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2018年大会最後の難関山岳ステージで、あらゆる総合順位を、あらゆるジャージを懸けた熾烈で過酷な戦いが繰り広げられた。アスパン、トゥルマレ、そしてオービスクというツール常連の伝統峠が、今年もまた素晴らしき戦いの証人となった。
勝者は4人。区間を制し、総合表彰台に昇格したプリモシュ・ログリッチェ、マイヨ・ジョーヌを余裕で守り切ったゲラント・トーマス、山岳賞を(数字の上で)確定したジュリアン・アラフィリップ、そして満身創痍ながら制限タイム内でフィニッシュしたマイヨ・ヴェールのペーター・サガン。ただ翌ステージの個人タイムトライアルを終えるまで……パリ・シャンゼリゼのフィニッシュラインを越えるまで、4人の最終位置は確定しない。
この夏の巡礼も終わりが近づいてきた。病気や負傷を治癒する不思議な力を持つという、そんなルルドの奇跡の泉から、今大会最後の「直接」対決は走り出した。息の詰まるような、ひどく蒸し暑い午後だった。
アラフィリップはマイヨ・ア・ポワを手に入れるための最後の逃げを打った。スタート直後に3人、その後3人、さらに6人、ついでにもう6人……と少しずつ大きくなっていった先頭集団に、山岳ジャージもするりと滑り込んだ。
ちょっぴり心配だったのは、山岳賞2位ワレン・バルギルもまた、逃げに乗ったこと。すでに67ptものリードをつけていたし、今区間は最大でも72ptしか収集できないから……勝負は終わったも同然だった。スタート前にはバルギルも「もはや山岳は狙わない。区間一本に絞る」と宣言していた。それでもアラフィリップは、最大級の警戒を解かなかった。やはり前集団に入ったチームメートのボブ・ユンゲルスの助けも得て、1級アスパン峠で見事な先頭通過を果たす。
そしてこの瞬間に、数字の上で、アラフィリップの山岳賞が確定した。2位との差は69ptに開き、残り3峠を全部独り占めしても65ptだから……、あとは最後まで走り切るだけでよかった。ただ赤玉の価値をさらに引き上げるため、最後にもうちょっとだけ頑張った。ツール屈指の伝統峠トゥルマレを先頭で通過し、ツール第2代開催委員長の名を冠したジャック・ゴデ賞を獲得するために。
「まだ終わってはいない。ツールはパリで終わるんだ。山岳ジャージのために戦えたこと、守り切れるだけの脚があったことに、本当に満足している。トゥルマレを先頭で越えた瞬間は、すごくスペシャルだった。きっと一生忘れないだろう」(アラフィリップ、ミックスゾーンインタビューより)
しかもアラフィリップは、その後はユンゲルスのために熱心に働いた。「同じ日に自分のジャージ決定と親友の区間勝利が重なれば、これほど嬉しいことはない……」と考えたから。次の2級ボルデール峠の麓まで精力的に先頭を引き、そこでようやく仕事を終えた。
このユンゲルスの存在が、どうやらメイン集団内の一部チームの気に障った。総合13位のルクセンブルク選手を逃がすまいと、特に総合12位イルヌール・ザカリン擁するチームカチューシャ・アルペシンが追走に着手した。一時は4分ほどついたタイム差も、少しずつ縮まっていく。
そしてトゥルマレの、山頂まで約10km手前で、ザカリンがアタックに転じた。総合7位ミケル・ランダはすぐに反応し、直後には8位ロマン・バルデも賭けに乗った。さらに遅れてラファル・マイカも追いついてくると、4人は先を急いだ。あらかじめ逃げていた2人のモビスターアシスト役も、1人ずつ牽引役に馳せ参じた。下りで逃げ集団に合流すると、続く2級ボルデール峠へと、マイヨ・ジョーヌ集団に3分半近いリードをつけて上り始めた。
総合順位の最も高いランダが暫定2位に、バルデが暫定3位に浮上したことで、慌てたのがチームロットNL・ユンボだ。チームスカイのあくまで淡々とした姿勢にしびれを切らし、猛烈な牽引を始めた。総合4位ログリッチェの立場を守るため、特にベテランのロベルト・ヘーシンクが前を引っ張った。約10kmにも渡る必死の努力の甲斐あり、ついにフィニッシュまで45kmを残して、ランダを暫定5位にまで引きずりおろした。
やはりロットNLの、総合6位ステフェン・クライスヴァイクがさりげなく前へ飛び出したのは、今大会最終峠の超級オービスクの山道だった。その直後、マイヨ・ジョーヌや総合表彰台を懸けた、最後の直接対決が勃発する。残り34kmから、総合2位トム・デュムランが2度、強烈なアタックを打ったのだ。1発目で総合5位ナイロ・キンタナが脱落し――前日の落車で体を痛めていた――、2発目ではトーマスとログリッチェだけがぴたり張り付いた。一方で総合3位クリス・フルームは少し脱落しかけた。驚異の21歳エガン・ベルナルが、冷静にライバルたちの元まで引き上げた。
次に仕掛けたのはログリッチェだ。残り32km地点で力強い加速を切った。こちらも2度畳みかけた。1度目はフルームには真っ先に追いかけるだけの元気があったが、ほんの数百メートル先の2度目で、ディフェンディングチャンピオンは無残にも置き去りにされた。ただデュムランとトーマスだけが、危なげなくついてきた。
背後の存在などまるで気にならないかのように、ログリッチェは加速を続けた。少し先を行く先輩チームメートのクライスヴァイクに合流した後も、自らが積極的に引っ張った。ライバルに先頭交代なんて要求しなかった。ほぼ5kmにも渡って、驚異的な毅然さで、ひたすら前進した。
「総合表彰台のことなんて考えなかった。ただ区間勝利しか狙っていなかった」(ログリッチェ、公式記者会見より)
つまり総合で自らの16秒上を行くフルームからタイムを奪うだけでなく、むしろあらゆるすべてのライバルを突き放す必要があった。この時点で約45秒前を走るランダ集団に、追いつかねばならなかった。だからオービスク中腹の短い下りゾーンを利用して、改めてフルームが追いついてきたからといって、他人との駆け引きに明け暮れるつもりなどなかった。
「チームの目標は積極的にレースを作ること。僕らは常にステージ優勝を狙って走ってきた。そして今日、まさしくそんなレースができた。2人でアタックを何度も打った。プリモシュは上りで抜け出せなかったけれど、下りですごく上手くやった」(クライスヴァイク、フィニッシュ後インタビューより)
ついに山頂まで2km、ランダやバルデの集団を捕らえた。吸収直前にはマイカが飛び出した。しかし、むしろロットNLが、またしても力強いアタックを試みる。今回もクライスヴァイク→ログリッチェの順に攻撃に転じた。
ログリッチェはこの時も迷いなく踏み続けた。厚い雲の上に突き出す山頂を越え、テクニカルなダウンヒルに入ると、霧の中を恐れず突き進んだ。すぐに、ほんの少しだけ、ライバルとの間に空白ができた。さらに残り8km地点の、市街地を貫くゾーンでペダルを数踏みすると、勢いはますます増した。
「こういったタイプの下りは、ほんのちょっとでも差がつくと、穴を埋めるのはひどく難しくなる。僕が下り始めた時、すぐに小さな差をつけられた。だから努力を続けた。しかも残り5kmでタイム差が10秒に開いたと無線で知らされたから、ラインまで全力を振り絞ったんだ」(ログリッチェ、公式記者会見より)
得意のタイムトライアルポジションを崩し、ようやく脚を緩めたのは、フィニッシュラインのわずか20m手前だった。それから両腕を悠々と天に上げた。表彰台では得意のテレマークポーズを披露した元スキージャンパーは、1年前の夏には、スロベニア人として史上初めてツールの区間勝利を手に入れた。今年はスロベニア人として史上初のツール表彰台へと王手をかけた。後続集団をペダルで19秒突き放し、もちろん区間首位のご褒美であるボーナスタイム10秒を収集。つまりフルームに対する16秒の遅れを、13秒リードへとひっくり返した。しかも総合2位デュムランとの差も19秒に詰めた!
「チームは素晴らしい仕事をしてくれたし、最後には最高の結末を迎えられた。明日は表彰台のことは考えない。自分のことだけに集中する。ただ自分自身を誇りに思えるような、そんなタイムトライアルの走りを実現したい。その結果にまつわる数字にはこだわらない。だって今日の結果だけで、僕のツールはすでに大成功なんだから」(ログリッチェ、公式記者会見より)
19秒後に雪崩れ込んできた7人の集団内では、マイヨ・ジョーヌのトーマスがスプリントを制した。「積極的にレースを作った」ログリッチェとは対照的に、ひたすらデュムランから目を離さず、極めて守備的な走りを見せた。ただ終わりにボーナスタイムを6秒積み重ねることは忘れなかった。
「うん、僕らにとって最大の脅威は、デュムランだったから。ログリッチェもすごく強かったけど、むしろ彼の存在は、デュムランにプレッシャーをかける役割を果たしてくれた。だってデュムランは僕に対するアタックを狙いつつも、ログリッチェに対しての警戒も解くことができなかったからね。これは僕にとっては有利だった。常にデュムランの背後に控えて、彼にログリッチェとの差を詰める作業をやらせておいた」(ゲラント、公式記者会見より)
区間3位のボーナスタイムを取ったバルデや、望んでもいない敢闘賞を授与されたランダ、さらには7人の集団から12秒遅れで終えたザカリンは、失意を隠せなかった。ただしフィニッシュエリアで最も不機嫌な表情を見せたのは、デュムランだ。だって絶好調のトーマスはもちろん、苦しみ喘ぎながらも常にしがみついてきたフルームさえ突き放せなかった。なによりログリッチェの下りアタックに……どうにも納得できないようだ。
「今日はログリッチェが最強だったし、彼は飛ぶように下った。それは認める。でもログリッチェはオートバイの背後を利用して加速した。そして平地で僕を引きちぎった。阿保らしいよね。明日もきっと、彼には勝てないと思うよ」(デュムラン、フィニッシュ地インタビューより)
個人タイムトライアル現役世界チャンピオンの発言は、決して冗談ではない。むしろ総合上位の4人の全員に、TT区間を制する可能性がある。注目すべきは2017年世界選手権の「激坂フィニッシュ」TT結果で、1位デュムラン、2位ログリッチェ、3位フルームだった。……すると第19ステージ終了時点で総合で32秒以内にひしめく3人の順位は、全長31kmの起伏コースを走り終えた後、まったく入れ替わっている可能性がある。
肝心のマイヨ・ジョーヌは、現役英国TTチャンピオンで、トラック団体追抜では3度の世界チャンピオンと2度の五輪金メダルに輝いてきた。エリートタイムトライアリストから、山も戦えるオールラウンダーへと見事な転身を果たしたトーマスは、最後の試練にも自信を持つ。ちなみに総合2位デュムラン以下とのタイム差は2分05秒で、3位ログリッチェ2分24秒、4位フルーム2分37秒と続く。
「今夜はよく眠れるといいな。今はちょっとロンドン五輪の(団体追抜)決勝前夜のような状態だ。大切な日の前日に、プレッシャーが高まる感じ。ただ自分のここまでの走りさえあれば、明日は自信を持ってもいいはずだ。とにかく出来る限り体力回復に努めて、明日に向かうさ……」(トーマス、公式記者会見より)
黄色の行方が24時間後に決するのだとしたら、サガンはポイント上ではとっくに緑色のジャージを手にしている。しかし2日前の落車で全身傷だらけになった。レース続行さえ危ぶまれる状況にもかかわらず、6つの峠を越えるこの日は、6時間以上の苦行に耐え続けた。懸命なアシストたちに支えられながら、なんとか38分23秒遅れで完走を果たした。人生6度目のマイヨ・ヴェール最終表彰式まで、あと少しの辛抱だ。
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宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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