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本日ジロ・デ・イタリア2016開幕! 何があっても寛容なお心で―。予期せぬハプニングもジロならではの醍醐味です。
サイクルNEWS by 寺尾 真紀5月のイタリア、7月のフランス、8月スペインで、3週間にわたって開催される3つのステージレース、『グランツール』。
サイクルロードレース(自転車レース)の中でも最高峰に位置づけられ、22のトップチームだけが出場を許される(*1)。9人のメンバーに選ばれ、そのスタートラインに並ぶことは、すべてのプロロード選手にとっての大きな夢だ。
その3大グランツールの一つ、ジロ・デ・イタリア(=『イタリア一周レース』)が、5月6日に開幕する。21日間をかけて(*2)、最終ゴール地のトリノ(北イタリア)まで、総距離3,463.1kmの道のりを走破する。
(注)
*1 トップカテゴリーに所属する全18チームに加えて、レース主催者の招待を受けた4チームが出場できる。
*2 休息日を含めると実際には24日間だが、レースが行われるのは21日間で、各ステージごとに勝利とタイムを争いながら、最終的には、全21ステージを合計してもっとも早い(少ない)タイムで走り終えた選手が『総合優勝者』となる。
★
5月のイタリアを自転車で…と聞いて、「雨・雪」を想像することは、あまりないかもしれない。
けれど、日本と同じようにタテに長いイタリアは、地域によって気候の特徴もかなり異なるし、季節の変わり目ということもあって、案外5月は天気が安定しない。天が割れたような大雨に見舞われたり、ジロの決戦の舞台となるドロミテやアルプスのような高山地帯では、いったん悪天候に見舞われれば、時ならぬ大雪になることも、決して珍しいことではない。
例えば、トスカーナの未舗装路を行く選手が白い砂埃をもうもうと立ち上げ・・・という勇壮なイメージで知られる「ストラーデ・ビアンケ(=白い道)」というレースから20kmほどのルートを拝借したとき(2010年)もあいにくの大雨。白いはずの道はみるみるうちに灰色の川になり、勝負どころとなる急坂部分は、まるで泥の壁。頭からつま先までどろどろになりながら、選手たちはゴールまで走り続けた。
この年は雨の当たり年だったのか、南イタリアで行われた数日後のステージも激しい雨となり、水がたまって池のようになったアスファルトの道を、背丈より高い水しぶきを上げながら、選手たちは走り抜けることになった。
これよりもさらに天候に恵まれなかったのが2013年。序盤から冷たい雨の日が続き、前年のツール・ド・フランス総合優勝者、ブラッドリー・ウィギンスなど、体調を崩す選手も出た。後半戦に入ると、季節はずれの寒波は山間部で大雪をもたらし、実にジロ史上24年ぶりに1ステージがまるごとキャンセルされたほか、いくつかのステージで重要な山岳がカットされたり、ルートが変更されたりした。
こういった悪天候のジロでときどき発生してしまうのが、中継映像の中断というハプニングである。例えば今年は29のネットワークが184カ国でジロを放映するが(うち24ネットワークが生中継)、これらの画像は、TVカメラを載せて選手たちの近くを走るモト(オートバイ)とヘリコプター(空撮)から送られてくるもの。天気が悪くなって空撮ヘリ自体が飛べなくなることもあるが、上空でそれら(TVモトと空撮ヘリ)のシグナルを中継する別のヘリや、さらに上空で衛星やタワーにシグナルを飛ばす小型飛行機との連携(GPSを使う)がうまくいかなくなって不安定になったり、という問題も起こりうる。
悪天候による国際映像の中断は、各国のスタジオにとって大きな試練だが、悪天候に見舞われたとき、現地でも、それと同じくらいの ― いやそれ以上の混乱状態となっている、と考えて間違いない。
コースが短縮されるのか、ならばゴール地点はどこになるのか、迂回ルートが採用されるのか、迂回中は「競技続行」なのか「競技停止」なのか、はたまたステージキャンセルもありうるのか…。
ステージレースにおいては、事務局も開催委員会も審判もコミッセールも、誰もが常に移動中である。もちろん、休息日や、宿泊先に到着してから翌朝までは「長めの静止状態」があるが、ホテルからスタートへ、スタートからゴールへ、ゴールから次の宿泊先へと、一日の間にも動き続けなくてはならない。
もちろん便利なEメールというものがあるわけだが、公式のコミュニケが出るまでの待ち時間がとてつもなく長く感じられたり、そうこうしている間にも、こういう風に決まったらしい、レース中であれば、ラジオコルサ(レース無線)がこんな指示を流したらしい(←イタリア語の内容を英語で繰り返してくれなかったり、ラジオコルサカーと距離が離れると受信できない)などと、気がもめることこの上ない。
取材に行っているだけでもそうなのだから、例えばレース中に重要な判断を迫られる、チームの心労を察するに余りある。チームカーは大きなお皿のようなアンテナを取りつけているから、少なくともレース無線を聞き逃すことはないはずだけれど・・・
それでも、最後の頼みの綱、レース無線が原因で混乱が起きてしまったこともある。雨、雪が吹きつけ、次のコーナーも見えないような霧に包まれたステルヴィオ峠(標高2758m)でのできごと(2014年)だ。ここから25kmの長い長いダウンヒル区間をどう走るか、という指示にまつわる混乱だった。
走行条件が極端に危険な場合など、レース無線が「競技停止」を指示することがある。わかりにくいコンセプトかもしれないが、例えば「とにかく安全にここを下って、みんながそろったところで競技を再開しよう」というような考え方だ。もう一つは「アタックの停止(あるいはポジションの維持)」で、直前までの順位をそれぞれ維持したままで進み、解除されるまでは飛び出したりアタックしたりしない、ということを意味する。
実際にはレース無線は「ステルヴィオの下りすべてではなく、一時的にアタックを停止する(そのタイミングは近くを走行するモトが赤旗を振って知らせてくれる)」をいう指示をしたつもりだったが、下りすべての競技停止、あるいはアタック停止だと理解したチームが多かった。チームだけではなく、ジロの公式ツイッターもそう勘違いをしてツイートをしてしまったくらいだから、やはりレース無線の指示はわかりにくいものだったのだと考えてよいと思う。
山頂付近は体感温度が零下10℃近くという気象条件の中、 チームからレース無線の内容を伝え聞いて、ゆっくり時間を取り、食べ物で暖をとったり、着替えをした選手もいた。休憩は取らないまでも、少なくともこの下りではアタックをしてはいけない、という指示だと考え、従った選手もいた。モトが周囲にいなくて、どうしたらよいかわからない選手も多かった。一方で、この下りの途中で飛び出し、アタックをかけた選手もいた。この混乱の結果、総合優勝を争っていた2人の選手の順位が逆転し、最終的な勝敗の行方を左右しかねないタイム差が生じてしまうという結果になってしまった。
この日のコースは、ある意味前年の「リベンジ」とも呼べるもので、先ほどちらりと触れた、大雪により中止になったジロのステージ(2013年)を、そっくりそのまま登場させたものだった。ガヴィア峠、ステルヴィオ峠というジロを代表するモンスター峠を、同じ日に越えるのは、ジロ史上初。美しさと過酷さを追求するジロにとってもかなり野心的なステージだったといえる。ただでさえスムーズなコミュニケーションが難しいレース中に、この野心あふれるコース設定と、5月のドロミテの過酷な気候条件が重なってしまっての混乱だった。
トップ選手たちの体力、精神力にさまざまな側面から挑むような「過酷さ」こそがジロの醍醐味。そこから生まれたチャンピオンこそが真のチャンピオンなのだ、という信条が、その根底にはある。とすると、5月の気まぐれな空模様との、ぎりぎりのところでの攻防戦さえも、ジロをジロたらしめる重要な要素なのだと言えるかもしれない。 『山岳をより難しくすることで、ジロでの勝利が持つ意味や価値を高め、選手たちに魅力あるレースだと思ってもらうこと。イタリアの自然や景観が持つ美しさを人々に伝えて、ジロのファンになってもらうこと』 長いことジロのコースデザインにたずさわり、2012年からはレース・ディレクターを務めるマウロ・ヴェーニ氏の言葉だ。
今日から始まるジロ2016の21日間の道のりも、たくさんのドラマの可能性をそこかしこに秘めている。 今年はどんな挑戦が、ジロのスタートラインに並ぶ22チーム、198人の選手たちを待ち受けているのだろう。
寺尾 真紀
東京生まれ。オックスフォード大学クライストチャーチ・カレッジ卒業。実験心理学専攻。デンマーク大使館在籍中、2010年春のティレーノ・アドリアティコからロードレースの取材をスタートした。ツールはこれまで5回取材を行っている。UCI選手代理人資格保持。趣味は読書。Twitter @makiterao
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