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勝てなかった日々の悔しさを、エリア・ヴィヴィアーニが見事に晴らした。チームの仲間が組み上げた完璧な列車に乗って、今ブエルタ2勝目、今季グランツール6勝目をさらい取った。最終盤に2度もパンクに襲われたサイモン・イェーツも、やはりチームメートの献身のおかげで窮地を脱した。無事にメイン集団内で走り終え、1秒差のマイヨ・ロホをしっかりと守り抜いた。
今ブエルタで間違いなく最も静かな1日だった。暑さは峠を越え、心配されていた風も、それほど強くは吹付けなかった。道は全般に渡ってほぼ平坦で、しかも逃げたのはたった2人だけ!
まずはジーザス・エズケラがひとりで飛び出すと、すぐに2分ほどの差をつけた。途端にトーマス・デヘントやリッチー・ポートもそわそわとした態度を見せたが、結局はティアゴ・マシャドがひとりで追いかけた。2人はすぐに合流を果たすと、メイン集団から一時は4分近いリードを奪った。
後方では4つのスプリントチームが作業を分け合った。ヴィヴィアーニのクイックステップフロアーズ、ペーター・サガンのボーラ・ハンスグローエ、ジャコモ・ニッツォーロのトレック・セガフレード、ナセル・ブアニのコフィディスソリュシオンクレディが、それぞれに人員を集団前方へと派遣した。残り95kmで一気に差を2分半ほどに縮めると、その先は、しばらく1分半から2分半ほどの間を保ち続けた。
ステージも残り45kmを切ると、プロトンは次第に緊張感で満たされれていく。総合系チームがこぞって集団前方へと競り上がったせいだ。しかも残り41.7km地点には、中間ポイントが待っていた。すなわちメイン集団にも3位通過=ボーナスタイム1秒の権利が残されており、まさしく総合首位イェーツと2位アレハンドロ・バルベルデの差が1秒だから……なにやら激しい争いが期待された。
が、結局は、2人の間ではスプリントは繰り広げられなかった。代わりにロットNL・ユンボが小さな隊列を組み、総合10位ジョージ・ベネットが3位通過を果たした。つまり休息日前夜は総合トップ10が48秒以内にひしめき合っていたが、ここから先は、47秒以内にぎゅうぎゅう詰めの状態となる。
すでに上がりきったスピードは、もはや下がることはなかった。しかもボーラ・ハンスグローエが、今ステージ唯一の3級峠へ大急ぎで突っ込んでいった。スプリンターたちを疲れさせ、振り払おうと、クライマーを使って高速テンポを刻んだ。「実はかなり苦しめられた」とフィニッシュ後に告白したヴィヴィアーニは、アシストたちの助けを得てなんとかしがみついた。
なによりエスケープとの距離はまたたく間に縮まった。山頂まで約1.5km、2人の逃げには終止符が打たれた。
ちなみに山頂ではバルベルデがちゃっかり先頭通過を果たしている。山岳ポイントを合計6ptに伸ばし、もちろん首位ルイス・マテマルドネスの60ptには程遠いけれど、順位自体は山岳賞15位から7位へ大幅にジャンプアップ。つまり複合賞ポイントを前区間までの18pt(総合2位+ポイント1位+山岳15位)から11pt(総合2位+ポイント2位+と山岳7位)へと減らし、白ジャージの首位の座をさらにしっかり固めたことになる。
30kmを残して、集団は早くもひとつになった。残り22km、ディエゴ・ルビオがひとり飛び出したが、苦しい独走を強いられただけだった。しかも先頭で奮闘する姿さえ、テレビの前のファンたちに披露できたわけではない。総合上位選手たちが次々とメカトラに見舞われたからだ。
総合16位ティボー・ピノを皮切りに、総合3位ナイロ・キンタナ、総合14位ウィルコ・ケルデルマンがパンクの犠牲となった。赤ジャージのサイモン・イェーツも例外ではなかった。しかも2回!
「コース脇のなにかにぶつかってしまったんだと思う。2回もパンクしてしまった。だからちょっと神経質にもなったけど、僕らは上手くコントロールすることが出来た」(サイモン・イェーツ)
幸いにも全ての総合系選手はすぐに集団復帰を果たし、ルビオは抵抗むなしくフィニッシュ手前9kmで吸収された。いよいよ本当の意味でひとつになったプロトンは、フィニッシュまで続く長い直線で、熾烈な先頭争いを繰り広げた。そして残り2.5km、ついにクイックステップ列車が最前列を奪った。
「僕らは世界一の列車を持っているはずなのに、ここまで2区間で上手くスプリントができなかった。だから昨日も今朝も、その時の失敗ビデオを何度も見直した。同じミスを2度と繰り返さぬために」(ヴィヴィアーニ)
出遅れて3位に泣いた第6ステージと、「スプリントするポジションにさえつけなかった」第8ステージの失敗を糧に、この日のウルフパックはいつも以上に頑強な列車を走らせた。残り2kmで4人、1.2kmでもいまだ3人のアシストが、ヴィヴィアーニを全力で牽引していた。
ボーラも指をくわえて眺めていたわけではない。早い時点からサガンはヴィヴィアーニの後輪にぴたり張り付いた。残り1kmではルーカス・ペストルベルガーが列車を撹乱しにかかった。昨年のジロ第1ステージでも見せたようにーーそしてそのまま勝ってしまったようにーー、自慢の脚で前方へと飛び出したのだ。
ただし冷静に、ミケル・モルコフが邪魔者を追い落とした。そのまま残り300mまで先頭で突進を続けると、最終発射台ファビオ・サバティーニに後を引き継いだ。……実は例の第6ステージは、モルコフが最終発射台役を、少々体調が悪かったサバティーニが1つ前の車両を務めていた。いつもと逆の順番だったせいで、連携や判断に狂いがでてしまったのだという。
「ミケルがどこで前に出るべきかを決める。それでサバにとってのタイミングが決まるし、ひいては僕にとってのタイミングも決まる。理想は僕をできるだけラインの近くで発射すること。今日はフィニッシュまで150から170mくらいでスプリントを始めた」(ヴィヴィアーニ)
実際は130mまでサバティーニの背後に留まり続けた。それからイタリアチャンピオンは一瞬でトップスピードに乗ると、圧倒的な勝利を手に入れた。サガンは後輪から動くことさえできず、ニッツォーロには追い上げるだけの距離が残っていなかった。
ヴィヴィアーニにとっては第3ステージに続く今大会2勝目。この日は英国でチームメートのジュリアン・アラフィリップも区間勝利を勝ち取っているから、つまりヴィヴィアーニの勝利は、所属チームのクイックステップにとってはシーズン通算60勝目となった!
「今季屈指のスプリントができた。もしかしたらこれがベストかも。グランツールで区間勝利を量産することをずっと夢見てきた。これにてジロ5勝にブエルタ2勝。この先もこのスプリント列車に乗って勝ち続けたい。まだスプリントステージは3つ残っているし、なにより最終日マドリードで勝ちたい」(ヴィヴィアーニ)
サガンは今大会3回目の区間2位に「まあこんなもんさ」と肩をすくめつつ、見慣れた緑のジャージに袖を通した。ツールでは過去6回持ち帰ってきたポイント賞だが、「ツールと違ってブエルタは山も平地もポイント配分が同じだからなぁ……」と、ブエルタのジャージ保守に関しては消極的。2位バルベルデとの差はわずか2ptしかない。
もちろん2位バルベルデとのわずか1秒差をきっちり守って、サイモン・イェーツは2回目のマイヨ・ロホ表彰式へ臨んだ。しかも翌日第11ステージのフィニッシュ地は、2年前に自らが生まれて初めてのグランツール区間勝利を手に入れた場所だ。「あのときと同じように、きっと道はうねうねして、厳しいステージになるんだろう」と語りつつ、こちらは「どれだけ僕がレッドジャージを守り続けられるか見ていこうじゃないか」と意欲に満ちている。
残り約42km地点で落車したシモーネ・ペティッリは、頭部を強く打ち付けて即時リタイアを余儀なくされた。脳震盪で一時意識を失うも、救急車の中で意識を取り戻したとのこと。歯を数本折り、左眉の下を深く切り縫合手術を受けたが、当夜のうちに退院を許された。この朝にはダニエル・マーティンが夫人の出産に立ち会うために自宅へ帰っており、UAEの総合エース、ファビオ・アルは一気に2人のアシストを失ったことになる。
宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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