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サイクル ロードレース コラム 2018年7月18日

ツール・ド・フランス2018 第10ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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「われらが国民的ジュジュ」が、祖国フランスに、2018年ツールにおけるフランス人区間初勝利をもたらした。26歳の本人にとっても「心の底から欲しかった」ツール区間初勝利であり、「1日だけでもいいから着るのが夢だった」という赤玉ジャージも手に入れた。黄色と緑の持ち主が積極的にジャージを守りに走った一方で、総合有力勢たちは、大会1回目の休息日の翌日に、……むしろ2日連続の超難関山岳ステージを前に、特に大きな動きは見せなかった。

まるでサッカーワールドカップのフランス代表優勝に刺激されたかのように、フランスチームやフランス選手たちが、スタート直後から活発に動いた。なにしろ2018年大会もすでに9日終えたというのに、地元フレンチはひたすら敢闘賞を積み重ねるばかり(対象全8区間中7回)。いまだひとりのフランス人も、フィニッシュラインで両手を挙げてはいなかった。アルプスの難関山岳地帯へと足を踏み込んだこの日、21人の大きな逃げ集団に、9人のトリコロールが潜り込んだ。

19km地点の4級峠を利用して出来上がった大きなエスケープ集団には、マイヨ・ジョーヌとマイヨ・ヴェールの姿もあった。

第3ステージ終了後から総合首位に立ち続けているグレッグ・ヴァンアーヴェルマートは、「今日はジャージを守りたい」とスタート前に宣言していた。2年前は第5ステージでマイヨ・ジョーヌを手にすると、第7ステージのピレネー初日で、やはり大きな逃げに入っている。もちろん当時も賭けを成功させ、3日間の黄色の日々を満喫した。今年はすでに7日間に渡ってイエロージャージを守ってきたが、あと1日を、意欲的に取りに行った。

一方で第2ステージから緑色のジャージを着ているペーター・サガンは、中間ポイントが、ちょっとした起伏を越えた後に設置されているのを見逃さなかった。つまりはいつものやり方だ。ピュアスプリンターたちが決して追いかけてこられない地形で逃げ、悠々とポイントを収集する……。こうして29km地点で、首位通過の20ptをまるまると手に入れた。

そこから道は、いよいよ起伏を増していく。今大会初の1級峠への山道で、本日の収集作業を終えたサガンは後方へと帰っていった。ヴァンアーヴェルマートはもちろん、驚異的な走りで先を続けた。

「休息日明けのステージは、たいてい、僕は自分の限界を超える走りができるんだ。ただスカイが果たしてどんな動きを見せるのか心配だったけど、彼らは特に追いかけてはこなかった。全力を尽くしたし、なにより脚の調子がすごく良かった。タイム差が7分に開いた時点で、行けると確信した」(ヴァンアーヴェルマート、公式記者会見より)

ツール初登場の超級グリエールに入ると、逃げ集団内で誰が一番強いのかはっきりと見えてきた。若きフランス人の2人、ジュリアン・アラフィリップとダヴィド・ゴデュが山岳ポイントを激しく競り合った。2013年ツール・ド・ラヴニール最終ステージで自らが制した山頂を、アラフィリップが再び勝ち取ると、さらには全長1.8kmの未舗装路を先頭で突っ走った。真っ白な砂ぼこりが舞い上がった。

「今日は山頂にむけてスプリントした。だって山岳ジャージを1日だけでも着るのがずっと夢だったから。でも、あくまで、これは『今日の目標』であり、『大会を通しての目標』ではないんだ。それに山岳ジャージの行方は、どうしても総合争いに左右されてしまうもの。たとえパリまでこのジャージを守れなくとも、失望はしない」(アラフィリップ、公式記者会見より)

その7分ほど後に、スカイに牽引されたプロトンも、第2次世界大戦中に多くの抵抗運動家が命を落とした追悼の地へとたどり着いた。小石混じりの道でクリス・フルームがパンクに見舞われるも、パルチザンの歌が厳かに流れる中、何事もなく静かに集団復帰を果たした。さらにはグリエール峠を下り切った先の長い谷間では、一時はバラバラになった逃げ集団やメイン集団も、再び大きくなった。

ラスト30kmに待ち構える1級ロム峠が、この日の勝負を決した。18人になったエスケープから、真っ先に仕掛けたのはリリアン・カルメジャーヌだった。1年前の夏に18kmの独走で区間初勝利を手にした25歳は、この日は36.5kmで加速に転じた。しかし逃げ集団のライバルたちが、すぐに後を追いかける。吸収と同時に、カルメジャーヌのチームメート、レイン・タラマエがカウンターアタックを打った。2016年ジロで14kmの独走勝利を決めたエストニア人は、その後6kmに渡ってひとり先頭を走り続けた。

しかし、アラフィリップが、元気よく追いついてきた。1週目の活躍を誓って大会に乗り込みながらも、思い通りの成績が出せなかったパンチャーは、失望をモチベーションに変えていた。自分向きの脚質だった第5ステージや、一番に狙いをつけていた第6ステージでは、本人によると「脚がなかった」。幸いにも今日はとにかく調子が良かった。

「これまで味わってきた数多くのフラストレーションが、僕の精神を鍛え上げてくれたんだ。五輪での落車、世界選手権でのラスト1kmでの吸収、初出場ツールの第2ステージでサガンに負けたこと、クラシックではバルベルデの後ろで2位ばかり重ねてきたこと……」

最後は腹の底から力を振り絞った。本人のフランス語表現を借りれば「内臓を食卓の上に並べた」。残り30kmでアラフィリップはタラマエを捕らえ、1km先で振り払った。勝負は決まった。そのままロム山頂を先頭で通過すると、とてつもないスピードでダウンヒルへと突っ込んだ。道幅の狭いヘアピンカーブの連続も、アスファルトの一部があちこち溶けているような危険な状況も、「ジュジュ」を震え上がらせたりしなかった。みるみるうちに後続とのタイム差を開いた。

「ずっと心の底からツールの区間勝利が欲しかった。走りながら今まで積んできた練習や、家族のことを考えた。病気の父のことも。父がTVでレースを見ているに違いないと思えば、僕もどれだけだって苦しみを耐えることが出来た。でも、まあ、僕は苦しむのが好きなんだ。今日はだから思いっきり苦しんだ」(アラフィリップ、公式記者会見より)

祖国フランスに2018年ツール区間1勝目をもたらしたアラフィリップは、フィニッシュラインで力強く胸を叩いた。熱い涙も流した。自身にとっても初めてのツール区間優勝だった。また今区間5つの山岳のうち4つで先頭通過を果たし、山岳ジャージを身にまとった。

ロム峠で勝利へ向けたアタックが勃発する瞬間まで、先頭集団で粘り続けたヴァンアーヴェルマートは、その後も驚異的な走りを見せた。アラフィリップから1分44秒遅れでステージを終え、望み通りあと1日、マイヨ・ジョーヌを着用する権利をもぎ取った。むしろ逃げ切り効果で、総合2位以下に対するリードを、43秒から2分22秒へと拡大した。

「あと1日、追加でマイヨ・ジョーヌを着ることが出来ることだけで、すでに満足だよ。ただ明日のステージはすごく難しい。とにかく僕には難しすぎる。ジャージを守るチャンスは『ゼロ』だ」(ヴァンアーヴェルマート、公式記者会見より)

後方のメイン集団は、ほぼ1日中、スカイが淡々と、かつ高速で制御を続けた。前方へと飛び出す攻撃は何一つなく(ラ・コロンビエールの山頂間際のダニエル・マーティンの加速のみ)、むしろ後方から、じわじわと弱者が振り落とされていった。

中でも昨大会2位のリゴベルト・ウランが、リズムについて行けなくなった。第9ステージの落車の影響か、背中や膝の痛みに苦しんだ。大多数の総合有力選手がアラフィリップから3分23秒差の小さな集団でフィニッシュした一方で、ウランは5分59秒差。つまり2分36秒ものタイムを失い、総合でも昨大会覇者フルームからの遅れは3分47秒に拡大している。

☐ ツール・ド・フランス 2018
ツール・ド・フランス2018 7月7日(土)~7月29日(日)
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宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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