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サイクル ロードレース コラム 2016年4月5日

【ツール・デ・フランドル/レビュー】連続した集団クラッシュ、激坂を乗り越えてサガンが初のモニュメント勝利

サイクルロードレースレポート by 寺尾 真紀
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2016 ロンド・ファン・フラーンデレン ツール・デ・フランドル

4月3日の日曜日に開催されたツール・ド・フランドル第100回大会は、現ロード世界王者のペーター・サガンが、残り33km地点からのアタックをものにし、最後は独走で制した。ロード王者としては、先週のヘント〜ウェヴェルヘムに続く、2勝目。サガンにとっては、これが初めてのモニュメント勝利となる。

レースの展開

4月3日、日曜日。ツール・ド・フランドル、記念すべき第100回大会の朝。ブルージュのマルクト広場。
ステージでサインインが始まったときには空を覆っていた雲が次第に晴れ、選手たちがスタートラインに向かうころには、青空が顔をのぞかせた。

スタート前のセレモニーでは、ヘント〜ウェヴェルヘムのレース中の事故が原因で亡くなったアントアーヌ・デモアティエ選手(ワンティ・グループゴベール)の死を悼み、1分間の黙祷が捧げられた。人々で埋めつくされたマルクト広場が静寂に包まれ、25歳の短い生涯を閉じた若者に、それぞれが思いを向けた。

スタートからレースコースを辿ること25kmのホーフレーデでは、クリテリウム・アンテルナシオナルのレース中に体調を崩し、治療の甲斐なく22歳の生涯を閉じた、ダーン・ミングヘール選手(ルーベ・メトロポール・リール)を悼むセレモニーが行われた。レースコースを見下ろすように、教会広場に飾られたミングヘール選手の写真の前に、レース委員長ヴィム・ファンヘレヴェット、元選手のペーター・ファンペテヘム、チーム関係者、レース関係者らが白い花のリースを捧げる。ホーフレーデの町を駆け抜けていく選手たちの背中を、ミングヘール選手の笑顔が見守っていた。

#RideForAntoine、#RideForDaanのメッセージをバイクにつけたワンティ・グループゴベールの8人を含む25チーム、200人の選手は、マルクト広場を10:15にスタート。美しく、厳しい255kmの道のりが、ここから始まった。

「天候が良いから、かなりハイペースの、タフなレースになるんじゃないかな」
これまでに3回フランドルを制したトム・ボーネンが予測したとおり、ニュートラル・ゾーンから各チームが好ポジションを虎視眈々と狙う展開。地元チーム、トップスポートフラーンデレン・バロワーズがまず最初のアタックに出たのをきっかけにと、そこから90分に及ぶ熾烈なアタック合戦が繰り広げられた。最初の1時間の平均速度は46.4km/h。スタートから70kmでついに、ヒューゴ・ホール(AG2R・ラ・モンディアル)、イマノル・エルビーティ(モビスター)、プレーベン・ヴァンヘッケ (トップスポートフラーンデレン・バロワーズ)ら、6人からなるこの日の逃げが決まった。

逃げが決まったことで、レースはいったん落ち着くが、それもほんのひととき。100km地点からは、この大会の勝負どころとなるヘリンゲン(坂)とカセイエン(石畳)が次々と登場し、激しい位置取り争いが始まるからだ。

今大会では3度通過するオウデ・クワレモント(1回目)を越えたあたりから、集団クラッシュが連続して発生し、何人かの有力選手がレースから姿を消した。
最初は、オウデ・クワレモントの直後。この落車により、ミラノ〜サンレモ優勝者のアルノー・デマール(FDJ)がリタイア。続いて、エイケンベルグの直後に、バイクから外れて転がったドリンク・ボトル(ビドン)が原因で落車が発生し、ティシュ・ビノート(ロット・ソウダル)らがリタイア。プロ入り2年目のネオプロながら、昨年初出場のフランドルで5位に入賞したビノートにとっては、悔しい幕切れになった。パッテストラートの石畳区間を抜けてすぐの143km地点では、BMCの選手たちが集団で落車し、2月のセミクラシック、オムループ・ヘット・ニウスブラットで優勝したフレフ・ヴァンアーヴェルマートは、右鎖骨骨折でリタイアを余儀なくされた。

レースは残り100km。この日6番目(全体で18の上りが登場する)の上り、レベルグにさしかかる。トニー・マルティン(エティックス・クイックステップ)の牽引で集団が分断する中、集団前方からアンドレ・グライペル(ロット・ソウダル)がアタック。これにニルス・ポリッツ(カチューシャ)も加わり、1分半ほどのタイム差で先行する逃げグループを追う。

もともと6人だった逃げグループでは、だんだんとペースが乱れ始め、3人が完全に脱落。追走してきたグライペル、ポリッツが、千切れかけていたホールを回収しつつ、エルビーティとヴァンヘッケに合流。このあと、同様に集団から抜け出したデミトリ・グルージェフ(アスタナ)とディミトリー・クレイス (ワンティ・グループゴベール)もブリッジを成功させ、オウデ・クワレモント(2回目通過)を前に、先頭は7人になった。

オウデ・クワレモントを進むメイン集団からは、スティン・ヴァンデンベルフ(エティックス・クイックステップ)が、ディラン・ファンバーレ(キャノンデール)と共にアタック、パテルベルグの石畳で集団を引き離し、先頭グループへのブリッジをもくろむ。

レースは残り50kmを切り、ツール・ド・フランドル名物の激坂、最大勾配22%のコッペンベルグが登場。寡黙なドイツ人、グライペルが先頭集団からアタックをかける一方で、メイン集団のファビアン・カンチェッラーラ(トレック・ファクトリー・レーシング)やペーター・サガン(ティンコフ)、エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ディメンション・データ)、ラース・ボーム(アスタナ)らは、力強くペダルを踏みしめ、ゴツゴツした石畳の上を突き進んでいく。

コッペンベルグからマリアボルレストラートの石畳区間、ステーンベークドリースの上りと進む中、アタックや中切れ、メカトラブルが次々と発生し、メイン集団は分断と合流を繰り返す。先のアタックで先頭集団を目指していたヴァンデンベウフとファンバーレが先頭グループへのブリッジを成功させる一方、ヴァンヘッケとポリッツが後退し、ロングアタックをかけたイアン・スタナード(スカイ)と共に、タイエンベルグの下りで、メイン集団に吸収された。ここで、有力選手を多く含むメイン集団は、ひとつにまとまった。仕切り直しだ。

16番目の上りであるクルイスベルグ、そして、今日一番の勝負どころになるであろう、3回目のオウデ・クワレモントと、2回目のパテルベルグを残し、レースは残り33km。先頭グループと、メイン集団とのタイム差は1分5秒。

スティン・デヴォルデル(トレック・セガフレード)、カンチェラーラ、サガン、オスカル・ガト(ティンコフ)、ミカル・クヴィアトコウスキー(スカイ)、ゲラント・トーマス(スカイ)らが集団の先頭付近に集まる。スカイの選手たちが顔を寄せて何か言葉を交わす。アタックの気配は消え、集団に落ち着きが戻ってきたように思えた。

しかしここで集団の一瞬のスキをつき、するりと前方に抜け出したのは、袖口に虹のマークをつけた、元ロード王者のクヴィアトコウスキーだった。この動きにすばやく反応したのは、すぐ後ろにつけていたサガン。E3ハレルベケの再現のごとく、みるみるうちに2人は集団を引き離していく。デヴォルデルは猛烈な勢いで集団を牽き始めるが、カンチェッラーラは追走体制に入らない。セプ・ヴァンマルケ(ロットNL1・ユンボ)だけが一人飛び出し、先行するクヴィアトコウスキー、サガンを追っていく。

しばらくして、BMCレーシングのダニエル・オスやエティックス・クイックステップのマッテオ・トレンテインらが中心となり、集団を牽き始めるが、集団内の統率が取れず、3人との差はなかなか縮まらない。平均勾配9%のクルイスベルグで集団先頭に立ち、歯を食いしばりながらペースアップを図ったデヴォルデルも、頂きを越えたところで力を使い果たし、集団の後方へと姿を消した。

残り24kmでサガン、クヴィアトコウスキー、ヴァンマルケの3人はヴァンデンベルフ、グライペル、ファンバール、エルヴィーティ、クレイスに合流。一番手サガン、次にクヴィアトコウスキー、次にヴァンマルケの順で、先頭グループを率い、三回目のオウデ・クワレモントに、タイヤを踏み入れた。

石畳でのペースアップに、グライペルがまず苦しみ始める。先頭グループから千切れた最後尾にカンチェラーラ、ニキ・テルプストラ(エティックス・クイックステップ)、トーマスらが追いつく一方、前方ではサガンがアタック。ヴァンマルケだけがその動きに追随する。サガン、ヴァンマルケから遅れた選手たちをすべて抜き去り、カンチェラーラは追走を開始する。

この日最後の上り、2回目のパテルベルグの上りで、サガンはシッティング(座った)のままのペダリングでヴァンマルケを突き放し、置き去りにした。ヴァンマルケに追いついたカンチェラーラは、ヴァンマルケと協調体制を築き、何とかサガンのリードを崩そうとする。パテルベルグのふもとからゴールのオウデナールデまで、ほぼ平坦の13km。サガンは両腕を前に伸ばし、肘までハンドルバーに沿わせたTTポジション。カンチェッラーラは上体を低くした体勢で、黙々とべダルを回す。残り9kmで20秒だったタイム差は残り6kmで13秒まで縮まったが、そこから再びじわじわと広がり始める。残り4kmで18秒。残り3kmで24秒。ハンドルバーに触れるほど頭を低く下げ、ペダルを回し続けるサガンの背中の虹のストライプに、西日があたたかく照りつける。残り1kmの水色のバルーン・ゲートを越え、ゴール前のストレートへ。前方を走行していたレース・ディレクターの車が、左側に寄り、サガンを先行させる。
右肩越しに何度か後方を振り返ってから、サガンは上体を起こし、ハンドルをつかんでいた両手でジャージのシワを伸ばし、それから、空に向けて両手を、2度高く掲げた。

その後方ではカンチェッラーラがスプリントに入りかけるが、ヴァンマルケはその素振りを見せない。振り返って確認するカンチェラーラに、ヴァンマルケはいいのだ、というように笑顔を見せる。サガンに遅れること、24秒。カンチェッラーラは観客に手を振りながら、これまで3回制したフランドルを2位で走り終えた。

4位集団のスプリントは、前年のフランドル覇者、アレクサンドル・クリストフ(カチューシャ)が制した。5位にはスカイのルーク・ロウが入り、序盤の逃げのメンバーから、エルビーティが7位に入賞している。

選手コメントなど

ペーター・サガン(ティンコフ)
『またもうひとつ大きな勝利をあげることができた。一つ目は世界選だったけれど、今度はまたスペシャルだ。レインボー・ジャージを身に着けて、フランドルを勝ったんだから。シーズンが始まる前から、フランドル、ルーベが目標にしていた。本当にうれしいよ。(中略)それと同時に、先週亡くなった二人の選手のことも考えなくてはいけない。本当に悲しい出来事だった。この勝利を彼らと、そして練習中の事故で負傷した(チームメートの)マチェイ・ボドナールに捧げたいと思う。彼が早く回復してレースに復帰できますように』
『クヴィアトコウスキーは、絶妙のタイミングでアタックをかけた。確かにタイミングは早めだったかもしれないけれど、集団では誰もが疲れてきていたし、そこにはスカイの選手が4〜5人いた。だから、スカイの選手と逃げるのは、いいことだったんだ。(中略)とにかくとても不思議なレースだった。これまでに6回フランドルを走ったけれど、ここまでハードなのは初めてだ。最初から最後までフルパワーだった。誰が何を考えてこうなったのかはわからないけれど、とにかくちょっとでも休めたのは、レースを通して10分あるかないかだった』
『ファビアン(・カンチェッラーラ)も好調だったけれど、ちょっとしたミスを犯したんだ。我々(クヴィアトコウスキー、サガン、ヴァンマルケ)の逃げに加わらなかった。反対にそれが、ぼくにとっては良かったけれど。(オウデ・)クワレモントでもパテルベルグでも、タイム差を保つことができた。自分がフルパワーで行けば、彼もそうせざるを得ない。けれど、彼はヴァンマルケのことも考えなくてはいけない。ゴールがスプリント勝負になることを考えて、追走する彼らが少し力をセーブしてくれることを願っていた。そして、実際にその通りになっているようだった。最初は差が少し縮まったけれど、また広げることができた。残り2〜3kmでは、もう大丈夫そうだ、と感じていた』

ファビアン・カンチェッラーラ(トレック・セガフレード)
『…いくら考えてみても、2着は1番ではない。そして、2位はヒストリー(歴史)ではない…。朝からいろいろな感情が湧き起こっていたけれど、今もまだそうだ。いろいろなトラブルがあったのに、2位に入ったのだから、決して悪くはない。一晩眠って目が覚めたら、うれしい、という気持ちが湧いてくるかもしれない。けれど、ぼくは歴史を作りたかったんだ』
『クヴィアトコウスキーとサガンが飛び出し、セプ(・ヴァンマルケ)が追ったとき、ほんの1秒の決断を逃してしまった。あれが早すぎるアタックだったとは言えない。ペーターはそこでのアタックから、勝利をものにしてみせたのだから。とにかくセプに追いつき、力を合わせようと声をかけた。まだ諦めるつもりはなかった。ペーターがゴールまで同じペースを保つことはできない可能性に賭けていたんだ。けれど、ペーターの力が勝っていた。あの一秒は、悔やむべき一秒だったかもしれない。でも、レースに言い訳はないんだ。セプと自分は、ペーターを捉えることができなかった。今日、誰よりも強かったのはペーターだ。(最後の一言として)フランドル、ありがとう』

セプ・ヴァンマルケ(ロットNL・ユンボ)
『サガンとクヴィアトコウスキーのアタックは、(E3)ハレルベケのときとそっくりだった。あのレースでも、二人が1番強いライダーだったし、同じように加速していったんだ。だから、いまここで離されたら終わりだ、と自分に言って聞かせた。限界の力で、なんとかその後輪に追いつかなくちゃいけない。これが勝敗を分ける瞬間だ、ということは嗅ぎ分けていた。後ろの集団は、(追うか追わないか)ためらっている様子だったから、ぼくにとってはチャンスだった。オウデ・クワレモントでは、苦しみながらも何とかサガンについていけた。けれど、パテルベルグの一番急なところでダンシングをしようとしたら、ついに脚がつってしまった』

ミカル・クヴィアトコウスキー(チームスカイ)
『フランドルでの勝利は、もっとも美しい勝利のひとつだと言える。また必ずここにきて勝ちを競いたいよ。今日は脚がなかったのががっかりだけど…。(中略)サガンとカンチェッラーラが加速したタイエンベルグで、自分がもう100%じゃないことがわかっていた。クワレモントまで行けば、カンチェッラーラが最強だ。そこから独走態勢に入るところをこれまで何度も見てきた。だから、クワレモントの前で仕掛けようと考えたんだ。いいタイミングで動けた。けれど、そこで終わりだった。ペーター(・サガン)にも、ファビアン(・カンチェッラーラ)にもついていけなかった。今日の脚では、これが最大限だった。自分の調子がベストの日だったら、と思うよ! でもライバルの力のほうが今日は勝っていたんだ。これがスポーツさ』

イマノル・エルビーティ(モビスター) 【7位入賞】
『…今の気分? へとへとだよ(笑) こんなに大勢の観客の前で、先頭になってミュール(壁)を越えていくなんて、夢のような気分だった。ぼくたちのグループに追いついてきたサガン、クヴィアトコウスキー、ヴァンマルケには、できるところまではついていったけれど、そのあとは自分のペースで、スマートに走るしかなかった。そこまででたくさんの力を使ってしまっていたから、トップ10でレースを終えられるなんて思わなかった。フランドルでは、戦いの相手は後ろからやってくるんだ。それもすごい勢いで。(最後の上りの)パテルベルグを越えたあと、(アレクサンドル・)クリストフの集団に追いつかれた。脚の痙攣がひどくて、ペダルさえ満足に回せない状態だったけれど、望みは捨てなかった。スプリントでは最後の力を振り絞ったよ!』

スティン・ヴァンデンベルフ(エティックス・クイックステップ)
『もっとも強い3人が、集団を引き離していった。(オウデ・)クワレモントの前に、アタックにパーフェクトなタイミングが確かにあった。けれど、そこでアタックできるような脚がなかった。逃げも隠れもできないレースだから…。チームとしてはいいレースをしたと思う。残念だけれどほんの数%が足りなかった。単純に、今の時点で、我々よりも力のある選手が3〜4人いる、ということ。それを受け入れなくてはならない」

ディミトリ・クレイス(ワンティ・グループゴベール) 【9位入賞】
『アントアーヌ(・デモアティエ)とダーン(・ミングヘール)のために、何かをしたいという気持ちでいっぱいだった。序盤の逃げには入れなかったけれど、レース終盤にその埋め合わせはできた気がする。ペーター・サガンとセプ・ヴァンマルケは強すぎてついていくことはできなかったけれど、少しでも順位を上げるために、できる限りのスプリントをしたいと思ったんだ」

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寺尾 真紀

東京生まれ。オックスフォード大学クライストチャーチ・カレッジ卒業。実験心理学専攻。デンマーク大使館在籍中、2010年春のティレーノ・アドリアティコからロードレースの取材をスタートした。ツールはこれまで5回取材を行っている。UCI選手代理人資格保持。趣味は読書。Twitter @makiterao

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