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「泣くな!泣いたって強くならないんだ。もっと強くなればいい、もっと練習すればいいんだよ。その涙を溜めておけ。12月に喜びの涙に変えよう」
明成が2014年のインターハイ決勝で福岡大附大濠に敗れたとき、佐藤久夫コーチが選手たちに向けた言葉だ。
決勝当日、明成には2年生エースの八村塁と司令塔の納見悠仁、大濠には牧隼利がいなかった。3人はU17世界選手権(現ワールドカップ)に出場するために、準決勝まで戦ったあとに決戦の地、ドバイへと向かったからだ。前年にウインターカップ覇者になったこの代の明成には3年生が一人しかおらず、エースの八村塁を筆頭に、ガードの納見悠仁と増子優騎、シューターの三上侑希、リバウンダーの足立翔が台頭し、2年生軍団だけで決勝に駒を進めるまで力をつけていた。しかし、2年生主体の明成では主軸2人の不在は響き、53-74で大濠に完敗。それでも、佐藤コーチは「八村と納見が抜けても魂は抜けなかった」と決勝を戦った選手たちを労い、冬に向けてパワーアップを誓った。
2年生になった八村は、U17世界選手権で大会得点王を獲得したことをきっかけに、NCAAの強豪大学からオファーが舞い込み、卒業後の目標としていたアメリカへの扉を開ける存在までに成長していた。1年生のときの八村は明成の歴代センターが背負う『背番号14』のユニフォームを着ていたが、2年生になるとポジションにとらわれない規格外の選手であることと、佐藤コーチの「八村だから8番!」の一声で『背番号8』をつけるようになり、プレーの幅を外角にまで広げていた。
迎えたウインターカップ。準々決勝の帝京長岡戦では八村がファウルトラブルとなるが、他のメンバーたちが運動量あるディフェンスで圧倒。明成が八村だけのチームでないことを証明していた。また帝京長岡にはタヒロウ・ディアバテ(ポートランド大)、準決勝の相手である桜丘にはモッチ・ラミーン(大東文化大)という、当時トップの力を持つ留学生を相手にしても、八村はものともせずに1対1で対抗していた。
そして決勝で顔を合わせたのが、2年連続であり、インターハイの再戦となった大濠とのライバル決戦だ。
試合は明成が先行するが、2クォーターに入ると大濠が司令塔の津山尚大やポイントゲッターの牧を中心に主導権を握る。前半終わって43-34と大濠がリード。後半に入ると明成は追い上げを図り、3クォーター終了時には55-58と3点差まで詰める。だが、シューターの三上が大濠のキャプテン鳥羽陽介の徹底マークにあい、打てども、打てども当たりが来ない。
明成の佐藤コーチはこの苦しい局面でタイムアウトの準備をしていたが、選手たちがジワジワと差を詰めていく懸命な姿に、「任せられるところまで選手たちにやらせよう」と決めたという。それは、八村塁という規格外の選手を預かる者として、育成するための覚悟でもあった。 そこで選手たちは、いくらシュートが入らなくても「三上が3ポイント決めて勢いづくのが明成のスタイル」(八村)とばかりに、多少無理な展開でも三上にボールを集めて当たりが来るのを待っていた。2年生チームゆえに経験値が少なく、さらに選手のアイディアに任せたことで、ゲームの作り方としては単調だったかもしれない。しかし、だからこそ、本当に苦しい大事な場面で『自立心』が芽生えた。
残り2分3秒、八村が同点のシュートを決めると大濠がタイムアウトを取る。するとその時、明成ベンチではシューターの三上が声を上げて泣き出したのだ。 「みんなが僕にボールを集めてくれるのに、決めることができずに迷惑をかけている…」(三上) そんな苦しさゆえの涙だったが、ここで若きチームが一つに団結する。八村が三上を抱き寄せて励ますと、チームメイトたちは「いいから打て打て!」「ここ勝負だぞ!」と檄を飛ばし合う。そして三上は涙を振り払い、気合いの言葉を発してコートに出ていき、左コーナーから難しいタフショットを決めてみせたのだ。
奇跡はこれで終わらない。残り1分を切って69-69の同点。ここで大濠は牧がドライブに行く。ここで決めれば大濠に形勢が傾くその瞬間、八村の豪快なブロックショットが飛び出す。そのこぼれ球を八村がみずから拾うと、ノーマークだったシューターの富樫洋介にパスして3ポイントを狙わせる。しかしシュートが外れるやいなや、今度はリバウンドに跳んで右手1本でタップシュートを叩き込み、逆転シュート。まるで八村劇場だった20秒間。これが決勝点となり、明成が71-69で2年連続3度目の優勝に輝いた。
インターハイで流した悔し涙は、誓い通りにうれし涙に変わり、佐藤コーチは優勝インタビューで選手たちを称えた。
「今の時代に根性と言っていいのでしょうか。私は彼らの根性を見直しました。彼らにすべてを最後は託しました。もう君たちにすべてを任せると。彼らは日頃の練習を出してくれました」
そして、優勝の立役者である八村は「久夫先生を優勝させたかったので、それができて本当に良かったです」と感想を述べたあと、お約束のように「バスケはすっごい楽しいです」と笑顔で優勝をかみしめた。
応援席に挨拶をしにいく明成の選手たち。ここで八村を中心とした主力選手たちが抱えていたのは、たった一人の3年生部員、佐藤悠真だった。泣きじゃくる3年生を囲んだ2年生軍団はこのとき、来年の優勝を誓うのだった。
文:小永吉 陽子
高校バスケ ウインターカップ2014 男子決勝 ハイライト
小永吉 陽子
「月刊バスケットボール」「HOOP」編集部を経て、フリーのバスケットボールライターとして活動。取材フィールドは国内をはじめ、FIBA国際大会など幅広く取材。時には編集や撮影も行う。
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