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サイクル ロードレース コラム 2016年4月19日

【アムステルゴールドレース/レビュー】 途中棄権者続出のシビアなレース。ガスパロットが、チーム初のワールドツアー優勝

サイクルNEWS by 寺尾 真紀
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日曜日に行われたアムステル・ゴールドレース第51回大会は、2012年勝者のエンリコ・ガスパロット(ワンティ・グループゴベール)が最後(4回目)のカウベルグの上りでアタックでをかけ、ともに集団を抜け出したミカエル・ヴァルグレン(ティンコフ)とのゴールスプリント対決を制して優勝した。

先週末に行われたアルデンヌ・クラシック前哨戦のブラバントス・パイルで2位と好調なところを見せていたガスパロットが、チーム初のワールドツアー優勝を挙げた。また、レース中の事故がもとで3月27日に亡くなったチームメート、アントアーヌ・デモアティエに勝利を捧げる、というチーム一同の悲願を、ここで果たした。

レースの展開

4月17日、日曜日。10時15分。春の陽射しの中、アルデンヌクラシック3連戦の1つめであるアムステル・ゴールドレースがスタートした。多くの人が集まったマーストリヒト中心部を、総勢200人の選手たちが通り抜けていく。

コース全長248.7km。息をつく間もなく、34の上りが次々に登場するこのレースは、狭い道、カーブや曲がり角だけでなく、路上設置物(分離帯や標識など)の多さでも知られており、ただタフというだけでなく、選手にとってはかなりナーバスなレースとして知られている。

出走間もなく、ニュートラルゾーンでの激しい落車でファビオ・フェリーニ(トレック・セガフレード)がリタイア。顔面を負傷し、病院に搬送された。ティシュ・ビノート(ロット・ソウダル)も体調不良のため、早々にリタイアを決めた。

レース序盤は、かなり速いペースでレースが展開。ワンデーレースの常ではあるが、その日の逃げグループが確定するまで、チーム間の綱引きが続く。スタートの1時間後、この日4つめの上り(ベルグスウェグ)に入る手前の35km地点で、マッテオ・ボノ(ランプレ・メリダ),ローレン・デヴリーゼ(アスタナ)、マッテオ・モンタグーティ(Ag2r・ラモンディアル)、ローレンス・ワーバス(IAMサイクリング)、アレックス・ハウズ (キャノンデール・プロサイクリング)、ローラン・ディディエ(トレック・セガフレード)、ケヴィン・レザ(FDJ)、トム・ドゥヴリント(ワンティ・グループゴベール)、ジャコモ・ベルラート(ニッポ・ヴィーニファンティーニ )ヨゼフ・チェルニー(CCCスプランディ・ポルコウィチェ)、ファビアン・グルリエ(ディレクトエネルジー)の11人からなる今日の逃げグループが決まった。

この日後半の舞台となる周回ルートに足を踏み入れ、アムステル・ゴールドレースの代名詞でもあるカウベルグ(合計4回登場する)の1回目をこなし、フィニッシュラインを通過したところで、メイン集団と5分差。

しかし、レース距離200kmを残してのこの5分差は、さらに50km進んだところで4分半程度、レース残り100kmとなる150km地点で3分台半ばと、チームスカイ、オリカ・グリーンエッジが中心となったペースメイキングで大幅に削られていく。

チームスカイが、今年はフランドル・クラシックにも出場し、E3ハレルベケで優勝を飾ったミカル・クヴィアトコウスキーで前年に続く2連勝を狙う一方で、オリカ・グリーンエッジには、マイケル・マシューズとサイモン・ゲランスという2枚のカードがある。この2チームが、逃げグループとのタイム差をかなりタイトにコントロールしながら、レースは進んでいく。

レースが、2回目のカウベルグを越え、3つめの周回コース(※)に入ったあたりで、だんだんと空模様が怪しくなってきた。大きな雨雲がファルケンブルグの上空に近づいてきたのだ。

※ 同じコースをぐるぐる回る【周回コース】ではないが、このレースは、カウベルグを越えて、フィニッシュラインをまず一回通過したあと、部分的には重複するルートを辿りながら、ファルケンブルクを中心に近郊を3ループする。(コースマップ上の緑ループ・赤ループ・黒ループ)

この時点ではまだときどき薄日がさし、選手たちの影がうっすらと道路に映し出されていたが、行く先には雨の白いカーテンが見える。レースは残すところ85kmだが、空は持ちそうにない。風が強まり始め、12〜13℃あった気温は、急激に下がり始めた。

選手たちはひしめき合い、肩を並べながら、ベメレルベルグの坂道を上っていく。頂上を越え、下り始めたところで、とうとう雨粒が落ちはじめた。

レースは残すところ65km。ダニー・ファンポッペル(スカイ)とルーク・ダーブリッジ(オリカ・グリーンエッジ)の牽引で、メイン集団は次第にスピードアップする。先行する逃げグループとのタイム差が3分に縮まったところで、集団からトッシュ・ヴァンデルサンド(ロット・ソウダル)が飛び出し、ニッコーロ・ボニファズィオ(トレック・セガフレード)、ジャンニ・メールスマン (エティックス・クイックステップ)、ビョルン・トゥーラウ(ワンティ・グループゴベール)が追随する。4人は先を急ぎ、10kmほど進んだところで、先頭を行く逃げグループから2分、後ろのメイン集団から1分のところにつけた。

ゴール前41.3kmに登場する27番目の上り、クルイスベルグを前に、メイン集団は再びスピードを増す。クルイスベルグの上りに入る直前に、それまで走行していた広いメイン道路から街中に入り、左・右・左とタイトなターンをこなさなくてはならない。少しでも有利なポジションを守りきろうと、広い道路の端から端まで各チームが展開し、我先にと左ターンへ飛び込んでいく。

冷たい雨が吹きつける中、スカイの先導でメイン集団はクルイスベルグを越える。先頭の逃げ集団ではアレックス・ハウズ(キャノンデール)のアタックが中和される一方で、遅れをとった選手たちが千切れて後方へと取り残されていく。平均勾配8.1%のアイセルボスウェグ、続くフロムベルグでもセプ・ファンマルケ(ロットNL・ユンボ)、ベルギー国内ロード王者のプレーベン・ヴァンヘッケ(トップスポートフラーンデレン・バロワーズ)らのアタックが続くが、集団も目を光らせており、抜け出せる選手はいない。ダリル・インピー(オリカ・グリーンエッジ)が先頭に立ち、逃げグループと追走集団(の残り)を追う。メイン集団は長く長く引き伸ばされ、いくつもの短い鎖に分かれ、後方の選手はそのまま取り残されていく。

3回目のカウベルグを前に登場する、ケウテンブルグ。最大勾配22%、今大会に限らず、オランダでもっとも傾斜がきついとされる。この上りでインピーらが牽引する集団が追走グループを飲みこんだ。ここでヤン・バークランツ(Ag2r)、ファンマルケらが飛び出すが、これもほどなくして捕らえられた。

ケウテンベルグでのペースアップと、雹(ひょう)混じりの冷たい雨による消耗で、過去3大会で優勝を挙げているフィリップ・ジルベール(2010、2011、2014)、エドヴァルド・ボアッソンハーゲン、トム・ドゥムラン(ジャイアント・アルペシン)らの有力選手たちが、次々と集団から遅れ始める。

続く、3回目のカウベルグ(残り21.1km)では、メイン集団からボブ・ユンゲルス(エティックス・クイックステップ)とエンリコ・バッタリン(ロットNL・ユンボ)がアタックを試みる。オリカ・グリーンエッジのマシュー・ヘイマン(先週行われたパリ〜ルーベの勝者)、マイケル・アルバシーニ、ダリル・インピーが鬼気迫る表情で牽引してまず2人のアタッカーを捕らえる。ピーター・セリー(エティックス・クイックステップ)も集団の先頭に立ち、そのさらに数キロ先、残り14km地点で、最後まで逃げ続けていた5選手をようやく吸収。この動きの中、前年優勝者のミカル・クヴィアトコウスキー(チームスカイ)は集団の後方から脱落していく。

カウベルグの一つ手前のベメレルブルグ(この日最後から2番目の上り)を下りきったところ、ゴール前8km地点で、オリカ・グリーンエッジが先導する集団から、ロマン・クロイツィゲル(ティンコフ)がアタック。プロトンの一瞬の戸惑いをつき、みるみる距離を開いていく。アルバシーニ、ヘイマンらが差をつめきれずにいる中、今度はロット・ソウダルの赤いジャージ、ティム・ウェレンスが一人飛び出す。そのままクロイツィゲルを抜き去り、そのまま前へと進んでいく。手を手首のところで交差させてハンドルバーに沿わせたTTのスタイルで進むウェレンスと、追走のイニシアチブが決まらない集団との距離は開いていく。

集団ではセリーが先頭に立ち、アスタナ、ティンコフも加わるが、ウェレンスとのタイム差は20秒近くまで広がる。焦れた集団からアルバシーニが再び先頭に飛び出し、捨て身の追走を開始。これをエティックス・クイックステップ、Ag2rが引き継ぎ、レースは、最後の勝負どころ、カウベルグへ。

長い脚をコンパスのように伸ばし、カウベルグへの左ターンにとびこんでいったウェレンスから12秒遅れで、45名ほどの集団がカウベルグの足もとにたどりつく。集団前方にはファンマルケやバウケ・モレマ(トレック・セガフレード)、ワレン・バルギル(ジャイアント・アルペシン)、イェーレ・ヴァネンデール(ロット・ソウダル)の姿が見える。右に、左に、ゆるやかにカーブするカウベルグの中腹で、集団前方から飛び出したガスパロットがウェレンスの背後に迫り、そのまま抜き去っていく。ガスパロットにはヤン・バークランツ(Ag2r・ラモンディアル)とミカエル・ヴァルグレン(ティンコフ)が続いていたが、ゴール2km前で、ガスパロットに追いすがることができたのはヴァルグレンのみ。背後のグループの前方では、バケランツ、マシューズ、セルジオ・エナオ(チームスカイ)らと顔を見合わせたあと、ヴァネンデールが意を決したように追走を開始する。

残り1.5kmで、それまで先行していたガスパロットの前にヴァルグレンが出た。ヴァネンデールを先頭に、後方に迫る集団を肩越しに振り返りながら、残り1kmを示すフラムルージュを越える。2人と、後方集団の間には、150mほどの差が残るのみ。生き物のように右に、左にとうねりながら、後方の集団は2人との差をつめようとする。

ヴァルグレンはガスパロットを後輪に従えたまま、必死に前へ進んでいく。400m・・・200m。残り200mでガスパロットが右へ飛び出し、渾身の力でペダルを踏み込む。ヴァルグレンも追うが、勝負は見えていた。両手の人差し指で天を差しながら、フィニッシュラインを最初に越えたのは、ガスパロットだった。

2人のすぐ後ろでも、必死のスプリントが始まった。30名ほどの集団の中では、バルディアーニCSFのソニー・コルブレッリがひとり抜きん出た。コルブレッリは、トップタイムに3秒遅れの3位で、表彰台を確定させた。

アムステルを2回以上制したのは、これまでに、エディ・メルクス、ヤン・ラース、そしてフィリップ・ジルベールの3人だけ。2012年に続く2勝目をあげたエンリコ・ガスパロットは、その4人目に名を連ねることになる。 また、ワンティ・グループゴベールにとっては、チームとして初のワールドツアー(WT)レース優勝となった。 なによりも、3月末に亡くなったチームメート、アントアーヌ・デモアティエの名を刻んだプレートを身につけてフランドルを戦い、アルデンヌに乗り込んできたチーム全員が待ち望んだ勝利だった。

急に降り始めた雨と急激な気温の低下もあり、過去の優勝者や前評判の高かった選手を含め、80人近くが途中棄権というかなりシビアなレースになった。今大会には3人の日本人選手が出場していたが、4回目の出場となった別府史之(トレック・セガフレード)、全日本チャンピオンの窪木一茂(日本、NIPPOヴィーニファンティーニ)、小石祐馬(日本、NIPPOヴィーニファンティーニ)のいずれもがDNFとなっている。

選手コメント

優勝: エンリコ・ガスパロット(ワンティ・グループゴベール)
『ここしばらく、大きな責任のようなものを感じていた。とても大きな責任感を。昨日、「がんばって」と伝えに、アントアーヌの奥さんがホテルを訪ねてくれた。34歳のぼくにも妻がいる。毎日いろいろなことを考える。アントアーヌの死の記憶は、ぼくたちにとって、まだとても鮮明なんだ』
『脚の調子は信じられないほどだった。何もかもが計画通りにいった。チームにとってこれまででもっとも美しい勝利だった。仲間たちはすばらしい仕事をしてくれた。逃げにも1人入り(注 ドゥヴリント)、ビョルン・トゥーラウは次の追走集団に入ってくれた。ほかのメンバーも、レースの間中ぼくをよく守ってくれた。完璧だったよ』
『マイケル・マシューズのために、オリカ・グリーンエッジが始終レースをコントロールしていた。マシューズとスプリント対決になったらそれで終わりだ。どこかでアタックしなくちゃならない、ということははっきりしていた。いいタイミングを待たなくてはならなかった。ラストはものすごい向かい風だったから』 『この勝利は、アントアーヌ・デモアティエの家族のものだよ。今日、ぼくの肩の上にはエンジェルがいたんだ。アントアーヌのことを思うたびに、ぐんぐん前へ進めた』

2位: マイケル・ヴァルグレン(ティンコフ)
『エネルギーも使ったし、集団の前方にいたことは、もしかしたら大きな間違いだったのかもしれない。それでもいい結果にはつながったけれど。2人になったとき、ガスパロットは協力するつもりがいようだった。だったらコースの左に寄ってハイペースで牽き、プロトンを引き離したままにして、スプリントで彼を負かすことができるかもと思ったんだ。けれど、最後はもうだめだった』
『一日苦しんだカウベルグも、最終の上りのときは、沿道の応援のおかげで、びゅんびゅん進んでいけた。あれはよかったね。ラスト2.5kmは本当に苦しかった。ガスパロットに追いつこうとしたアタックではなかったんだ。ハードなテンポで牽き出したら、周りはついてくる気がないみたいだった。だからガスパロットに追いついて、一緒に進むことにしたんだ』
『いつかアムステル・ゴールド(・レース)を勝てたらと思うよ。去年もいい感じだったし、ぼくに向いているレースなんだと思う。一日中脚を休める間がないし、クラッシュやパンクを避けるには運も必要な、ものすごくハードなレースでもあるけれど・・・』
『もちろん最初はがっかりした。でも少し時間が経って、これはそれでも大きなリザルトなんだという気持ちになってきた。いい走りはできたし、また数時間たったら、さらにうれしい気持ちが出てくるかもしれないね』

3位 ソニー・コルブレッリ(バルディアーニCSF)
『雨と雹(ひょう)が降ってきたりもしたし、ハードなレースだったね。エネルギーをセーブしてフィナーレでチャンスを狙うためには、集団のいちばん前にポジションを取ること。最後(4回目)のカウベルグに入るところで、ぼくは3番手につけた。ガスパロットがアタックしたとき、まわりにBMCやエティックス・クイックステップやオリカ・グリーンエッジがいたから、ここは待とうと思った。調子は良かったけれど、彼らが差をつめてくれるはずと思ったんだ。…でも、そうはならなかった』
『ゴールの直後はがっかりした。大きなチャンスを逃したという後悔があったんだ。先頭2人のほんの数メートル後ろのスプリントを制したんだから・・・。けれど、今日の走りを振り返り、こんなに大きなレースの3位に入れたということを考え始めたら、失望を忘れて、表彰台を楽しむことができた。たくさんのすばらしい選手たちがぼくの後ろでレースを終えた。いいレースができたという証拠だよ』

ティム・ウェレンス(ロット・ソウダル)
『レース前にみんなで、今日はアグレッシブな走りを、と決めた。ピム・リヒハルトとトッシュ・ヴァンデルサンドが最初からどんどん行って、トッシュも追走に入ってくれた。集団に戻ってからも、ずいぶん良く働いてくれたんだ。フィナーレは強い向かい風だったから、アタックにはタイミングを待つべきだということは分かっていた。ベメレルベルグでアタックはしたけれど、風と、あとは一人だったせいで、先行し続けることはできなかった。ほかのチームの選手が一緒に来てくれなかったのはがっかりだった。数人で抜け出せば、もっと差をひらくことができたかもしれないのに』
『カウベルグのはじまりでは、後ろには12秒差だった。でも、逃げ切るためには30秒は必要だった。いったんプロトンが加速すれば、すぐに追いつかれてしまう。なんとか追走集団には残り、10位以内に入れた。いいレースだったし、感触も良かった。イニシアチブを取ることでレースを勝とうとしたけれど、それはうまくいかなかった。でも、昨年のカウベルグでは、有力選手たちの動きについていくこともできなかった訳だから、去年より満足しているよ』

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寺尾 真紀

東京生まれ。オックスフォード大学クライストチャーチ・カレッジ卒業。実験心理学専攻。デンマーク大使館在籍中、2010年春のティレーノ・アドリアティコからロードレースの取材をスタートした。ツールはこれまで5回取材を行っている。UCI選手代理人資格保持。趣味は読書。Twitter @makiterao

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