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ピレネー山岳3日間の合間の平地ステージを、スプリンターが制した。しかもアルプスを抜け出して以降、連日のように制限タイムとの戦いを繰り広げてきたアルノー・デマールが、ついに今大会1勝目をもぎ取った。自らに降りかかってきたあらゆる疑いや批判の目に対して、「最高の答え」を突きつけた。区間前半の集団落車でざわついた以外は、総合上位勢は何事もなく1日を終えた。翌第19ステージの、2018年大会最後の直接対決へ向けて、誰もが静かに体力温存に努めた。
フランス気象台は熱波の到来を告げ、プロトンの頭上には焼け付くような日差しが照り付けた。スタート直後に5人が飛び出すと、それにて本日の逃げは完成した。
ただしルーク・ダーブリッジ、マシュー・ヘイマン、トマ・ブダ、ギヨーム・ヴァンケイスブルク、ニキ・テルプストラの背後で、すぐにアタック合戦が収拾したわけではない。その逆だ!どうにかして逃げたい選手たちが、ひどいハイスピードで追いかけた。なにしろ山登りもタイムトライアルも、スプリントもそれほど得意ではない選手にとって……この第18ステージこそが何かをしでかす最後のチャンスだった。無数のアタックが試みられた。
膠着状態はしばらく続いた。タイム差が15秒程度で固まった状況にも、前方の5人は決して動じなかった。プロトン屈指のルーラーが揃う逃げ集団は、時速50km弱の超高速で、メイン集団と互角の引っ張り合いを続けた。ついに25kmほど走ったところで、プロトン側が戦いを放棄。ついに先行する権利を勝ち取った。
スプリンターチームはすぐにタイム差制御に乗り出した。大会に残る数少ないスプリンターたちだって、パリ・シャンゼリゼ前の最後の機会を逃すつもりはなかったのだ。5人には最大2分半ほどのリードしか与えず、後方から厳しくレースを制御した。
特に精力的に作業に励んだのがグルパマ・エフデジだった。同区間スタート時に、いまだステージ勝利を手にしていないチームは全部で13。そのひとつがフレンチナンバーワンスプリンターの呼び声高いアルノー・デマール擁するエフデジで、第13ステージは本人によれば「完璧なスプリント」を切ったものの、区間3位に泣いていた。
しかもその翌日から、デマールの受難は始まった。第14ステージではマンドの激坂を最下位で上り切った。ピレネー初日の第16ステージもまた、ビリだった。しかも1つ前に走り終えた選手より、10分も遅れてフィニッシュ地にたどり着いた。第17ステージはブービー賞。65kmの戦いで、実に29分16秒もの遅れを喫した。
「僕が山を得意としていないことは、チームのみんなが理解している。去年タイムアウトで失格になった経験から、今年は山での走り方の改善に取り組んだ。おかげで今年たくさんのスプリンターが大会を去ったにも関わらず、僕は今でもここにいる。それに奇妙に思うかもしれないけど、たとえば昨日は脚が絶好調だったんだ……。もちろん山を走るのは簡単ではないけど、調子は良かったし、最後まで戦い抜くことができた」(デマール、公式記者会見より)
見返してやりたい、そんな気持ちも大きかった。第12ステージで大会を去ったアンドレ・グライペルが、第17ステージ後、「だれかグルパマとデマールに、ツールがGPSトラッキングシステムを使用していることを教えてあげた方がいいよ」なんていう皮肉めいたツイートを投稿したのだ。これにデマールは「審判団は常時僕らの周りを走っていたんだよ。君に僕のデータを送るね。君はエキスパートみたいだから、これをみてどう思うのか教えて欲しいな……」と反論。すぐにグライペルからは謝罪ツイートが投稿されたが、勝利後の記者会見でデマールは「すごく傷ついた」と告白した。
「すごく動揺もした。自分の走りに疑惑をかけられたことが残念だった。人々の口を閉じることはできない。批判や嫉妬はどこにでもある。でも僕は自分自身の脚で戦い通したし、決して諦めなかった。この山を越えれば、きっと僕にも勝利のチャンスがやってくるんだ、と信じ続けた。ただ両手を上げることだけを考えた」(デマール、公式記者会見より)
エフデジだけでなく、UAEチームエミレーツやコフィディス、ソリュシオンクレディもコントロールに励んだ集団内では、ステージ前半に集団落車が発生した。10人ほどの選手が巻き込まれ、前ステージを制したナイロ・キンタナも左半身から地面に落ちた。自転車とジャージを交換してすぐに走り出すと、無事に先頭集団内で1日を終えている。
スプリンターチームの「タイム差制御」は、残り40kmを切ると、いよいよ「追走」へと切り替わった。メイン集団の加速を察知すると、逃げ集団もまたスピードを上げた。しかし長い直線道路が続くコースで、徐々に、確実に、5人のマージンは減っていく。そして残り18.5km地点の4級山岳上りを利用して、後方からアタックがかかると、長い逃げに終止符が打たれた。
ダニエル・マーティンもすかさず飛び乗ったアタックもまた、すぐに勢いを削がれた。理由は単純。前方に飛び出した7人のうち、4人がエフデジだったから!
力づくでアタックを潰したエフデジは、そのまま集団最前列で牽引へと乗り出した。UAEやコフィディスに交じって、ボーラ・ハンスグローエも前線へと積極的な位置取りをした。前日のひどい落車で満身創痍のペーター・サガンは、「この先は完走することだけを考える」なんて柄にも合わない発言をしていたはずだが……。
「今日は常に体が痛んだ。でも思っていたほどには痛まなかったんだ。あれほど酷い落車にもかかわらず、こうしてレースを続けていられることが嬉しい。自分はつくづく強運の持ち主だと思う」(サガン、TVインタビューより)
ラスト5kmのロータリーやカーブの連続では、あらゆるスプリンターチームが激しくポジションを競い合った。数百メートル単位で先頭の顔ぶれが入れ替わり、リーダーとアシストが散り散りになるチームも多かった。エフデジ列車も一時は路頭に迷った。しかし残り600mの最終カーブを抜け出ると、最終発射台ジャコポ・グアルニエーリがデマールを背負って、好位置へ滑り込んだ。さらにフィニッシュライン手前350mで最前列に躍り出ると、残り200mでエースを解き放った。
「完璧なスプリントだった。最終盤にはたくさん横槍りを入れられたし、チームメートを見失ったこともあった。でも最高のタイミングで、発射台の後輪に戻ることができた。フィニッシュのコースをあらかじめ分析していたし、チームもすごくすごく強かった。1日中とてつもない仕事をしてくれた。最高に素敵なご褒美だ。本当に僕にとっては理想のスプリントが切れた」(デマール、公式記者会見より)
……デマールにとっては理想形でも、2位に泣いたクリストフ・ラポルトの心は不満と失望でいっぱいになった。「フェンス際で始まったスプリントが、真ん中で終わった」(フィニッシュ地インタビューより)と、ちょっぴり斜行気味だったデマールのスプリントを批判した。チームマネージャーのセドリック・ヴァッスールも、「あれがブアニだったら降格されていただろうけどね」とチクリ。ちなみにナセル・ブアニの元発射台にして、今年エーススプリンターに昇格したばかりのラポルトにとっては、ツールで初めての区間トップ3入りだった。
クリス・フルームの元アシストで、今やマイヨ・ジョーヌをしっかり着込んでいるゲラント・トーマスは、ノーストレスで平地の1日を終えた。ピレネーの巨大伝統峠が舞台の「最終直接バトル」を前にしても、いつも通りにクールでフラットな表情なまま、まるで緊張や不安を感じさせない。
「僕にとっては『真のチームリーダー』として過ごす初めてのステージだった。でも実のところ、僕自身は、大した変化を感じなかった。明日もチームはこれまでと変わらぬ走りをするだけ。明日に関しても自信はある。もしかしたらライバルの中で大逃げを試みる選手も現れるかもしれない。トゥルマレやオービスくの上りは、間違いなく攻撃で大いに活気付くだろう。願わくばフルーミーを使わずとも済む状況であって欲しいけど……フルーミーを僕のアシストとして使えるというのは、とんでもないことだよね」(トーマス、公式記者会見より)
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宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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