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今年も、熱狂的なオランダの観客が、グランツール開幕を迎え入れた。実行委員会の計算によれば、3日間の総観客数は57万5000人で、46万という事前の予測を大幅に上回った。連日20万人近い観客が、スタートで、ゴールで、ルート上で、選手に声援と拍手を贈った。20万人の人出、といってもなかなかピンとはこないが、とにかくどこを向いても人人人。沿道で、応援の鎖が途切れることがなかった。初日には、ウィレム・アレクサンダー国王も姿を見せた。ジロのレース・ディレクター、マウロ・ヴェーニは、自身の経験の中でもベストの海外開幕だ、と、頬をピンクに染めた。
ばら色に染まったヘルダーラントを沸かせたのは、なんといっても、トム・ドゥムラン(ジャイアント・アルペシン)、マルセル・キッテル(エティックス・クイックステップ)、マールテン・チャリンギ(ロットNLユンボ)の3人だった。オランダ中の期待を背負った(そしてツールの雪辱を胸に期した)ドゥムランはコンマ・ゼロゼロ以下(1/100秒)の僅差で個人TTを制し、このジロでいちばん最初のマリアローザを手に入れた。キッテルは、「まだ多くの経験をつんでいない」エティックス・クイックステップのトレインを率い、文字通り、誰も寄せつけないスプリントで2勝をあげ、ピンク色のジャージを引き継いだ。現役最後のグランツールが祖国で開催する、というラッキーの上に、愛する家族と暮らす町、アーネムで第3ステージがゴール、という更なるラッキーに恵まれたチャリンギは、2日連続でレースの先頭を駆け、アーネムの表彰台で青い山岳賞ジャージを手に入れた。
実はプロ入りしてからイタリアでは未勝利(ジロでの4勝はすべてイタリア国外のスプリント・ステージであげたもの)のキッテル、キアンティの個人TTでマリア・ローザ奪回を目論んでいるであろうドゥムラン、チャンスを見ては逃げに乗っていくに違いないチャリンギ ― と、開幕3日間の主役3人については、イタリア本土でスタートする第4ステージ以降も、目が離せない。
総合勢に目を転じれば、アペルドールンを舞台にした個人TTでは、アレハンドロ・バルベルデ(モビスター)に5秒、リゴベルト・ウラン(キャノンデール・ガーミン)に14秒、ミケル・ランダ(チームスカイ)に21秒と、ライバルたちに対し、ニバリがわずかなリード。最初の山岳ステージであり山頂ゴールの第6ステージ、アップダウンのあるキアンティの個人TT(第9ステージ)と進むにつれ、総合争いも次第に激しくなっていくことだろう。
第3ステージを終えた選手たちは、スキポール空港近くのホテルに移動し、南イタリアへの移動に備える。休息日の翌9日、朝9:00。感謝と惜しみない賛辞を贈りながら、196人の選手たち(ペロー、ディリエがすでにリタイアしている)はオランダの地をあとにした。
この日、ラメーツィア・テルメ空港に向けて、選手、レース関係者(ジロのスタッフ)約600人を乗せて飛び立ったのは、チャーター便2便。それに加えてカーゴ便も2便用意された。オランダ隊とイタリア隊を別行動させ、陸路の移動を最小限にしたチームもあったが、それでも多くのチーム関係者が、南イタリアに向けて陸路2500kmの移動を行った。
約3時間半後、ラメーツィア・テルメ空港の駐車場では、チームバスが選手をお出迎えした。そこからホテルに向かい、13:30には選手たちが昼食のテーブルを囲む・・・というチームがほとんどだったが、『マージナル・ゲイン(※)』のチームスカイは違った。フライトから降り立った選手は、チームバスの中で着替え、軽食を口にし……、そこからホテルまでの50kmを自走し、軽いトレーニング走行にあてたのであった。他チームは、ホテルでの昼食後、ひとごこちつけてからトレーニング走行に出かけていったが、今ではレース後の『マスト』になったクール・ダウンをただひとり始めたのも、チームスカイだった訳だから、そのうちこれも、移動日のおなじみの光景になってしまうのかもしれない。
※ チームスカイだけでなく、チームのプリンシパル、デイヴ・ブレイルズフォードが英国ナショナルサイクリングチームを率いたときのスローガンでもあったが、わずかな差の積み重ねでライバルを引き離すこと
ちなみに、余談にはなるが、選手たちをお迎えしたのがカラフルなチームバスなら、駐車場に整然と並んでジロ関係者たちを待っていたのは、赤くペイントされた、われらがジャパン・ブランド、ホンダの車たちであった。オランダでのジロ中継でも、赤いホンダカーたちに目を留めた方々がいらっしゃったに違いない。オランダで使われた車両はスキポール空港で(ごく短い間の)ご主人たちをお見送りしたが、ホンダ(現地法人)のオフィシャルカー提供は、全日程を通してのもの。CR-V、HR-V(日本名ヴェゼル)、シビック・ツアラー(日本未発売)の3車種、126台が提供されている。
前回オランダでジロが開催されたのは、2010年。このとき、オランダで行われた最後のステージは、北海に面したゼーラントを舞台にした第3ステージ。ここで勝利をあげたのが、当時クイックステップに所属していた、ワウテル・ウェイラント選手だった。
ステージが行われず、移動・休息にあてられた昨日、5月9日は、2011年ジロ第3ステージのクラッシュにより命を落とした、ワウテル・ウェイラント選手の5回目の命日にあたる。
昨日も、多くの選手や関係者が、追悼の気持ちを表した。その中で一つ、ウェイラント選手が所属していたレオパード・トレック(現在はトレック・セガフレード)のチーム・マネジャー、ルーカ・グエルチレーナ監督の言葉を紹介したい。
『時は傷を癒してくれるという。けれど、あの日刻まれた記憶が消えることはない。チャオ、WWスペシャル』 (@l_guercilena)
日本時間の今夜、3年ぶりのレッジョ・カラブリアで、ばら色のレースが再開する。 残るは18ステージ。熱き戦いを、そして安全なレースを。
寺尾 真紀
東京生まれ。オックスフォード大学クライストチャーチ・カレッジ卒業。実験心理学専攻。デンマーク大使館在籍中、2010年春のティレーノ・アドリアティコからロードレースの取材をスタートした。ツールはこれまで5回取材を行っている。UCI選手代理人資格保持。趣味は読書。Twitter @makiterao
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