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サイクル ロードレース コラム 2017年4月29日

【リエージュ~バストーニュ~リエージュ2017現地レポート】悲しみを乗り越えて 選手とファンが前進することを誓った1日

サイクルNEWS by 福光 俊介
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フランス語で「最古参」を意味する“ラ・ドワイエンヌ”の別名を持ち、サイクルロードレースシーンにおいて最も歴史あるワンデーレースとして愛されるのがリエージュ~バストーニュ~リエージュ。春のクラシックシーズンに別れを告げるレースとして、ひときわ華やかに、そしてどのレースよりも劇的な展開に出会うことができるのも、“ラ・ドワイエンヌ”ならではだ。

そんな美しいレースでも、悲しみを避けて通ることはできない。大会前日の4月22日に飛び込んできた、アスタナ プロチーム所属のイタリア人ライダー、ミケーレ・スカルポーニの訃報。亡くなる前々日までレースに出場し、この先のスケジュールに意欲を燃やしていた矢先での出来事だけに、スカルポーニ自身さぞかし無念だったことだろう。それを推し量るように、やり場のない混乱と怒りがロードレース界を大きく包み込んだ。



写真:コート・ド・サンロッシュでファンが路面に記したスカルポーニへの追悼メッセージ

それでも、悲しみを乗り越えて前進しなければならない。そう、選手もファンもみんな。アスタナ プロチームは、レース前日のチームプレゼンテーションは欠席したものの、レース本番には姿を現した。追悼を意味する黒い腕章を着け、スタートラインでは先頭に並んだ。レース直前のセレモニーでは、多くの選手が人目をはばからず涙を流したが、スタートの合図が鳴ると元気に出発した。それはいつものレースのように。いつまでも悲しむことは、スカルポーニも望まない。しっかり走ることが何よりの手向けだと言わんばかりに。

レースが始まれば、選手もファンも熱くなる。筆者が向かった先は、ベルギー南部・ワロン地方の新緑に染まった丘陵地帯を抜けて迎える2つ目の登坂セクション、コート・ド・サンロッシュ。スタートから116km走って訪れる上りは、登坂距離1km、平均勾配11.2%の激坂。フィニッシュまで半分以上を残しており、優勝争いに直結こそしないとはいえ、壁のような坂を選手たちが上る姿を一目見たい、そんなファンで溢れていた。



写真:ビール片手に記念撮影に講じるファン

4日前のフレッシュ・ワロンヌ同様に、丘の麓には出店が並び、ビールやハンバーガー、ソーセージの販売が行われていた。やはり、ベルギーに人たちにとってビールはロードレースに欠かせないアイテムのよう。ビールを手に入れると、コップ片手にお目当ての観戦ポイントへと急ぐ。



写真:いつしかファンがコースを埋め尽くしていた

筆者が傾斜の最も厳しいポイントで選手たちを待っていると、やがてファンが次々と押し寄せてきた。激坂で熱狂的な応援、というのはこのスポーツにおいてよく見る光景だが、それまでの過程は現場にいてこそ分かるもの。はじめは大会を主催するA.S.O.関係者と筆者くらいしかいなかったそのポジションは、気が付くとファンでぎっしり。思いがけず「観衆がコースを埋め尽くす」状況に出くわしたのだった。幸い、彼らは観戦マナーを守り、選手の通過に合わせてきっちりとコースを開けた。選手とファンとが接触する心配は、杞憂でしかなかった。



写真:フィニッシュ地点近くのバーは満席

さて、今回のレース取材において「これぞ自転車王国ベルギー」を実感する出来事に遭遇した。コート・ド・サンロッシュ、フィニッシュが設けられたリエージュの隣町・アンス、それぞれでファンに囲まれ、今後のレース取材予定を問われたのだった。取材者には、主催者が用意したIDカードを渡されるのだが、彼らはそれを確認し私がレース取材をしているとすぐに認識したようだった。いままで、取材予定を身近な人に話すことはあっても、一般のロードレースファン、それも初めて会う人たちとそんな話題で盛り上がることはなかっただけに、とても新鮮で、改めてベルギーのサイクルスポーツ熱を感じたのだった。熱心なファンは取材者の動向もチェックするものなのか。



写真:フィニッシュ地・アンスで出会ったファン。「またここに戻ってきてくれよ」と温かい言葉を寄せてくれた

ちなみに、各所で「筆者に取材してほしいレース」を質問してみたところ、コート・ド・サンロッシュではジロ・デ・イタリア、アンスでは「またここに戻ってきてくれよ」との言葉とともに、リエージュ~バストーニュ~リエージュとの返事をもらった。



写真:軍兵士を配置するなど厳戒態勢の中でレースは行われた

レースの盛り上がりの一方で、今回のレースは厳戒態勢の中で行われていたこともお伝えしておきたい。3月から4月にかけてフランス・パリとその近郊で相次いだ爆発や銃撃テロ、4月11日にはドイツ・ドルトムントでサッカーチームのバスを狙った爆発事件が起きており、サイクルロードレースも標的となる可能性があることを受けての対応と見られる。スタート地・リエージュ、フィニッシュ地・アンスともに軍兵士や警察官を多く配置。大会が成功した裏には、警備を強化していたことも見逃してはならない。



写真:沿道でバーベキューをしながら選手を待つファミリー

クラシックシーズンは熱狂のうちに終わりを迎えた。これからはステージレース中心のスケジュールへと移行する。また新たなドラマがわれわれを感動に導いてくれることだろう。この先どんなストーリーと出会うことができるのか、未知の楽しみを探る日々が再び始まる。


■ツール・ド・ヨークシャー放送情報
04月29日 (土) 午後11:00~深夜02:00 生中継&LIVE配信

福光 俊介

ふくみつしゅんすけ。サイクルライター、コラムニスト。幼少期に目にしたサイクルロードレースに魅せられ、2012年から執筆を開始。ロードのほか、シクロクロス、トラック、MTB、競輪など国内外のレースを幅広く取材する。ブログ「suke's cycling world」では、世界各国のレースやイベントを独自の視点で解説・分析を行う

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