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【アークティックレース・オブ・ノルウェー/プレビュー】フィヨルド、山岳、渓谷、海岸…雄大な自然と伝統文化が息づく北極圏での戦い
サイクルNEWS by 福光 俊介レース名にもなっている“アークティック”とは、北極の意。最も北極に近い場所で開かれるステージレースが「アークティックレース・オブ・ノルウェー」なのである。主催はツール・ド・フランスと同じアモリ・スポル・オルガニザシオン(A.S.O.)。今年で3回目を迎えるが、2013年、2014年と選手・関係者・観客・ファンからの評価が高く、見事に大会を軌道に乗せてみせた。
大会の親善大使を務めるのは、昨シーズン限りで現役を退いたトル・フスホフト。2010年のロードレース世界チャンピオンの彼は、この大会の初代王者でもある。いま、ノルウェーでは自転車熱が高く、ジュニア世代からの強化が大きく実を結んでいる。2014年のアンダー23(23歳以下)ロードレース世界チャンピオンのスヴェンエーリク・ビストラム(現・チーム カチューシャ)や、クリストファー・シェルピング(現・チーム キャノンデール・ガーミン)らはその“第1期生”。フスホフト、エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(MTN・クベカ)、アレクサンドル・クリストフ(チーム カチューシャ)といったビッグネームに続く世代がすでに台頭している。
伝統国として実力者を生み続けるノルウェーだが、2017年には南部の街・ベルゲンでロードレース世界選手権が開催される。さらには、フスホフトがプロチーム結成の準備を進行中。同じく2017年のUCIワールドチーム入りが目標だと公言する。北欧の雄は、自転車大国への道を歩んでいる段階でもあるのだ。
さて、レースに目を移そう。今大会は4ステージで争われるが、いずれも北極圏内で行われる。第1ステージの舞台となるハーシュタが含まれるロフォーテン諸島やその近辺は、北極圏でありながら温暖な気候が特徴。酷暑の中でレースをしてきた選手たちにとっては、恵みのコンディションの中で走ることができそうだ。一方、観る側の我々は、先住民族サーミ人が築き上げた文化遺産と雄大な景色を、レースとともに味わうことになる。
前半2ステージはスプリンターが主役。第1ステージ(213.5km)はフィニッシュ手前6kmで小高い丘が待ち受けているが、登坂距離は700mと短く、決定的な動きは起きにくいと見てもよさそう。第2ステージ(162.5km)は、前半から中盤にかけて登場する5つの山岳ポイントをクリアすることが条件となってくる。最後の山岳ポイントからフィニッシュまでは47kmあるので、仮に上りでメイン集団から遅れたとしても、戦線復帰は十分に可能だ。
総合争いに大きな変化が生まれるのは第3ステージ(183km)。選手たちは、モールセルフのスキーリゾートを目指し、登坂距離3.7km、平均勾配7.8%の上りに挑む。ここで発生したタイム差をもって、最終の第4ステージ(165km)を迎える。ツールのように、最終日だからといってパレード走行などは存在しない。終盤に走るナルヴィクの周回コースでは登坂距離2.3km、平均勾配6.6%の上りを4回こなさなければならない。最後の1回はフィニッシュ前5.5km。上りでアタックを決め、その後の下りでスピードに乗ることができれば、ライバルを置き去りにすることだって可能だ。最後の最後まで、勝負の行方は予断を許さない展開となるだろう。
今大会の顔となるクリストフは、前回のステージ3勝に続く活躍を誓う。多くの選手がフランスやイタリア、スペインなどを拠点としてレースやトレーニングに励む中、彼は今でも自国ノルウェーをベースに走り続ける。その理由は「ツールで勝っても、ミラノ〜サンレモで勝っても、ツール・デ・フランドルで勝っても、ノルウェーでの日々は何ひとつ変わらないから」。彼が愛する、静かなときの流れと溢れる自然を、このレースを通じて共感することができるはずだ。
福光 俊介
ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う
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