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ドナウ川にかかる橋を渡ると、いよいよブダペストの「王宮の丘」に向かう約5分間の全開登坂が始まる。平坦区間で出し切らないように温存した脚に力を込める。ブダ城の前で大会最初のマリアローザを着用したい選手は、そんなイメージを描いていたに違いない。
晩春から初夏にかけて、新緑が映える5月のイタリアを駆けるジロ・デ・イタリア。第103回大会は東欧ハンガリーの地で動き出すはずだったが、新型コロナウイルスの影響で主催者RCSスポルトは5月の開催を断念した。UCI(国際自転車競技連盟)が5月5日に発表した改訂版レースカレンダーによると、第103回ジロは10月3日から25日まで開催される予定。ハンガリーでの開幕が見送られ、代わりにイタリア南部で3週間の戦いが始まる。
では、予定通りジロが開催されていた場合、誰が、どんなステージで活躍して、栄光のマリアローザを着ていたのだろう。当初の予定では、ハンガリーの首都ブダペストを駆け抜ける8.6km個人TTと2つの平坦ステージを経てジロは本国イタリアに移動。休息日を挟むことなくシチリア島で3日間を過ごしてからイタリア半島を北上する予定だった。エトナ火山を北側から登る第5ステージでは、近隣のメッシーナ出身のヴィンチェンツォ・ニバリが地元でのマリアローザ獲得を狙っていたに違いない。年々イタリア色を増しているトレック・セガフレードに加わった35歳のベテランは、史上最多タイとなる3度目のジロ制覇を見据える。
しかしニバリの前には屈強なライバルたちが立ちはだかる。モビスターからチームイネオスに移籍した前年度覇者のリチャル・カラパスをはじめ、2019年に再ブレイクしたアスタナのヤコブ・フルサンや、2018年に区間3勝を飾ってマリアローザを13日間着用したミッチェルトン・スコットのサイモン・イェーツ、東京五輪のスケジュールの関係でツール・ド・フランスではなくジロを選択したロマン・バルデらがアルプスやドロミテの山々で登坂力勝負を繰り広げることが予想された。
第15ステージのピアンカヴァッロ、第17ステージのマドンナ・ディ・カンピリオ、第18ステージのラーギ・ディ・カンカノと、大会後半にかけてジロらしい難関山岳が連続。標高2744mのアニェッロ峠を越えてセストリエーレに至る過酷な第20ステージを経て、最終16.5km個人TTでマリアローザ争いは決着する。ワインの丘を走る第14ステージの33.7km個人TTとミラノにフィニッシュする最終TTでは、ローハン・デニスとヴィクトール・カンペナールツという二大クロノマンだけでなく、世界選手権個人TT銀メダリストのレムコ・エヴェネプールの走りに視線が注がれる。すでに3つのステージレースで総合優勝を手にしている規格外の20歳はグランツール初挑戦となる。
総獲得標高差45,000mという3週間の中でスプリンター向きと目されるのは6ステージ。ここではカレブ・ユアンやディラン・フルーネウェーヘン、エリア・ヴィヴィアーニというトップスプリンターが切れ味鋭い加速を見せてくれるはず。しかし、マリアチクラミーノの最有力候補はこの男、ツールで7回マイヨ・ヴェールを獲得しているペーター・サガン。プロ入り以降一貫してカリフォルニアで5月を過ごしてきたサガンが初めてジロのスタートラインに立つ。
今しかできないことを今。パンデミックの収束とレースシーズンの再開を願いながら、ちょっぴり想像力を膨らませて、バラ色のイタリアンレースで活躍する英雄たちの姿を思い描いてみよう。
文:辻啓
辻 啓
海外レースの撮影を行なうフォトグラファー
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