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サイクル ロードレース コラム 2018年7月22日

ツール・ド・フランス2018 第14ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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マンド名物10%超の激坂で、2つの戦いが繰り広げられた。前方集団では、上り口で飛び出したオマール・フライレが、独走で初のツール区間勝利をつかみ取った。はるか後方では、マイヨ・ジョーヌ候補たちが激しいバトルを展開した。総合トップ3は同タイム引き分けでフィニッシュし、ライバルの何人かは改めて数秒を失った。

風による分断で1日は始まった。ミストラルが吹き抜ける平原で、スタート直後、プロトンは散り散りになった。マイヨ・ジョーヌのゲラント・トーマスや総合2位クリス・フルームが先頭集団に踏みとどまった一方で、総合4位プリモシュ・ログリッチェや5位ロメン・バルデはあっという間に後方へと吹き飛ばされた。

幸いにも混乱はすぐに収まる。15㎞ほど走った先で32人が逃げ出すと、メイン集団に静けさが戻ったのだ。その後はチームスカイが先頭で隊列を組み、極めて淡々としたリズムを刻んだ。しかも危険人物のひとりもいない逃げ集団には、好きなようにタイム差を開かせておいた。両集団の差は一時は21分以上にも広がり、フィニッシュ時でさえ18分以上もの開きがあった。

またしてもマイヨ・ヴェールとマイヨ・ブラン・ア・ポワ・ルージュの姿が前方で見られた。区間3勝とポイント賞の228ptリードだけでは満足せず、ペーター・サガンは貪欲に逃げに飛び乗った。しかも中間ポイントを当然のように先頭通過した後も、この日は決して脚を緩めなかった。中央山塊の起伏の連続へと、勇敢に立ち向かった。

ジュリアン・アラフィリップには目的が2つあった。1つ目はもちろん山岳ポイントを最大限獲得すること。ちなみに今区間の4つの山岳では通算6ptをかき集めた。つまり少なくとも休息日明けの第16ステージまでは、可愛い赤玉姿で走ることができる。そして目的の2つ目は、自らの脚質向きの地形で、自身2つ目のステージ勝利を手にすること。

「幸運にも前集団には2人のチームメートが滑り込み、僕のためにとてつもない仕事をしてくれた。僕を信じて、大いに力を尽くしてくれた。ただ逃げ集団は人数が多すぎて、完全な協力体制は取れなかった。力を惜しまずに走る選手もいれば、最終盤に向けて体力を温存する選手もいて……。」(アラフィリップ、ミックスゾーンインタビューより)

力を惜しまずに走った代表格が、ジャスパー・ストゥイヴェンだ。ステージ後半からいよいよ中央山塊の起伏が始まると、北クラシックスペシャリストは、ゴルカ・イザギレやトムイエルト・スラフテルと共に先を急ぎ始めた。さらには残り37㎞、道がゆるやかに下り始めると、思い切ってひとりで飛び出した。

「早めに仕掛けようと決めていた。だって僕には何も失うものなんてなかったから。それに他の2人が全力を出してはくれず、このままだと思ったほどタイム差が開けないと考えたんだ。だから僕は全力で飛び出した」(ストゥイヴェン、ミックスゾーンインタビューより)

おかげで1分40秒近い余裕を持って、ストゥイヴェンは最終坂に突入した。祖国ベルギーのナショナルデーを勝利で祝うため、決して得意分野とは言えない激坂へ、先頭で登り始めた。

「最初の1㎞は、勝利を信じた。でも、もう脚には、力がまったく残っていなかった。決して諦めなかった。でも、上り最後の1㎞が、僕にとどめを刺した」(ストゥイヴェン、ミックスゾーンインタビューより)

平均10%超の勾配と、強い向かい風、そしてなによりオマール・フライレが、ストゥイヴェンの息の根を止めた。全長3㎞の坂道に入った瞬間に、追走集団内から、スペイン人クライマーは勢いよく飛び出した。単独で追走体制に入ると、がむしゃらなダンシングで観衆の垣根をかき分け、猛烈に前方を追い上げた。

「昨日からすでに調子が上がっているのを感じていたんだ。だから今日は絶対に逃げに乗ろう、ステージ勝利を狙おう、と朝から意気込んでいた。最終坂に入った時、向かい風の合間に、わずかに飛び出すタイミングを見つけた。あとはストゥイヴェンを捕らえるために、全力を尽くすだけだった」(フライレ、公式記者会見より)

フィニッシュ手前2㎞、つまり坂のてっぺんの500m手前で、フライレはついに先頭に立つ。そのさらに500m手前では、20秒ほど後方の集団から、アラフィリップが単独で追い上げをかけていた。残り1.5㎞地点の2級山頂のゲートは18秒差で潜り抜けた。このゲート直前にストゥイヴンに追いついたアラフィリップは、しかし、そのまま全速力でフライレを追い続ける代わりに、ほんの少しストゥイヴンの後輪で一息ついた。その上、あろうことか、ちょっとした牽制状態にさえ入ってしまった。

駆け引きする相手のいないフライレは、ラスト1㎞の下りを、ひたすら猛スピードで駆け下りた。ラスト500mでは早くも勝利を意識し、ジャージの前ジッパーを上げつつも……全力で踏み続けた。残り300mで2度後ろを振り返り、後方の2人を確認すると、ライン手前150mでついに勝利を確信した。

「信じられないほど素晴らしい勝利だよ。ツールの区間勝利は僕にとって長年の夢だったし、そのために厳しい練習に励んできた。1㎝差だろうが1m差だろうが、勝利は勝利。だけど独走で勝利を手に入れられたんだから、なおのこと喜びは大きい。それに、とっても誇らしい気分なんだ。だってこの坂を勝ってきた偉大なるスペインの先輩たちの、後に続くことが出来たんだから」(フライレ、ミックスゾーンインタビューより)

そう、近頃はフランス人に冷たいこのマンドの激坂は、2007年パリ~ニースではアルベルト・コンタドールに、2010年ツールではホアキン・ロドリゲスにほほ笑んだ。2018年はフライレが笑う番だった。2015年と2016年にブエルタで山岳賞を勝ち取り、2017年ジロでは初めてのグランツール区間勝利を味わったスペイン人は、28歳の誕生日の4日目に、生まれて初めて参加したツールで、初めての区間勝利を手に入れた。

ちなみにフライレの左腕には、黒い喪章がつけられていた。カザフスタン人フィギュアスケーター、デニス・テンに対する追悼の印だった。ソチ五輪の男子シングル銅メダリストは、2日前に車泥棒に刺され、命を落とした。

アラフィリップは6秒届かず、肩を落とした。サガンは12秒後の区間4位に飛び込み、ファンたちに嬉しい衝撃を与えた。今区間だけで緑ジャージ用ポイントを39pt追加し、トータルを437ptに伸ばした。もはや注目点は「6度目のマイヨ・ヴェールを獲れるか」ではなく、「2年前の自己最高記録通算470ptをどれだけ上回るか」なのかもしれない。

はるか後方で、のんびりと走ってきたメイン集団は、決して勝負を放棄したわけではなかった。ステージも残り10㎞を切ると、突如として主導権争いを始めた。特にAg2rとモヴィスターとが競り合い、最終坂に入ると、まずは前者が先頭を引いた。残り3㎞ではミケル・ランダが、ほんの様子見程度に小さな加速を行った。

そこで生まれた奇妙なためらいを、プリモシュ・ログリッチェは上手く利用した。総合首位ゲラント・トーマスから2分46秒遅れにつける総合4位は、他のビッグネームたちの睨み合いを尻目に、力強く坂を駆け上がった。フィニッシュラインでは後続トリオに8秒差をつけた。

後続トリオ……それこそがフルーム、トム・デュムラン、トーマスであり、グランツール総合6勝現役最強王者、2017年ジロ総合覇者、現マイヨ・ジョーヌであり、現時点の総合トップ3である。

ログリッチェ加速後も、スカイの2人は、21歳のエガン・ベルナルに制御を委ねた。一方「アシストもおらず、完全に孤立しているのに、あれだけのことをやってのけるとはスゴイ」(公式記者会見より)とトーマスを驚かせたデュムランは、残り2㎞で急加速を敢行。瞬時にマイヨ・ジョーヌが後輪に飛び乗り、フルームとナイロ・キンタナも追随した。ロメン・バルデだけが動けなかった。

「1日中ゆっくり走ってきて、突然、スピードは極限まで上がった。僕は調子が最高ではなかった。それでも自分なりに全力は振り絞ったんだけど……。激烈すぎる戦いだった」(バルデ、TVインタビューより)

フルームは大きく後ろを振り返ると、今度は自らが加速を切った。トーマスも大急ぎで先頭を入れ替わった。果たしてリーダーのための「先頭牽引」だったのか、デュムランが指摘したように「僕が後輪にくっついてるのに、トーマスはフルームとの穴を自ら埋めに行った」のかは定かではないが、とにかくこの動きでキンタナも振り落とされた。

「僕ら代わる代わるアタックを打ったけど、今の段階では、どうやら3人は同レベルにいる」(デュムラン、フィニッシュ後インタビューより)

「現時点では、僕ら2人にとっては、デュムランこそが最大の脅威だ」(フルーム、フィニッシュ後インタビューより)

もつれあった三つ巴のまま、フルーム、デュムラン、トーマスはフィニッシュラインを越えた。キンタナはその10秒後に、バルデは14秒後に1日を終えた。

スカイコンビが総合上位2位を堅守し、トーマスは3日連続でマイヨ・ジョーヌを身にまとった。総合4位ログリッチェは総合表彰台までの差を48秒に詰め、5位バルデの遅れは1分31秒に広がった。モビスタートリオの中では、総合6位ランダが最も最上位につけるが、トーマスに対する遅れはすでに3分42秒に開いている。

「1日たりとも同じ日はない。だから物事の流れにただ合わせて行くだけ。もちろんピレネーステージに向けてすでにチームプランは定まっている。フルームと僕とが互いに足を引っ張り合うことはないし、それが原因でデュムランを勝たせたりもしない。そんなことしてしまったら、僕ら本当にアホみたいだからね!」(トーマス、公式記者会見より)

☐ ツール・ド・フランス 2018
ツール・ド・フランス2018 7月7日(土)~7月29日(日)
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宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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