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サイクル ロードレース コラム 2018年7月26日

ツール・ド・フランス2018 第17ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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ツール・ド・フランスを4度制覇し、昨夏からグランツール3大会連続でリーダージャージを勝ち取ってきた現役最高のグランツールチャンピオンが、最終峠の山頂まで2kmで、周囲の加速についていけなくなった。マイヨ・ジョーヌを身にまとうチームメートは前へ遠ざかっていき、クリス・フルームはただ霧の中で喘ぎ苦しんだ。かつて最大のライバルと謳われたナイロ・キンタナが区間を制し、ずっとアシスト役を務めてきたゲラント・トーマスは、ついに自らがチームリーダーと呼ばれるべきポジションにあることを認めた。

65kmというありえないほど短いステージは、スタート前からすでに過熱していた。出走は午後15時過ぎだというのに、午前中には、チームスカイは前日の最終峠へ練習に出かけた。チームバスの周りにはずらりとローラー台が並び、実際のルート上でウォームアップに励む選手も多かった。

なによりスタート地の道路には前代未聞のスタートグリッドが描かれた。最前列ポールポジションにはマイヨ・ジョーヌのゲラント・トーマス。左右後ろには総合2位フルームと3位トム・デュムランを従えた。そしてスタートシグナルが赤から青に変わった瞬間に、146人のプロトンはいきなり本スタートを切った。

……ただ、悲しいかな、開催委員会の思惑通りにはいかなかった。自転車特有の構造が弾丸スタートの邪魔をしたのかもしれない。たとえばフェンス側の場所を用意されたプリモシュ・ログリッチェは両足をしっかりペダルに乗せていたけれど、大部分の選手は信号が青になってからよいしょっとシューズのクリートをペダルにはめて、それからよろよろと走り始めたのだ。

しかも総合順位に従って5グループに分けられていたはずのプロトンは、あっという間に普通のプロトンになった。さんざん事前に煽られていたような、ゼロkm地点から総合表彰台争いが勃発することもなかった。真っ先に飛び出したのは第2グループに所属していたリリアン・カルメジャーヌで、真っ先に先頭を走り出したのもやはり、第2グループのタネル・カンゲルトだった。

「ゼロkm地点でアタックした。ちょっとタイムトライアルを思わせるような、なにかをしでかす準備は出来ていた。第1峠の山頂は単独で越えた。その後に2選手に追いつかれ、第2峠の山頂は一緒に越えた。第3峠はまた僕ひとりになった」(カンゲルト、ミックスゾーンインタビューより)

つまりエストニアのクライマーは長時間ひとりで先を走った。背後からはたくさんの選手が追いかけてきたし、時には追いついてきた選手だっていた。その筆頭がジュリアン・アラフィリップで、前ステージ逃げ切り優勝の疲れなどまるで感じさせず、山岳ポイントの収集に励んだ。

「今日はまったくダメか、それともすごくイイか、そのどちらかしかないだろうと思っていた。実際に走り出してみたら調子は最高だった。だったら最初の山岳だけでも先頭通過を狙おうと考えた。でも残念ながら2位通過で……まあ脚も良く動いていたし、だからもう少し先を続けることにしたんだ」(アラフィリップ、TVインタビューより)

第2峠でまんまと目標を達成し、アラフィリップは新たに山岳18ptを加えた。パリ到着まであと4日に迫る中、少なくともあと2日は赤玉ジャージを身にまとう権利を手に入れると、3つ目の超級ポルテ峠の入り口で自ら脚を緩めた。ひとりで走り出したカンゲルトは、またしてもひとりになった。ただ無念にも、最後までひとり先頭を貫くことは出来なかった。通常ステージとしてはたしかに短すぎる距離だったけれど、タイムトライアルとしては、おそらくちょっと長すぎた。

なにより総合表彰台候補が、第2峠で動き始めた。いつも通りに隊列を組むチームスカイから、Ag2rが主導権を奪い取った。新人賞ジャージ姿のピエール・ラトゥールが、ロマン・バルデのために強烈なスピードアップを敢行した。ずっと逃げていたマルク・ソレルが前方で待っていてくれたおかげで、モビスターもとてつもない牽引へと乗り出した。今春パリ~ニースを制した24歳は、上りだけでなく、下りでも積極的に突進を続けた。

きっかけは、ライバルが作ってくれた。第3峠、すなわち最終ポルテ峠の上りへと突入した直後、総合10位に沈むダニエル・マーティンが強烈なアタックをかける。するとここまでチームメートからの力強い支援を得てきたキンタナも、素早く前に飛び出した。総合ライバルたちには一瞬で距離を開けた。自らに契機をくれたマーティンさえも、あっさりと振り払った。

「チームは完璧な仕事を成し遂げた。ソレルはとてつもない牽引を行って、マイヨ・ジョーヌ集団のライバルたちを苦しめた。一旦アタックした後は、バルベルデが僕を大いに助けてくれた。彼の存在こそが、この勝利には欠かせなかった」(キンタナ、公式記者会見より)

第1峠から逃げ続けていたアレハンドロ・バルベルデは、最後の力を振り絞って、ちょうど10歳年下のリーダーを前方へと引っ張り上げた。最後の10kmに入ると、いよいよ自分ひとりの力で戦うべき時が来た。やはり序盤から逃げていたラファル・マイカが後輪に張り付いていたが、「タイムトライアルのように後ろなんて振り向かず」に、ただ自らのペースで上り続けた。残り8.5kmでカンゲルトを先頭から引きずり降ろし、残り6.5kmではついにマイカも振り払った。

「このステージにはずっと狙いをつけていたし、万全の準備も積んできた。最初の2つの峠はすでにレースで登坂経験があったし、3つ目の峠はルート発表の直後に下見に訪れた。これが極めて重要だった。勝利の可能性が見えてきた時に、下見の経験が、自信を与えてくれた」(キンタナ、公式記者会見より)

大会初日のパンクでいきなり1分50秒近く失い、アルプス2日目に約1分、3日目にさらに約50秒を落としたキンタナは、総合4分23秒遅れの8位と苦しんできた。グランツール総合2勝のキンタナを筆頭に、ミケル・ランダとバルベルデという3本柱でツールに乗り込んだモビスターもまた、総合争いに旋風を巻き起こすことができずにいた。

「この勝利が僕らチームに再び希望と自信を与えてくれる。僕個人は平静な精神状態を取り戻すことができたし、ツールの総合争いに踏みとどまることもできた。さすがにパリで頂点に立つのは難しいと思うけど、さらなる厳しいレースをライバルたちに強いていくつもり」(キンタナ、公式記者会見より)

ステージ終了後、キンタナは3分30秒差の総合5位に浮上した。またキンタナが飛び立った後も単独で山頂を目指したマーティンは、総合タイム差を6分54秒から6分33秒と、わずかながら詰めることに成功している。

ツール史上ピレネー最高標高地点2215mの山頂を誇るポルテ峠は、マイヨ・ジョーヌと上位3つの席を巡る大激戦をも、見事に演出してみせた。全長16kmの山道をほんの2kmほど上った、勾配10%超ゾーンで、その戦いは勃発した。ログリッチェが、強烈なアタックを仕掛けたのだ!

後輪にはすかさずフルームが飛び乗った。総合4位の危険人物の加速に、総合2位に甘んじる王者はひたすら背中に張り付いた。距離を縮めに動いたのは総合3位トム・デュムランだった。マイヨ・ジョーヌ以下を背負って猛烈に前進すると、まんまと穴をふさいだ。

残り3kmのアーチの下で、ログリッチェは2度目の強烈なアタックをお見舞いする。ここで後輪に飛び乗ったのはトーマスだった。今度はデュムランもすぐに反応した。ただ、そこでちょっと後ろを振り返った彼らの瞳には、フルームが少々遅れる姿が飛び込んできたに違いない。この時はすぐにライバルたちに合流を果たしたが……。

「フルームが苦しんでいるのが見えた。でもあれが『はったり』かどうか確信がなかった。だからアタックする前にちょっとだけ時間を置いてみた」(デュムラン、フィニッシュ地インタビューより)

そしてフィニッシュ手前2km、満を持してデュムランは加速を切った。これがフルームの息の根を止めた。ただ「僕もすでにへとへと」だったせいか、トーマスとログリッチェを突き放すことは出来なかった。残り1.5kmではログリッチェも再度スピードアップを敢行するも、やはり「フルームからしかタイムは奪えなかった」(フィニッシュ地インタビューより)。トーマス、デュムラン、ログリッチェはにらみ合いもつれ合いの三つ巴で、フラムルージュをくぐった。

三者の均衡はラスト500mで崩れた。区間2連勝時にすでに俊足っぷりを披露したマイヨ・ジョーヌが、この日も標高2215mの山頂へ向かってロングスプリントを仕掛けた。ほんの5秒ながらライバル2人を突き放し、さらには区間3位のボーナスタイム4秒をも手に入れた。

「今日はあまりリスクを冒したくなかったんだ。だから最後の加速に転じるタイミングは、出来る限り遅くした。ログリッチェとデュムランの加速にはひたすらついていくだけでよかったし、最終的には彼らから小さなタイム差を奪うことさえできた。ボーナスタイムは、まさに僕にとってのボーナスだよ」(トーマス、公式記者会見より)

チームスカイ第2のエース、いや、かつては自らのアシスト役を務めてくれたトーマスが圧倒的な力を誇示した48秒後、フルームは苦しい1日を終えた。

小さな山頂のごった返したフィニッシュエリアでは、勝者たちが表彰台裏にすぐさま連行され、その場でローラー台を回すデュムランにたくさんの記者が群がる中で、ディフェンディングチャンピオンはラインを通過した直後に回れ右。防寒用の黒いウィンドブレーカーをさっと羽織ると、記者やファンが声をかける間もなく、たった今上ってきたばかりのポルテ峠を下っていった。

その下り最中には、コース警備中の警察に、一般のファンと勘違いされて地面に引きずりおろされるというハプニングも起こった。ただチームバスにたどり着いたフルームは、これ以上ないほどの笑顔で、丁寧に記者対応を行った。

「とても厳しく、濃密な1日だった。でも僕に後悔はない。ゲラントは本当に素晴らしい走りをしたし、マイヨ・ジョーヌにふさわしい選手だ。彼がパリまでジャージを守り切れるよう、心から願ってる」(フルーム、TVインタビューより)

トーマスは総合2位以下とのタイム差を1分59秒差に開き、今大会7枚目のマイヨ・ジョーヌを受け取った。「僕はフルームと戦っているのではなく、あくまでも自分と闘っているんだ」と、5月のジロでも何度も繰り返したセリフを改めて口にしたデュムランは、そのフルームを抜いて総合2位に浮上した。フルームのトーマスに対する遅れは2分31秒に広がり、総合4位ログリッチェは人生初のグランツール表彰台までの距離を48秒差から16秒差へと一気に縮めた。総合5位につけていたロマン・バルデは、最終峠に低血糖で苦しみ、総合8位へと一気に陥落した。

「うん、ここから先は、チームメート全員から、完全なるサポートを受けられるだろう。ただ前にも言ったように、僕ら2人は嘘偽りない関係を保っている。フルームの調子が悪いからって、彼に対してアタックをかけるなんてありえない。僕らは良き友達で、オープンな関係なんだ。ウィギンスとフルームのいざこざがあった後だから、なかなか信じてはもらえないかもしれないけど……」(トーマス、公式記者会見より)

数日前からトーマスは「フルームと僕とが互いに対して攻撃を仕掛けることはない」と幾度となく断言している。つまりフルームにとって、史上5人目の「5勝クラブ入り」と、史上2人目の「4グランツール大会総合優勝」の可能性はもはや極めて小さくなった。だって2018年ジロ第19ステージで見せたような大胆な逃げで状況を完全にひっくり返す戦法は、絶対に使うことはできないのだ。たとえば第19ステージの今大会最後の難関山岳ステージで、トーマスがあり得ないほどのひどいバッドデーに襲われるか、翌第20ステージの個人タイムトライアルで、自らが全てを凌駕するほどの素晴らしい走りを実現させるか。ほぼそれだけだ。

出走と同時にぽろぽろと集団から脱落していったスプリンターたちも、なんとか全員無事に65kmを走り切った。激しい落車の犠牲となり、傷だらけ、血だらけになりながらも、マイヨ・ヴェールのピーター・サガンもフィニッシュにたどり着いた。レントゲンの結果、幸いにも骨折等はなかった。本人もパリまで走り続けることを宣言している。

☐ ツール・ド・フランス 2018
ツール・ド・フランス2018 7月7日(土)~7月29日(日)
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宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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