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【ツール・ド・フランス 2019 第6ステージ / レースレポート】ツール初体験で区間2位のチッコーネ「もっと嬉しいご褒美が待ってた!」
サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか「決して長い登りではなかったけど、永遠に終わらない長い登りのような気がした」。こう笑ったディラン・トゥーンスは、共に逃げ続けたジュリオ・チッコーネを、フィニッシュぎりぎりで退けた。「僕の大好きな激坂を味方につけたんだ」と初めてのツール出場で、初めてのステージ勝利をもぎ取った。やはりツール初体験のチッコーネは、区間こそ2位に終わりひどく悔しがったが……、「もっと嬉しいご褒美が待ってた!」と生まれて初めてのマイヨ・ジョーヌに歓喜した。
2019年ツール初の本格山岳ステージへ向けて、スタート直後に14人が逃げ出した。前日に事実上の「ジャージ喪失宣言」を出しながら、「脚の調子が良かったから」と、山岳賞首位ティム・ウェレンスも2日連続のエスケープに飛び乗った。ルームメートで仲良しのトーマス・デヘントの助けを借りつつ、全部で7つ待ち構えた峠のうち5つでポイントを収集(1位通過2回)。本人も予想外の赤玉キープを成し遂げた。
ウェレンスにとって唯一残念だったのは、「トーマスが敢闘賞を取れなかった」こと(ウェレンスが敢闘賞)。たしかに残り約37km、5つ目クロワ峠の山頂手前でデヘントは加速を切ると、独走態勢に入った。しかし平均勾配が10%近い6つ目のシュヴレール峠で、プロトン屈指の逃げ男は、逃げの仲間に捕らえられてしまう。
そのシュヴレールの激坂は、逃げ集団自体をも大きくふるいにかけた。来るプランシュ・デ・ベルフィーユの激坂に耐えられであろう本物のクライマーだけが、つまりトゥンスとチッコーネ、ウェレンスとクサンドロ・ムーリッセの4人だけが、最前列を突っ走ることを許された。一時はメインプロトンから9分近いリードを奪い、山頂でもいまだ4分差。逃げ切り勝利はすでにほぼ確実だった。
この山頂で動きを見せたのがチッコーネだ。5月のジロ・デ・イタリアで山岳賞を持ち帰った若者は、2級山頂目指して猛ダッシュ。先頭通過で5ポイントを加えただけでなく……ボーナスポイントの8秒も手に入れた!ちなみに2018年大会から導入された中間ボーナスポイント制度は、今年からは「総合争いをもっと面白くする」目的で、難関山岳ステージの最終盤の山頂に設定されている。そして前区間終了時のマイヨ・ジョーヌ、ジュリアン・アラフィリップから1分43秒差につけていたチッコーネにとって、この8秒が運命を大きく左右することになる。
ラスト3kmで、勝負はチッコーネとトゥーンスに絞り込まれた。時に牽制しつつ、時に協力し合いながら2人は高みを目指した。しかし残り約500mで未舗装路に突入すると、突如としてトゥーンスが全力疾走体制に切り替えた。2018年ブエルタで幾度も大逃げを打ちながらも、区間トップ5入りが5回(しかも2位が1回、3位2回)と悔しい思いを味わった。だからこそ「同じ失敗を繰り返してはならない」と、決然たる態度で山頂へと突進した。チッコーネも必死にくらいつき、しがみついたが……フィニッシュライン手前100mの最大24%ゾーンでついに力尽きた。トゥーンスが両手を広げてラインに飛び込んだ瞬間、大会スタッフが自転車を支えるために飛び出してくるほど、凄まじい坂道だった。どん底に突き落とされたチッコーネはも、1分半ほど後には、天国の気分を味わうことになる。
後方のメイン集団では総合本命勢が、2019年ツール最初の真剣勝負を繰り広げた。ラスト50kmに入るとモビスターが攻撃的な走りを披露。中でも世界チャンピオンのアレハンドロ・バルベルデが長時間に渡って先頭を牽引し、先のジロで総合4位に食い込んだミケル・ランダがアタックも試みた。自らの名前のペイントでびっしり埋め尽くされた坂道で、ティボ・ピノーも奮闘した。「U23版ツール・ド・フランス」のツール・ド・ラヴニールを2016年に制したダヴィド・ゴデュが、エースのために献身的に加速を繰り返した。その背後では、2017年のラヴニール覇者エガン・ベルナルが、昨大会マイヨ・ジョーヌ、ゲラント・トーマスのための露払いを冷静に務めた。
最も必死に走ったのはアラフィリップだった。マイヨ・ジョーヌを守るため、1秒でも速くフィニッシュラインへと飛び込もうと、ラスト1kmを猛然と駆け上がった。しかし残り50mでトーマスに追い抜かれ、フィニッシュラインぎりぎりでピノーに差され、なによりジャージ保守にはわずか6秒が足りなかった。「素晴らしい3日間を過ごした。後悔はない」と爽やかに語り、黄色い日々に終止符を打った。
区間4位に滑り込んだトーマスが、総合7位から49秒遅れの総合5位に昇格。つまりパリでの総合表彰台候補の中では早くもトップに立ったになる。チームメートのベルナルはGから4秒遅れの総合5位に、好調ピノーは9秒差の6位につける。精力的に動いたモビスターだが、誰ひとりとしてトーマスに先んじることはできなかった。ナイロ・キンタナはチッコーネから1分41秒差、つまりトーマスから52秒差につける。
またライン通過の瞬間にメカトラに襲われたロマン・バルデだが、それ以前に「今日は脚がなかった」と告白。ラスト1kmだけでトーマスから1分以上も失い、総合では早くも2分以上の遅れを喫してしまった。
<選手コメント>
■ジュリオ・チッコーネ(トレック・セガフレード)
(総合リーダージャージ)「マイヨ・ジョーヌは子供のころからの夢だった。その夢を今日僕は叶えたんだ。こんなに美しいことを成し遂げたなんて、信じられない気持ちだよ。僕もチームもこのステージで勝つことを目標にしていたから、優勝を逃して、僕は腹を立てていた。けれど、マイヨ・ジョーヌは僕のものだと気がついて、その怒りはふっとんでしまった。今年の目標はまずジロだったけれど、ジロを終えてとても調子が良かったから、24歳の僕が経験を積めるように、ツールにも出場することが決まった。予想以上に素晴らしいツールのデビューになったね。ツールでは平坦ステージもハードだけれど、強いチーム力でジャージを守っていこうと思う」出典:レース主催者の公式リリース
■ディラン・トゥーンス(バーレーン・メリダ)
(ステージ優勝)「信じられないよ。ドーフィネを走って自分の好調には気がついていたけれど、ツール1週目に勝利を挙げることができるなんて、驚きだよ。今日、逃げが成功する可能性があることは知っていた。けれど自分が勝つとは思わなかったね。チャンスにかけたんだ。最後から2番目の峠(2級山岳シュヴレール峠)で、逃げは4人に絞られた。チッコーネが倒すべき相手になるとわかっていた。勝ちをものにすることができて、本当にうれしいよ。峠のふもとには、僕の母、父、彼女の姿も見えた。胸の中にたくさんの感情が湧き上がってきたよ。
最後の500mはとてもナーバスで、神経をすり減らされた。昨年のブエルタ(第17ステージ)では、(マイケル・)ウッズを相手に同じシチュエーションに置かれたからね。そのときの間違いを繰り返さないように、と自分に言い聞かせた。未舗装の部分ではダンシングが無理だから、サドルに座ったままで、全パワーを出さないとならない。まず2回加速したけれど、チッコーネを振り切ることはできなかった。3回目、腕の下から覗いたら、やっと少し引き離すことができていたんだ。あとはフィニッシュラインに向けて、突き進むだけだった。子供のころ、TVでツールを見たよね。世界最大の自転車レース、そのツールで勝ってしまったんだ。夢が叶ったんだ。アメージングな気持ちだよ」出典:レース主催者の公式リリースと音声インタビューより
■ティム・ウェレンス(ロット・スーダル)
(山岳賞ジャージ・敢闘賞)「また逃げを試みる前に1日足を休めなくちゃなと、昨日の時点では思っていたんだ。だけど、朝起きたらなんだか快調だった。逃げにも今日はすんなり入れたよ。一緒に逃げている誰もが、ステージ優勝の可能性を意識していた。トーマス(・デヘント)が一緒に逃げていたのはラッキーだった。僕が山岳ポイントを集めるのを手伝ってくれたんだ。彼が敢闘賞を受け取るべきだったんじゃないかって思っている。だから、トロフィーは彼にあげようかな。彼のアタックに本当に助けられたんだ。彼がアタックするたびに、僕以外の選手は反応して脚を使わなくてはならなかったから。あと何日かはこのジャージをキープできたらいいな。そのために、できる限りのことをするよ」出典:レース主催者の公式リリース
■ゲラント・トーマス(チーム イネオス)
(ステージ4位・総合5位)「かなり感触はよかったよ。ある意味、もっとタフな一日になるかもしれないと思っていた。もちろんラクな日というのはあり得ないけれど、最初の3つの峠に関していえば、思ったより淡々とレースは進んでいったと思う。
モビスターが先行してバルベルデが牽き始めたときはペースが上がったけれど、それでもいい感じで走れていた。最後の急勾配に入ったとたんにリッチー・ポート、ナイロ・キンタナ、そしてもちろんエガン(・ベルナル)が飛び出すだろうと予測していたから、逆にそこまでがもっとハードなレースになったらと願っていたんだ。(そうはならなかったけれど)結果的にはいい結果になったね。
今日の上りは、我慢が試されるタイプの上りだった。ゴール前800m、かなり早いタイミングでアラフィリップがアタックしたとき、(追いかけるのではなく)とにかく静かな自信をもって彼を前に行かせた。慌てずに自分自身のペースで上り、フィニッシュラインにたどり着くまでそのペースを保ち続けること。かなり厳しい上りで最後は限界に近かったけれど、それでも全体的に見ればよくやれた日だったと思うよ」出典:チーム公式のリリースより
■ティボー・ピノ(グルパマ・エフデジ)
(ステージ5位・総合7位)「満足しているよ。大きな期待をかけられて不安もあったけれど、今日の走りには満足だ。チームはよくやってくれたし、ステージこそ勝てなかったけれど、まだ先は長いからね。ここからがツールの始まりだ。最後の上りではライバルたちと互角に走れていたし、この調子でいきたいね」出典:チーム公式のリリースより
■ロメン・バルデ(Ag2r・ラ・モンディアル)
(2分57秒遅れのステージ27位)「脚が動かなかった。いるべきレベルに今の自分はいない、ということだ。それが厳然たる事実だよ。何が起こったのかゆっくり考えてみたいと思う。まだツールへの強いモチベーションは失っていないし、まだやれることはたくさんある。でもまずは、冷静に今日の出来事を見返してみて、どうして最終盤であんな風に脚が止まってしまったのかを考えてみなくては」出典:チームの公式ツイートより
コメント翻訳:寺尾真紀
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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