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【ツール・ド・フランス 2019 第18ステージ / レースレポート】プライドをかけた戦い。アラフィリップ「なにがなんでもマイヨ・ジョーヌを救いたかったんだ!」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか「元」マイヨ・ジョーヌ候補たちはプライドをかけて走り、「現」マイヨ・ジョーヌは意地を見せ、もしかしたら「未来の」マイヨ・ジョーヌが攻撃を繰り出した。前でも後ろでも、コロンビア人たちが、まるで水を得た魚のように活き活きと山を駆け上がった。もちろん黄色いシャツは、いまだジュリアン・アラフィリップがしっかりと着込んでいる。
前方で繰り広げられたのは、プライドをかけた戦いだった。スタート直後から激しい飛び出し合戦が巻き起こり、1時間ほど後に、34人の勇者が前方へと進み出た。巨大な逃げ集団はまるで、どこかのグランツールの「メイン集団」と言っても差し支えないほど、豪華な顔ぶれが揃った。約3週間前のブリュッセルの開幕時にはスポットライトを浴びながら、思い通りの走りを実現できなかった選手たち。もしくはそんな選手を支えてきた強力なアシストたち。そんな彼らが、パリまでに残された数少ないチャンスでどうにか誇りを取り戻そうと、大挙してエスケープに詰めかけたのだ!
特に奮闘したのが、第15ステージですでに大逃げを試みたナイロ・キンタナとロメン・バルデ。共に飛び出したアシストの協力を得て、集団を少しずつ小さく削っていく。一方でツールにはヴィンチェンツォ・ニバリを支えるためにやってきたはずのダミアノ・カルーゾと、ヤコブ・フグルサングの落車リタイアで急遽前日から区間争いに切り替えたアレクシー・ルツェンコも、2人のグランツール表彰台常連とガリビエの山道までぎりぎり張り合った。
ところでアルプス3連戦のあえて初日に逃げた理由は、決してステージ優勝だけではなかったはずだ。第18ステージに登場する峠を全て1位通過した場合、92ptを手に入れることができる。3日間のトータルでは最高206pt収集可能だ。すなわちティム・ウェレンスが15日間かけてこつこつ貯めてきた64ptを、あっさりひっくり返せるというわけ。当のウェレンスも逃げに挑み、1級ヴァルス峠では先頭通過を果たしたものの……残念ながらこれが限界だった。続く超級イゾアールではカルーゾがバルデに競り勝ち、その次の超級ガリビエでまたしてもバルデが2位通過。すでに第15ステージで収集済みの18ptと合わせて、ステージ後に赤玉ジャージをもぎ取った。
「ここまで失望続きだったけど、今日は本当に嬉しい!このジャージをパリまで守ることが、今の僕の唯一の目標だ」と、ようやく心からの笑顔を見せたバルデは、同時に「ジャージ獲りにエネルギーを使いすぎた」ことも認める。残り27km、ロタレ峠を抜けてガリビエの山道へと走り込んだ直後の、キンタナの鋭いカウンターアタックには反応できなかった。
第15ステージと同様に、キンタナは「そもそもはミケル・ランダを助けるために逃げた」という。たしかに所属チームのモビスターも、「前待ち作戦」へ向けて、ステージ中盤まで猛烈にメイン集団を牽引していた。しかし途中で狙いをステージ優勝に切り替えた。キンタナの調子は良かった。なにしろ自分が輝ける条件がすべて揃っていた。「長い山道」「高い標高」、さらに「これほどの標高ではアレルギーも引っ込む」のだそうだ。あとはアタック一発で十分だった。標高2800mの土地で生まれ育ったコロンビア人は、標高2642mのガリビエ山頂へ向けてひとり飛び立ち、驚異的な速さで後続とのタイム差を広げていく。
悪天候をも得意としていた。2014年に雨の下りを利用し、ジロ逆転優勝を果たしたキンタナは、残り3kmで降り出した雨などまるで気にしなかった。自身3度目のツール区間優勝に向かってひたすら突っ走り、2位バルデに1分35秒差を、つまり後方のマイヨ・ジョーヌ集団には5分18秒差をつけつつフィニッシュラインを越えた。前日までは9分30秒差の総合12位に沈んでいたキンタナは、まんまと3分54秒差の総合7位に浮上した!
後方のマイヨ・ジョーヌ集団でもやはり、コロンビア人がガリビエで飛び出した。総合ライバルたちをまとめて振り払ったのは、標高2650mの村が生まれ故郷と言うエガン・ベルナルだ。
ホワイトジャージが旅立ったのは、ガリビエ山頂まで3kmと少し。「ベルナルがアタックするまで、それほど苦しくはなかった」と、そこまで順調にメイン集団で走っていたアラフィリップのために、すかさずエンリク・マスが追走に力を尽くした。しかし山頂から1km、今度はゲラント・トーマスが加速を切る。過去7大会で6回の総合優勝を収めてきた元スカイの、ダブルリーダーの波状攻撃に、たまらずアラフィリップは脱落した。
「でも僕はしがみついた。それに下りが僕に味方してくれることは分かっていた」。苦しみ、喘ぎ、死に物狂いでガリビエを上り終えたアラフィリップは、ベルナルから約1分後、トーマスその他のライバルたちから約20秒後、得意のダウンヒルへと転じた。「たくさんのリスクを負って」、しかし「十分に冷静に」、猛スピードでヘアピンカーブをこなした。残り6.5kmでトーマス集団に追いついた。それどころか集団先頭に割り入ると、ベルナルとのタイム差を縮めにかかった。「なにがなんでもマイヨ・ジョーヌを救いたかったんだ!」
ベルナルが走り終えた32秒後、アラフィリップがフィニッシュラインを駆け抜けた。トーマス、ステフェン・クライスヴァイク、ティボー・ピノ、エマヌエル・ブッフマンからは1秒たりともタイムを失わなかった。総合2位に対するリードも、第17ステージ終了後の1分35秒から、ほんの5秒少なくなっただけ。「本当に信じられない状況だ。僕を含めて、全ての人がなにか夢を見ているような、そんな気さえするよ」と本人は語るが、フランス人による34年ぶりの総合優勝の可能性が、少しずつ現実味を帯びてきた。
アラフィリップの立場は変わらずとも、総合2位の選手は、トーマスからベルナルに入れ替わった。現時点ではツール最年少選手の22歳が、ディフェンディングチャンピオンを飛び越して、総合5位から2位へと一気に浮上を果たした。「今日のように標高が2000kmを超えると、僕は本当に調子が良くなるんだ」と語るクライマーにとって幸いなことに、翌第19ステージには、アルプス自動車路最高標高の2770mコル・ド・リズランが待っている。
<選手コメント>
■ナイロ・キンタナ(モヴィスター チーム)
(ステージ優勝・ステージ敢闘賞)「この勝利はチームとしてこれまで何ヶ月も積み上げてきた努力の証明だよ。力を尽くして、正しいと思うことをやってきたのに、我々の思うようにはこのツールは進んでいかなかった。それでもただがむしゃらにやってきた結果が今日だよ。今日は僕が何かできる日じゃないかと思っていて、いいリザルトに結びつけるための戦略は何か、チームと話し合った。僕が逃げに入り、ミケル(・ランダ)も後ろでアタックをして総合の順位を上げることができれば、という考えがあった。それがステージ勝利という結果になった。トゥルマレでタイムを失ったときにはとてもがっかりしたけれど、ここにたどり着けたよ。この勝利は、良いときも悪いときも僕をサポートし続けてくれる、僕のチームメート、僕の家族、そして僕の祖国のものだ。クライマーの試金石のようなツールのビッグ・ステージで勝てるなんて、本当に特別な気持ちだ。僕のテリトリーである大好きな美しい山々で、こうしてすばらしい走りをすることができたよ」出典:チームの公式リリースより
■ジュリアン・アラフィリップ(ドゥクーニンク・クイックステップ)
(総合リーダージャージ・ステージ14位)「持っている力をすべて注いで、僕はまだ黄色でいられるのだから、満足していいと思う。他チームからの攻撃は覚悟していた通りだった。ベルナルとトーマスのアタックまではそこまで苦しんでいなかったけれど、その時点からは別だった。ガリビエ峠の頂上でジェルを補給して10秒だけ息を整えてから、かなりのリスクをおかしながら、可能な限りのスピードで峠を下った。絶対にマイヨジョーヌをキープしたかったんだ。3つのカーブをこなし、モトが見えてきた。前方のグループに追いついたあとは、すぐその一番前に進んだ。僕が戻ってきたことを見せつけたかった。ベルナルに対していくらかタイムを失ったけれど、一日を振り返ってみれば、もっと悪い結果になる可能性もあった。マイヨジョーヌをめぐる注目や騒がしさから距離を置かなくては、と感じると同時に、これが信じられないくらいすばらしい経験だということも分かっている。パリまで3日に迫ってまだマイヨジョーヌを着ているということで、フランス中から大きな期待が寄せられているのも感じている。たくさんの人が夢見ていて、僕だって…。けれどできることをやるしかないという僕の言葉に変わりはない。そしてどんなことが起きたとしても、自分が成し遂げたことを誇りに思うよ」出典:レース主催者の公式リリースより
■エガン・ベルナル(チーム イネオス)
(ステージ8位・総合2位・新人賞ジャージ)「僕たちにとってはいい日だった。アラフィリップから少しタイムを奪うことができて嬉しい。G(ゲラント・トーマス)に調子を聞かれ、とてもいいコンディションだと答えたら、アタックしてレースを活性化してほしいと言われたんだ。アタックする僕と一緒に彼も抜け出そうとしたけれど、他の選手たちがついてきたのを見て、彼は元のグループに残った。気分的なものかもしれないけれど、標高が高い場所のほうがずっと調子がいいんだ。ラスト8kmは標高2000mを超えていた。調子が良いし、明日も僕にとって良い日だったらいいなと思う。ラスト3kmはタイムトライアルの気分で走った。フィニッシュ前何kmでアタックしたかもよくわからないよ。とにかく山頂がフィニッシュのような気持ちでガリビエ峠の頂上を目指した。そこからは自分ができる最高のダウンヒルで下った。クラッシュだけはしないように気をつけていたよ」出典:チームの公式リリースより
■ペーター・サガン(ボーラ・ハンスグローエ)
(ポイント賞ジャージ)「今日はアルプス山岳ステージの初日だった。中間スプリントのために、今日もスタートからアタックした。とても高速の序盤のあと、僕にとっては危険のないグループが逃げていった。パリの前にあと2つハードなステージが控えている。(足切りの)タイムリミット内でフィニッシュにたどり着けるように、用心して走ることが大事になるね」出典:本人のウェブサイトより
■ロメン・バルデ(アージェードゥゼール ラ モンディアル)
(ステージ2位・山岳賞ジャージ)「ピレネーでは思ったような結果が出せなかった。まだいくつか山岳ステージが残っているけれど、今日の目標は山岳賞ジャージ。ティム・ウェレンスは尊敬している選手で、上りの前に言葉を交わして、正々堂々勝負することで合意したんだ。このジャージをツールが終わるまで守ることが、僕のただ一つの目標だよ」出典:主催者の公式リリースより
■ゲラント・トーマス(チーム イネオス)
(ステージ13位・総合3位)「もっとハードなレースになってほしかったのに、ペースは上がらなかった。そこでエガン(・ベルナル)に指示が出て、アタックでレースを目覚めさせようということになった。けれど状況は変わらなかった。マスは自分のペースを守って走り続けていた。みんながどのくらいの調子か知りたくて、そこで自分もアタックをかけたんだ。少なくとも少しのタイム差をエガンが稼ぐことができた。結構良い調子に感じていた。これからはビッグ・デーが2つ続くね。今日がアラフィリップを振り落とすほどの差にはならないだろう、ということはある程度予期していたことだった。それでもこれからまだ2日間走らなくてはならないライバルたちの脚を、少しは疲れさせられたんじゃないかな」出典:チーム公式リリースより
■ティボー・ピノ(グルパマ・エフデジ)
(ステージ12位・総合5位)「今日はそれほど良い調子ではなかった。そういう日はうまくやり過ごすしかない。今日は総合上位の選手たちについていくことが目標だった。エガン・ベルナルは強さを見せた。ゲラント・トーマスもアタックしたけれど、ガリビエ峠の山頂までには他の選手が追いついた。明日から2日間の山頂フィニッシュでは、もう少し良い調子だったら良いなと思う。モヴィスターとイネオスのおかげでレースに動きがあって、それは良かったね!」出典:チーム公式リリースより
コメント翻訳:寺尾真紀
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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