを集団先頭(7位9pt)で通過させることに成功する。
サガンとアラフィリップ
ベネットにとって残念だったのは、サガンも4ptを懐に入れたこと。2人はトータル83ptで並んだにも関わらず、やっぱり1日の終わりには、サガンが緑色を着ていたこと。ポイントが同点の場合、1)区間優勝の数(両者0)、2)中間ポイント首位通過の数(両者0)、3)総合順位(サガン101位、ベネット156位)に従って順位を決定する。史上最多7回のポイント賞を誇るサガンからマイヨ・ヴェールを引きはがすのは、なかなかに難しいのである。
「僕にとってはいわゆる『移動ステージ』だった。単に中間スプリントに加わっただけで、他にたいしたことはしてないんだ。もしかしたら明日はもっとチャンスがあるかもしれないなぁ」(サガン)
ナポレオン街道を、アラフィリップ擁する隊列は突き進む。どうにかして最後まで逃げ切りたい6人は、途中でポリッツが単独で飛び出したり、再合流したりと、あの手この手を尽くした。しかしステージも最終盤に差し掛かると、確実に、急速に、プロトンとのタイム差は縮まっていく。背後からの圧力の高まりを感じつつ、残り25kmの下りでベノートがガードレールに激突し(幸いにも怪我なく脱出)、残り19kmに聳える4つ目の山岳で逃げはばらばらと分解を始め……ついには最終峠の登坂口で完全に息の根を止められた。
オルシエール・メルレットの7.1kmの山道に入っても、ウルフパックは集団先頭で踏ん張り続けた。第2ステージで攻撃の起点を務めたドリス・デヴェナインスとボブ・ユンゲルスが、最後までアラフィリップに忠誠を示した。しかし残り4.5kmでピエール・ロランがアタックを試み、それをきっかけに数チームがスピードを上げると、マイヨ・ジョーヌはひとりになる。
「とにかく持てる力を全て尽くさねばならなかった。スピードが最大限まで上がったからね。たしかに山に入ってすぐは、何度か後ろを振り返って、(4秒差のアダム・イェーツの)後方からのアタックを警戒したよ。でもリズムが上がってからは、あまりにもきつくて、そんなことは不可能だった。ひたすら山頂まで先頭に張り付いていくことだけを考えた」(アラフィリップ)
それほどまでに高速なテンポを刻んだのが、ワウト・ファンアールトだ。つい3週間前、まさにアラフィリップとの一騎打ちを制してミラノ~サンレモを勝ち取った実力者は、残り3.5kmから信じられないほどの牽引を開始する。しかも元シクロクロス世界王者の仕事は、実に2km近くにも渡り続けられた。
「成績を見れば、彼がどれほどすごい選手かどうかは一目瞭然だよね。今季の彼が自分の成績を求めて走ったレースは、ほぼ全て勝ち取っているもん。彼が全速力で牽引した時は、僕だって苦しんだほど」(ログリッチ)
おかげで集団はあっという間に細かく切り刻まれた。ラスト1kmのアーチをくぐる頃には、先頭はすでに20人ほどにまで小さくなっていた。アラフィリップだけでなく、ディフェンディングチャンピオンのエガン・ベルナルさえも、孤独な戦いを強いられた。もちろん肝心のユンボは、なんと3人ーー勝者ログリッチ、第2エースのトム・デュムラン、そして頼れる山岳アシストのセップ・クスーーも残していた!
強いチームに守られたログリッチは、ラスト500m、ギヨーム・マルタンの渾身のアタックに極めて軽々と反応してみせた。そして残り150mでスプリントを切ると、力強く山頂フィニッシュをもぎ取った。……ほんの2週間前のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネで落車し、負傷リタイアしたことを忘れさせるほどの、切れ味の良さだった。
「体調は徐々に良くなっている。完全に元の状態に戻ったとはまだ言えないけれど、すでに第2ステージで調子が戻っていることは確認済みだった。しっかり自転車に乗れているし、なにより楽しめているんだ」(ログリッチ)
3度目のツール・ド・フランス参戦で、3度目の区間勝利。また区間首位10秒のボーナスタイムのおかげで、早くも7秒差の総合3位へと浮上した。2019年ブエルタ・ア・エスパーニャ総合覇者にとって、ツールで「総合表彰台」の位置につけたのは、2018年第19ステージ以来2度目の経験となる。
メディアからは早くも「去年までのイネオスよりも強いのではないか」「今年のツールのボスはユンボで間違いなし」との声があちこちから上がる。「最初の山頂フィニッシュでガツンと行くのはフルーム風」なんて解説者たちも口々に語る。ただし肝心のログリッチ本人は、決して冷静さを失わない。このステージで勝てたことも大切だけれど、一番大切なのはパリで黄色いジャージを着ていること。こう何度も記者会見で繰り返した。
また最大のライバルであるイネオス・グレナディアーズのチーム力を、過小評価するつもりもなさそうだ。「(ベルナル1人しか最後まで残れなかったことは)サプライズかと言われれば、イエスでもあり、ノーでもある。ただしイネオスは、この先必ず、実力を見せつけてくるはずだ」と、気を引き締める。「まだ、たった4日目だから」とも。
たしかに、まだ、たった4日目でしかない。総合1分以内には大量24人もの実力者がひしめいている。たとえば約1年前のスペインで、ログリッチと共にブエルタ・ア・エスパーニャ表彰台に上がったタデイ・ポガチャルは、区間2位に滑り込んだ。シーズン再開後から好調を保っているマルタンは区間3位で総合5位につけ、今季まさに「復活」とも「新生」ともいわれるナイロ・キンタナも、区間4位と改めて好調さを証明している。
なにより区間5位アラフィリップは総合首位をしっかりと守り、少なくともあと2日間は、黄色いジャージで走るだろう。「総合は狙ってない。ただ1日、1日を生きるだけ」と呪文のように繰り返されるコメントを、やはりログリッチは、心の底から信じてはならないことを知っているのだろうか。
文:宮本あさか
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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