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これぞ黄金パターン。1度目の休息日明けの、アルプス初日の下りフィニッシュで、21人の大きな逃げに乗ったジュリアン・アラフィリップは独走勝利を勝ち取った。そして2度目の休息日明けの、ピレネー初日の下りフィニッシュで、47人の巨大な逃げに乗ったアラフィリップが、興奮に沸くフィニッシュラインへひとりで姿を現した。「パリまで守れなくても失望はしないけれど」と改めて繰り返しつつも、パリ到着まで5日、改めて山岳ジャージもしっかりと着込んだ。
カルカッソンヌでの骨休めを終えた148人のプロトンは、ピレネーへ向かって猛スピードで走り出した。誰かが飛び出しては、すぐに他の誰かが吸収に向かった。いつまでたっても正式な逃げ集団が出来上がらぬまま、序盤2時間を時速47.7kmというとてつもないハイスピードで突っ走った。
……ただし17分間の中断を除く。走り出して30kmほどの地点だった。地元の農業団体が、干し草の束や羊の群れを使って、レース妨害を試みたのだ。警察によってデモ隊は排除された。ただ、その時に使用された催涙ガスが、風向きのせいでプロトンのほうに流れてしまった。おかげで目の痛みを訴える選手が続出する。開催委員会はレースを一旦停止し、治療のために時間を割いた。
「自転車レースとは競技場のないスポーツである。サッカーやテニスとは違い、戦いの場は『公道』しかない。その場所を封鎖するということは、選手たちの仕事場を奪うということ。仕事の環境改善を求めてデモを行うなら、選手たちの仕事も、同じようにリスペクトして欲しい」(大会開催委員長クリスティアン・プリュドム、TVインタビューより)
再び走り出したプロトンは、まるで何事もなかったかのように、再び猛烈なアタック合戦を繰り広げた。延々100kmもの試みの果てに、ついには大きな逃げ集団が飛び出した。その数なんと47人!
「プロトンの3分の1が逃げ出したということは、つまりそれ以上の人数がアタックを繰り返したわけだから……最初の100kmはとてつもなくコントロールが大変だった。でも逃げが遠ざかってからは、チーム一丸となって上手く制御ができた。特に翌日に向けて、上手く体力を温存できたと思う」(ミカル・クヴィアトコウスキー、フィニッシュ地インタビューより)
逃げが出来上がるずっと前から、アラフィリップとワレン・バルギルの山岳争いは始まっていた。最初の4級峠はバルギルが取り、2つ目の4級峠でアラフィリップが取り返した。47人のエスケープには、すでに今大会何度も見られてきたように、バルギルは4人のアシストを引き連れて乗り込んだ。チームフォルテュネオ・サムシックがせっせと牽引作業に励む一方で、クイックステップフロアーズはアラフィリップ以外は1人しか滑り込めなかった。
しかし、共に逃げたのは、単なるその辺のアシストとは違う。経験値も実力も高く、なによりアラフィリップをまるで弟のように可愛がるフィリップ・ジルベールである。そして36歳大ベテランは、見事な戦術の一突きを成功させる。2級ポルテ・ダスペの上りで、ひとり逃げ集団から飛び出したのだ。
「マイヨ・ア・ポワ争いにちょっとしたプレッシャーをかけて、追走に力を使わせようと考えた。ジュリアンの発射台代わりでもあった。こうして振り返ってみても、戦術的にはすごく上手くいったよね!」(ジルベール、TVインタビューより)
山頂を大急ぎで先頭通過したジルベールは、ダウンヒルへも猛スピードで飛び込んだ。ところが山頂から3.5kmほど下った地点で、カーブのひとつを曲がり損ねた。そのままピレネー特有の、背の低い石垣に自転車をひっかけると、体を一回転させながら崖下へと転落してしまった……!
映像を見ていたすべての人たちが、おそらく一瞬心臓が止まりそうになるほどの衝撃を受けたに違いない。多くの関係者の脳裏には、嫌な思い出もよぎったはずだ。なにしろ23年前にファビオ・カザルテッリが落車事故で命を落とした場所――山頂から4km地点には追悼の碑が建っている――から、ほんの数百メートルしか離れていなかった。
「あれは完全なる自己責任による軌道ミスだね。落っこちた瞬間、体がバラバラに壊れてしまうかもしれない、って考えた。でも実際は、幸いにも、どこも壊れてなかった。むしろ僕を救出してくれた人たちの方が、大変な思いをしたんじゃないかな」(ジルベール、TVインタビューより)
実際には左膝蓋骨の骨折が後に判明するが……落車直後のジルベールは、すぐに立ち上がった。ニュートラルサービスのマヴィックスタッフから救出されると、大急ぎで自転車に飛び乗った。さすがに逃げ集団への再合流は試みなかったものの、チームメートの勝利から31分11秒後に無事に完走を果たした。フィニッシュ直後に大急ぎで左脚と左腕の治療を受けると、敢闘賞の表彰式へと挑んだ。
「少なくともこうしてフィニッシュまで帰ってこられてよかった!」(ジルベール、TVインタビューより)
残念ながら、救急車に乗って、ジルベールは今年のツールから永遠に去っていった。
実はバルギルも、同じ下りで落車した。それでも次の1級マンテ峠の上りでは、真っ先に加速を試みた。ただもはや他者を振り払う脚は残っていなかったし、それどころか先頭集団についていくことすら難しかった。ポルテ・ダスペ峠でジルベールに次ぎ2位通過を手にしたアラフィリップが(バルギルは3位)、元気よくマンテ峠で先頭をさらい取った一方で、バルギルはこれ以上のポイント収集はあきらめざるを得なかった。
上りで逃げ集団は小さくなり、下りで再び大きくなる。そんな繰り返しの中で、マンテ峠から下り切った先の谷間では、逃げ集団は17人に絞り込まれた。最終ポルティヨン峠の上りが開始すると、再びエスケープは小さく切り刻まれていく。
「上り5km、下り10km」と言われるポルティヨン峠の上りでは、ロベルト・ヘーシンクやドメニコ・ポッツォヴィーヴォという名うてのクライマーが威力を発揮した。祖国スペイン通過に際して、ゴルカ・イザギーレやマルク・ソレールというスペイン人たちも発奮した。山頂まで残り3km地点では、ついに6人に小さくなった先頭集団から、アダム・イェーツが単独アタックを試みた。
ただし上りも残り1kmに迫ったところで、ついに赤玉が勢いよく飛び出した。前の2峠でも、長い山道ではライバルたちにさんざん争わせておいて、山頂間際でまくる作戦を採用してきた。しかし今回はイェーツの17秒後に最終山頂を通過し、ピレネー最終峠はポイント2倍ルールに則って2位通過16ptを懐に収めた挙句に、下りへと猛スピードで飛び込んだ。
「今日の最終盤は走ったことがあったんだ。仲良しのユンゲルスと合宿を組んで、この地を下見しに来た。これが大いに役立った。テクニカルで危険な下りだと把握していたし、僕にだって落車する危険性があることは十分に承知していた」(アラフィリップ、公式記者会見より)
一方でこの日のコースを事前に下見していなかったミッチェルトン・スコットの総合エースは、雨上がりのアスファルトとヘアピンカーブ、さらにほんの十数秒背後からたっぷりプレッシャーをかけてくるアラフィリップの存在とに大いに苦しめられた。そしてフィニッシュまで6.7km、アダムは道の真ん中で地面に転倒した。すでにハプニングだらけのこの日を象徴するような、勝負の流れを変える落車だった。
「イェーツは僕の15秒前を下っていた。でも風が強くて、無線が上手く聞き取れず、彼が落車したことは知らなかった。僕が追いついた時、ちょうど彼は自転車に再び乗って発進するところだった。敵である僕さえやりきれない気分になったし、フェアプレーの精神で彼を待とうかとも思った。でもすでに100mも通り過ぎた後だったし、彼も追いついては来なかった」(アラフィリップ、公式記者会見より)
その後もアラフィリップは素晴らしいハンドル捌きを披露した。かつて同じ下りを先頭で駆け下り、同じフィニッシュ地のバニエール・リュションで2回の栄光を味わったトマ・ヴォクレールから、「下りのアーチスト」と絶賛されたほどだった。本人も「僕はプロトン最高のダウンヒラーではないけど」と前置きしつつ、「上りより下りの方が好きなんだ」と認めた。下り切った先では観客の声援を体中に浴びながら、今大会2度目の、つまり人生2度目のツールステージ優勝を手に入れた。
「まさに幸せとしか表現しようがない。今日はすごく苦しんだ。逃げが出来上がるまでにすごく時間がかかったし、ツール序盤から連日重ねてきた努力が体に疲労として蓄積されていた。だから決して100%の調子とは言い切れなかった。脚がすごく痛かった。でも逃げに乗ってみたら、他のみんなも同じ状況だったみたいだね。今大会は1つ勝つつもりで乗り込んできたけれど、2つも勝てたし、こうして山岳ジャージも着ている。どんなに苦しいステージでも喜びを感じられているし……僕にとって今回のツールは信じられないほど成功さ」(アラフィリップ、公式記者会見より)
区間勝者から8分52秒遅れで、15人の小さなマイヨ・ジョーヌ集団はステージを終えた。最終峠の上りでは総合9位ヤコブ・フグルサングや13位イルヌール・ザカリンが、下りでは6位ミケル・ランダがちょっとしたアタックを試みたが、全てはチームスカイが淡々と回収を終わらせた。
「明日に備えて、ほとんどの総合チームは動かなかった。なにしろ明日はすごく珍しいタイプのステージだからね。今日はそれほど戦術を巡らせる必要なんてなかった。単純に明日はすごく難しいし、しかも最後には今ツール最難関の山が待ち受けている。今ツールを決定づけるステージになるだろう。必ずや大きなタイム差がつく」(トーマス、公式記者会見より)
前代未聞の全長65kmの超短距離ステージは、上って下りて上って下りて上って、とただそれだけ。スタート方法も少々奇抜だ。仮スタートは存在しない。「ヨーイドン」でいきなり選手たちはレースへと放り込まれる。またプロトンは総合順に全5グループに分割され、いわゆるウェーヴスタート方式で上位グループから順番にスタートを切る。総合上位20人は、いわゆるF1風に、各選手はスタートグリッドに鎮座する。もちろんポールポジションにはマイヨ・ジョーヌのゲラント・トーマス。トップ20でも気になる表彰台候補の内訳はモビスター3人、スカイ、ロットNL、Ag2rが2人ずつ。そしてサンウェブはたったの1人。
ピュアスプリンターたちにとっては、またしても我慢の1日となりそうだ。例えば今第16ステージではスタート直後から遅れはじめ、他のあらゆる選手たちより10分近く遅れて単独最下位でフィニッシュしたアルノー・デマールは、無事に制限時間内で最後まで走り切ることが出来るだろうか。ちなみに「今日は逃げずに明日のために体力温存に努めた」とミックスゾーンでしおらしい発言をしたペーター・サガンは、この第16ステージを終えて、計算上では人生6度目のマイヨ・ヴェール獲得を確実なものとした。もちろん必須条件は、パリまで完走すること。またもしも制限タイムアウトを救済された場合には、その日のポイントが減点されるため……サガンといえども注意せねばなるまい。
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宮本 あさか
みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。
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