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サイクル ロードレース コラム 2018年7月16日

ツール・ド・フランス2018 第9ステージ レースレポート

サイクルロードレースレポート by 宮本 あさか
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3年前のパリ~ルーベ王者が、涙の完全復活を遂げた。石畳巧者による三つ巴戦の果てに、ジョン・デゲンコルプが勝利を手に入れた。区間2位グレッグ・ヴァンアーヴェルマートは、チームリーダーのリッチー・ポートが落車棄権したこの日も、マイヨ・ジョーヌをしっかりと守った。

ちりちりと焼けるような日差しと、もうもうと立ち上がる白い砂ぼこり。ほんの一瞬で全身は砂まみれになり、がたがたの振動はまるで永遠に続くようだ。真夏の石畳も、また、地獄だった。近年のツールでは最長の全15区間・通算21.7kmのパヴェセクターが、すでに1週間以上走り続けてきた選手たちの肉体を、思う存分痛めつけた。

ただし、ポートが大会を去ったのは、石畳に入るずっとずっと手前のことだ。

スタートラインに並んだ時点から、すでに緊迫感に満ちていたプロトンから、スタート直後に5選手が飛び出した。たとえあっさり逃げを見送っても、集団内のピリピリした空気が和らぐことはなかった。

そして走り出してわずか7km。つまり最初の石畳に入る約40km前で、集団落車が発生する。沿道の観客を巻き込んで、数人の選手がアスファルトに叩きつけられた。ポートは右鎖骨を骨折し、即時リタイアを余儀なくされた。この夏の総合表彰台有力候補は、2年連続……しかも昨年同様に第9ステージの落車で、ツールを去っていった。

「1回くらいは落車でツールを失うこともあるかもしれないけど、2年連続で、しかも33歳でとなるとね……。簡単に消化できることじゃないだろうな。幸いだったのは、去年ほど深刻な怪我ではないこと。彼が早く戦線復帰して、新たな目標に挑めるよう願ってる。たとえばブエルタとか。もちろん僕らチームにとっては、総合エースの棄権は、かなりの痛手だよ」(ヴァンアーヴェルマート、公式記者会見より)

混乱の中で、さらに5人が前へと飛び出した。こうして20km地点過ぎにエスケープは10人に膨らんだ。激しくポジション取りを繰り返し、スピードをぐんぐん上げていくメイン集団から、約3分リードで最初の石畳へと先頭で突入した。

最初の石畳、すなわち第15セクターで、真っ先に試練を与えられたのはロメン・バルデだった。パンクで足止めを喰らったのだ。幸いにしてすぐに集団復帰を果たすが、「下見時はたった1回しかパンクしなかったのに」(フィニッシュゾーンインタビューより)と語った昨大会総合3位にとって、これは単なる「1度目」の試練に過ぎなかった。

ただしバルデは、数多くの不運な総合ライバルとは違って、落車に巻き込まれることはなかった。例えば第12セクターで発生した集団落車で、ヤコブ・フグルサングが転んだ。直後にチームスカイが加速したせいで、集団復帰には苦労させられた。ちなみに落車によるプロトン分断で、ヴィンチェンツォ・ニバリ、アダム・イェーツ、リゴベルト・ウランも一時は後れを取った。

ポート棄権後のBMCレーシングを支えねばならないはずのティージェイ・ヴァンガーデレンは、第10ステージで転び、続く第9セクター入り口でも転倒した。その第9セクターでは、マイヨ・ジョーヌ姿のグレッグ・ヴァンアーヴェルマートが猛烈に加速し、メイン集団を混乱に陥れた。そのタイミングでバルデは2度目のパンク。すぐさま前に戻れた1度目とは違い、この時は集団復帰に25kmもの距離を要することになった。

また第8セクターの入り口では、クリス・フルームも石畳に転がり落ちた。途端に、苦労するライバルたちを振り払おうと、石畳クラシックとは縁遠いはずのモヴィスターが集団牽引に乗り出したことも。

残り37.5km、第6セクターに入る直前に、逃げはついに2人に絞り込まれた。ひときわ砂ぼこりが大きく巻き上がった同セクターでは、フィリップ・ジルベールが猛加速。ペーター・サガンがすかさず反応し、当然のようにヴァンアーヴェルマートが先頭を取り戻しに向かった。

すでに通算15.6kmの石畳を先頭集団でこなしてきたミケル・ランダが、残り32.5km、アスファルトの奇麗な道で転倒する。右半身を強く打ち付け、すぐには起き上がれなかった。第5セクターを抜け出した直後の舗装路で、リゴベルト・ウランもまた地面に滑り落ちた。トム・デュムランが強烈なスピードアップを敢行し、誰もが慌てて前を追いかけた瞬間の落車だった。

この日最初のアタックを打ったダミアン・ゴーダンと、第2波で逃げ出したレイナールト・イェンスファンレンスブルクとは、第3セクターを抜け出した直後の残り20kmでついに捕らえられた。おかげで残り18km地点のボーナスタイム収集ポイントでは、悠々とヴァンアーヴェルマートが先頭通過。「ルーベで黄色」にこだわる2017年パリ~ルーベ覇者は、3秒を新たに手に入れた。

そして伝統の石畳路「カンファン・アン・ペヴェル」が、この日の勝負を大きく決める。第2セクターに突入した直後の、残り16.5km地点で、ベルギーチャンピオンのイヴ・ランパールトが急加速。ヴァンアーヴェルマートとデゲンコルプもすかさず後輪に飛び乗った。2015年大会でも最終盤で「三つ巴」を繰り広げた3人は、そのままあらゆるライバルを後方に置き去りにした。

2018年大会覇者ペーター・サガンも、もちろん飛び出そうと試みた。ところがフィリップ・ジルベール(=ランパールトのチームメート)やジャスパー・ストゥイヴェン(=デゲンコルプのチームメート)に厳しくマークされ、上手く動くことができない。残り3km、タイム差が55秒にまで広がったところで、ついにサガンは加速を切るも、上記2人と、やはりクイックステップフロアーズのボブ・ユンゲルスがぴったりと張り付いてきた。

チームメートの頼もしい後方援護を受け、先頭トリオは逃げ切りを確実にした。ラスト1kmを示すフラムルージュから、壮大な駆け引きを繰り広げる余裕さえあった。フィニッシュラインはおなじみルーベ競技場に隣接する道路に引かれたが、まるでヴェロドロームのバンクであるかのように、顔を見合わせ、蛇行し、時には軽く停止。後方から急速に追い上げてくるサガン集団の気配を感じながら、3人はギリギリまで加速しなかった。

あくまでヴァンアーヴェルマートとランパールトは、決して最前列へと出ようとはしなかった。すでに800mにも渡って、先頭で様子をうかがっていたデゲンコルプは、ついに残り200mでスプリントを切った。そのままライバルに1度たりとも先行されることなく、フィニッシュラインを一等賞で駆け抜けた。

「純粋なる幸福だ」(デゲンコルプ、TVインタビューより)

こう言って嬉し涙を流した29歳は、ついにツール・ド・フランスで待望の初勝利を手に入れた。すでにブエルタでは区間10勝、ジロでは区間1勝を上げてきた。2015年にはミラノ~サンレモとパリ~ルーベの「モニュメント」を2つ勝ち取った。なぜかツールでは、区間2位が6回と、あと一歩が足りなかった。なにより2016年1月のトレーニングキャンプ中に交通事故に遭って以来、苦悩の日々を過ごしてきた。調子は思ったように復活せず、以前のようなな成績があげられず、自信を失いかけたことさえあった。

「あの事故は辛かった。多くの人が、僕はもう元のレベルには戻れないだろう、と思い込んだ。あの後もたしかに何度も『後退』した。数カ月前も、ここパリ~ルーベで落車し、ひざを痛めた。4週間自転車に乗れなくて……。僕自身も自分を疑ってしまったこともあった。自信の喪失、これが一番難しい問題だったんだ。でも家族が常に力をくれた。おかげで僕は、自分の成功を信じ続けることが出来た」(デゲンコルプ、公式記者会見より)

区間2位にはヴァンアーヴェルマートが食い込んだ。2つの望みのうち、1つ目の「黄色で勝利」は逃したが、2つ目の「ルーベで黄色」は見事に叶えた。第3ステージ終了後から着続けているマイヨ・ジョーヌを、アルプスまで連れていくことができる。なにより総合エースのリッチーが帰宅し、ヴァンガーデレンも総合で6分以上の遅れを喫した今、BMCの(存続の)ためにも2016年夏季五輪金メダリストはさらなる活躍を見せねばならない。

「勝てると思ったんだけどな。自分のスプリント力に自信があった。もしかしたらスプリントを切るタイミングが遅すぎたかもしれない。まだこの先もチャンスは何度かある。たとえ今後は山が多くなろうとも、第2週、第3週でなにかしたいと願ってる」(ヴァンアーヴェルマート、公式記者会見より)

デゲンコルプの勝利から19秒後に、サガン集団はフィニッシュラインを越えた。27秒後にはゲラント・トーマス、アレハンドロ・バルベルデ、デュムラン、フルーム、ニバリ、ナイロ・キンタナ、アダム・イェーツ、フグルサング、ダニエル・マーティン等の総合有力勢を含む一団が到着した。

落車で一時は1分半もの遅れを喫したランダは、最終第15セクターで3度目のパンクに襲われたバルデと共に、大部分のライバルからわずか7秒遅れで1日を終えた。一方のウランはローソン・クラドックの自転車に飛び乗って後を追いかけ、石畳巧者セップ・ヴァンマルケが自らの成績を犠牲にしてまで必死の牽引を行ってくれたが、最終的にライバルたちから1分半近いタイムを失った。

総合ではトーマスが43秒差の2位で最上位につける。続くバルベルデは1分31秒差、フグルサングは1分33秒差。フルーム、イェーツ、ランダは1分42秒差で並び、ニバリは1分48秒差。第6ステージでの遅れが響くデュムランは2分3秒差、バルデは2分32秒差に。初日にメカトラの犠牲となったはキンタナは2分50秒差、そしてこの日の落車のせいでウランは2分53秒差に後退した。



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宮本あさか

宮本 あさか

みやもとあさか。パリ在住のスポーツライター・翻訳者。相撲、プロレス、サッカー、テニス、フィギュアスケート、アルペンスキーなど幼いときからのスポーツ好きが高じ、現在は自転車ロードレースの取材を中心に行っている。

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