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野球 コラム 2023年4月3日

「ここは天国かい?」「いいや、3月の台中だよ」 〜MOBYのWBC・POOL A取材ノート @ 台湾・台中〜

野球好きコラム by オカモト"MOBY"タクヤ (SCOOBIE DO)
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パンデミックの影響で6年ぶりとなった第5回ワールド・ベースボール・クラシック(以下WBC)は、侍ジャパンが見事に3大会ぶり3度目の優勝で幕を閉じました。過去4回と比べ観客動員も格段に増え、チェコやイギリスの歴史的初勝利、また強豪国同士の激闘、そして、映画やマンガですらそんな筋書きは書けなかったであろう、大谷翔平がマイク・トラウトを三振に切ってとり、日本がアメリカに勝利したラストシーン。
今回の大会は、日本との試合後に対戦国の監督が口にした言葉、メキシコ監督ベンジー・ギルの「世界のベースボールの勝利」、そしてアメリカ監督マイク・デローサの「ベースボール・ファンの勝利」、そのものだった、とボクも信じております。ベースボール、イズ、ザ、ベスト!

さて、時を少々戻しましょう。

第5回WBCは3月8日、POOL Aの「オランダ対キューバ」からその火蓋が切って落とされました。アメリカへ“亡命”したMLB選手たちが参加することを許され、画期的な戦力アップを得たキューバ、MLBに名選手を数多く輩出し日本に負けないほど高校野球が盛んなパナマ、過去2大会で準決勝進出を果たしているヨーロッパの雄・オランダ、アメリカに渡った移民を招集し母国と連帯するイタリア、日本も絡む自国の歴史との兼ね合いから「台湾」と名乗れない一方で、自らのアイデンティティをベースボールに重ねているチャイニーズタイペイ(以下台湾)の5チームによる組み合わせは、開催前から史上希に見る大混戦になるのではないかと予想されていました。MLBで1試合以上プレーした選手が合計38選手(キューバ5・パナマ8・オランダ9・イタリア12・台湾4)。そしてマイナー、NPB、CPBL、各国のプロリーグやアマチュアリーグで切磋琢磨している選手たちが、多種多様なバックグラウンドを背負って、台北から新幹線に乗って1時間、台湾第2の都市、台中にあるインターコンチネンタル・スタジアムに集まり、1日2試合を5日間、計10試合を行いました。こんなに面白そうな5日間、そしてMLBが大好きなボクとしては、行かないという選択肢が思い浮かばず、いつのまにか飛行機のチケットとホテルを手配していました。

開幕戦の「キューバ対オランダ」は、大混戦のPOOL Aの中でも共に評価が高く、このグループの行く末を占う1戦とも称されましたが、対キューバにWBCで3連勝中のオランダが盗塁を絡めてそつなく加点。一方のキューバは、初回の1死満塁のチャンスで無得点、大事な場面でのミス、またファウルチップなど紙一重の判定に泣き、接戦の末オランダが4対2で勝利しました。

開幕第2戦の「台湾対パナマ」は、アメリカ野球殿堂にて史上唯一の満票で選出されたパナマ出身のレジェンド、元ヤンキースのマリアノ・リベラが始球式に登場、同じくヤンキースで同時期に活躍した台湾のレジェンド・王建民にボールを投じる素晴らしい演出からスタート。実はもう1人、ふたりと同時期にヤンキースでプレーしていた方がそれを見届けていたこともお伝えしておきます。それは五十嵐亮太さん。5日間全10試合、スコアをつけながらしっかり取材観戦されていました。始球式には台中市長さんも参加し、試合中には記者席にいた全ての方々に手渡しでお土産のお菓子を配るという歓待も。そうか、そりゃあナショナルチームが参加する国際大会だよなぁ……と改めて気づかされました。

台中市長さんかのお土産。台中名物・太陽餅

さて、試合はといえば、攻撃時だけでなく守備時もリードに従って応援を繰り広げる台湾ファンが観客席をグルッと取り囲む圧倒的なアウェーの中、パナマの選手たちはまるでそれを自分たちの応援として楽しんでいるかのように躍動し、12対5と予想外の大勝。パナマにとって歴史的なWBC初勝利を手にしました。試合前のパナマ先発ウンベルト・メヒアは、大仕事の前にもかかわらず何故かリラックスしていてチームスタッフとベンチ前で談笑、ダメ元で話を聞けないか頼んだところ快諾してくれました。「初めてのWBC、しかもホームチーム相手に先発。そんな強敵に対する作戦は、とにかくアタックする、これだけさ。」と気さくに答えてくれ、見事に2回を無失点に抑え勝利に貢献しました。

また、試合後の記者会見では、林岳平(リン・イエピン)監督が多数押し寄せた台湾メディアから厳しい質問を浴び、「試合のない明日、悪かったところを修正してくる」と対応に追われていました。そうそう、試合終盤にはパナマが大量点差でリードしている7回表に盗塁を仕掛け、それに台湾ファンからブーイングが起きたのですが(盗塁は成功しその後生還)、台湾の応援リーダーが「ブーイングはやめよう、応援しよう!」となだめるという場面なんかどもあり、改めて今大会での1点の重みを感じました。そしてこの日の大量失点が、後に台湾を追い詰めることになろうとは・・・この時点ではまだ誰も気づいていなかったと思います。

2日目は、第1試合が始まる時間になっても、なぜか記者席はガランとしたまま。どうやら台湾メディアの皆さんは昨日の記者会見の流れで、ほとんどが台湾チームの練習を取材に行ってしまった模様。正午、前日に勝利したチーム同士の「オランダ対パナマ」がプレーボール。「アンドレルトン・シモンズの追っかけです!」という日本から来ていた女性ファンも観戦している中、大会前では出場チームの中で評価の一番低かったオランダの5投手が、前夜に打線が爆発したパナマを1失点に抑える素晴らしいピッチングを披露。また打線は4番のディディ・グレゴリウスが8回裏無死二塁から、なんと送りバントを決め、これが貴重な追加点に繋がり結局オランダが3対1で連勝。この時点では記者席の間で誰しもが「オランダが一抜けか?」という雰囲気でした。

第2試合の試合開始前、前の試合で欠場のキューバ代表、アルフレッド・デスパイネがチームメートにノックを打っていたので、「怪我は大丈夫?」と日本語で質問すると「大丈夫!」とサムズアップして答えてくれ、その日はスタメン出場。追ってデイビッド・フレッチャーを始め、選手たちがそろってマスタッシュ(口ひげ)を生やしたイタリア代表が初登場。
打撃練習では飛距離を飛ばすというより、総じてライナーを狙って打っている印象でした。そしてアメリカ野球殿堂入り、日本でも野茂英雄さんや吉井理人さんともバッテリーを組んだことでお馴染みのマイク・ピアッツァ監督がフィールドに現れたときには、彼のWalk Up Song、ジミ・ヘンドリクス『Voodoo Child』が脳内で流れましたよね・・・。

キューバ先発はMLB通算133試合登板のロエニス・エリアス、そして、イタリアは13年MLBオールスター先発投手マット・ハービーによる投げ合いで始まったこの試合、キューバは送りバント、イタリアは積極的な内野シフトといった細かい戦術を駆使し締まった好ゲームに。イタリアが2対1とリードして迎えた8回裏、チアホーンを鳴らしキューバを応援する通称「キューバおじさん」ことパブロ・アビラさんが、自分のリュックの中から野球ボールを取りだし、観客席の台湾人にそれを投げ入れ、代わりに「キューバ」コールをお願いするという”ニンジン”作戦を敢行。結果6,200人集まった観客の大多数による「キューバ」コールがおこり、その勢いに乗って2死二塁からバーバロ・アルエバルエナが同点タイムリーを放ち、スタンドは熱狂に包まれました。その直後、キューバ側のベンチからアビラさんに向けて更に応援を盛り上げろ!と追加のボールが投げ入れられていました。台中ならではの(警備などの)緩さが生んだ、非常に印象深いシーンでした。ただ試合は同点のまま延長に突入、10回表にゴーストランナーとして二塁にいたブリュワーズのトッププロスペクト、サル・フレリックが初球からいきなり三盗を成功させ流れを作り、後続の打者がこれでもかとセンター方向に弾き返し4点追加、イタリアが難敵キューバに勝利しました。

試合後の記者会見でピアッツァ監督は「ハービーの投げっぷりにはとても感心し、早めの交代にも納得してくれ、後続の投手たちも頑張ってくれた。両チームとも極限状態、フラストレーションもあったが、最後に充分な得点を稼ぐことが出来た。キューバにもチャンスはいくつか与えてしまったが、好守備でモメンタムを変えることも出来た。」などと、非常に雄弁に話してくれました。

3日目、連敗となったキューバは前夜の惜敗からわずか12時間半後に、第1試合でパナマとの試合を迎える過酷なスケジュール。前夜の記者会見で「要所でバントを決められなかったのが問題ではないのか?」とキューバの記者陣からの厳しい質問に対し、ヨンソン監督は「一晩ミーティングをして状況を把握し、熟考し、メンバーを変更するかも知れない」と臨んだ1回表、前の試合で出番のなかった先頭打者のロエル・サントスが初球からセーフティバントを決め、今日は何か違う!と思わせてくれる幕開け。パナマに一旦は逆転されるも、キューバは6・7回と2イニング連続打者一巡の猛攻を繰り広げ13対4と大勝、負ければ敗退が決まる試合で首の皮一枚繋がりました。

第2試合、ホームチーム台湾と対するイタリア監督マイク・ピアッツァは「台湾のファンにとっても我々にとっても特別な国際試合。皆に楽しんで欲しい。観客のノイズが我々のプレーに良い影響を与えてくれたらと思っている」と、観客の大声援にも触れていました。プレーボールと同時に、記者席に台湾の有名店「50嵐」のタピオカミルクが配られ、記者の皆さんも臨戦態勢。

すると初回に林子偉(リン・ズーウェイ)のソロ本塁打で先制、BROS発表20,000人超満員(MLB発表だと18,799人)のスタジアムのボルテージは一気に沸点へ。その後は、ニッキー・ロペスのスクイズ成功を始め、イタリア打線の畳みかけるセンター返し、台湾打線も負けじと打線が繋がり、シーソーゲームの展開。6回裏には2月半ばにレッドソックスとメジャー契約にこぎ着け、WBCにも直前で参加を表明したユー・チャンが同点2ランを放ちスタジアムは一気に最高潮。更には22年CPBL本塁打王の大砲、吉力吉撈・鞏冠(ジリジラウ・ゴングァン)が3ランを放ち試合を決めました。この2人はいわゆる少数民族の血を引く選手で、試合後の記者会見ではそのことについて質問されていましたが、ユー・チャンは「とにかくチームの勝利に貢献出来たのが嬉しい。選手、スタッフ、そしてファンからのサポートがあって本塁打を打つことが出来た。」とチーム台湾の団結力を強調していました。

また、6回から2イニングを無失点に抑え勝利投手となった呂彦青(ルー・イェンチン)はこの日が27歳の誕生日、バスに乗り込む際には選手たちやスタッフから歌で祝福されていました。また敗れたイタリアのピアッツァ監督に、ボクは「POOL Aの他のチームは総じてオーソドックスな守備陣形をとっているが、イタリアの内野守備は積極的にシフトを敷いていますよね?」と質問したところ「我々の素晴らしいコーチングスタッフのスカウティングにより、相手打者に対し最も効果的なポジションに彼らを置く。うまくいくこともあれば、そうでないこともある。」と、短期決戦でもしっかり相手チームのデータを収集していることを教えてくれました。

4日目、イタリア代表は前夜の敗戦からわずか13時間を経ての連戦。試合前の記者会見でピアッツァ監督は「イタリア人は逆境から立ち直る回復力のある民族。イタリアで野球のルネッサンスを興すため、アメリカ人がその橋渡し役として、イタリア系アメリカ人とイタリア人が集まって戦っている。」と、チームの状態のみならず、この大会に出場する意義を雄弁に語っていました。
また、ダグアウトに常備されているエスプレッソマシーンについては「イタリア人にとっては水を飲む様に当たり前にあるべきものさ。でも紙コップで飲むのは好きじゃないんだ。仕方なく我慢しているけど、今度は立派なカップを持ってくるよ!」と、軽い話題にもウィットに富んだ答えで返してくれ、人間としての器の大きさを日が増す毎に感じる様になっていきました。更にこの日はデイビッド・フレッチャーとハイミ・バリア、直接対戦したドミニク・フレッチャーとウンベルト・メヒア、またマット・ハーヴィーとルーベン・テハーダといった、現在のチームメート、あるいはかつてのチームメートとの対戦もあり、そのことについてデイビッド・フレッチャーは「とても特別なこと、楽しみにしている。」と話してくれました。

イタリア代表、マイク・ピアッツァ監督

台湾が出場しない試合としては最多の7,732人を集めたこの試合、2回にパナマがホセ・ラモスのソロ本塁打で先制したものの、両チームの投手陣が息詰まる投手戦を展開。また好守も連発し非常に締まった好ゲームとなるも、結局パナマがイタリアを完封し2対0で勝利。パナマは2勝2敗で日程終了、イタリアは1勝2敗と追い込まれることに。このあたりから「全チーム2勝2敗なんてことがあるんじゃないか?」という雰囲気が漂い始めていました。

さて、今回の取材では記者たちに対しお昼はお弁当、夜はまた何かしらの食べ物や飲み物がイレギュラーで提供されたんですが、第2試合が始まる前に配られたのが、何とコインパンケーキ。随分と洒落たスイーツを・・・と首を傾げていたところ、台湾の記者の方から「オランダ名物だよ!食べて勝つ!」という縁起を担いだメニューだったそうで。

オランダ名物・コインパンケーキ

バックヤードも必勝態勢で臨んでいることをひしひしと感じたこの試合、1点先制された台湾は2回裏にユー・チャンのグランドスラムが飛び出し序盤で大量リードを奪い、また投げてはこの日が代表デビュー登板だった呉哲源(ウー・ジェーユェン)が4回1/3を無失点、アンラッキーなヒット1本のみに抑え、台湾投手陣で今大会1番のピッチングを披露、結局9対5で台湾がオランダを下し、両チームが2勝1敗で並びました。試合後、敗れたオランダのミューレンス監督は、台湾に比べオランダにはMLB選手が数多くいるにもかかわらず台湾に敗れたことについて質問されると「こういうことが起こるから、みんな野球をプレーし、その為に稼ぐわけだ。我々も台湾に対しリスペクトを持って戦ったし、誰もが勝利できる可能性があるし、そして稼ぐことが出来るだろう。」と、非常に落ち着いた大人な返答、そして台湾の選手たちのレベルの高さについて触れていました。

また、好投を披露しホールドを記録した台湾の呉哲源は、正式メンバー30人が選ばれる際に一度は選外になったものの、他の投手の故障で最後に追加招集されたラッキーボーイ。代表チームでも投手コーチとして帯同している王建民直伝のシンカーを駆使し、バリバリのMLB選手たちを手玉に取る好投、負けたら敗退となる大舞台で、選外から一気に台湾球界のシンデレラボーイとして注目される存在となりました。所属チームの監督は、かつて阪神タイガースで活躍した林威助(リン・ウェイツゥ)。ボクは「林監督に『もう返品されてくるなよ』と送り出されたそうですが、監督に良い報告が出来ますね?」と尋ねたところ(ここで台湾記者陣がクスクス笑い)、「初めての台湾代表、初めての国際試合の登板だったけれども、我々は同じ目標に向かってプレーしているだけ。コントロール良く投げることが自分の長所、それをしっかりと遂行できた。台湾のファンに私のベストの投球を見て欲しかった。林監督、チームメートや友人、そしてファンから沢山の激励、応援を頂いた。その期待に応えることが出来たと思う。」と、至って冷静に答えてくれました。

代表チームの試合が1日2試合、それが4日続くと、取材する側も疲労度MAX・・・。そして、これは終わらずに永遠と続いていってしまうのでは・・・と脳が麻痺状態になってしまう程に熱戦が続いたこのPOOL Aも、ちょっと名残惜しさが出たのか、疲れを気にせずいつもより30分早めに球場入りし、台湾の選手たちを乗せたバスを入り待ちするファン、入場ゲートで開門を待つファンなどを撮影も兼ねて見届け、最終日となる5日目がスタート。

試合前には記者陣にキューバン・サンドウィッチが配られ、今日も食べて勝つ!とバックヤードも必勝態勢。快勝から一夜明け、タイトなスケジュールながらも連勝の勢いそのままに臨む台湾でしたが、休養十分のキューバがいきなり先制パンチ。モンカダやデスパイネなどキューバ打線が猛打を振るい序盤で7対0と大量リード。それでも満員のスタンドからは台湾を応援するコール、応援歌がトーンダウンすることなく鳴り響き、最終回にユー・チャンの二塁打で1点返した際はまるで逆転したかの様な大騒ぎ。今回の台湾を応援する地元ファンの熱狂は、世界には色んな野球の楽しみ方があることを気づかせてくれた、そんな素晴らしい統一感に溢れたものでした。結局キューバが7対1で台湾を下し、連敗から2勝2敗でフィニッシュ、いよいよ全チーム2勝2敗が現実味を帯びてきました。

第2試合開始前の時点で、各国の予選突破条件はこんな感じでした。

・オランダ:勝利、あるいは3失点以内での敗北
・キューバ:オランダ勝利、あるいは延長12回以降イタリア無失点かつオランダ3失点以下以外でのイタリア勝利
・パナマ:タイブレークにならずオランダ10失点以上かつイタリア6失点以上でのイタリア勝利
・イタリア:4点差以上かつ5失点以内での勝利、あるいは延長での勝利でキューバの失点率を下回る
・台湾:敗退決定

この時点でキューバがほぼ勝ち抜け決定、台湾は敗退、パナマも可能性は低く、イタリアは勝利が必須の上、点差を付け少ない失点で勝たなくてはいけない、という厳しい条件が課せられました。そのことについて試合前にピアッツァ監督に「負けたら最後の試合ということで、選手たち、チーム、そしてピアッツァ監督は、何か士気を高めるようなことをしましたか?」と質問したところ、「昨夜は試合終了が遅かったけれども、イタリア系アメリカ人のコーディネーターがアメリカ系中華レストランに連れてってくれ、皆リラックスできた。先祖代々の国を代表することで、こうやって皆が集まって貢献してくれる。私が野球で経験した中で最高の経験のひとつになった。イタリア系アメリカ人は野球の分野で素晴らしい歴史を持ち、アメリカという強大な国の建設に貢献した。だから、チャンスを得てアメリカに渡った人間として、母国に恩返しをするための小さな贈り物を届けるため、今夜は頑張りたい。」「オランダとイタリアの間には常にライバル関係があり、今日の試合も良い勝負になるはずだ。ある意味、今日は、ヨーロッパにおける野球のルネサンスが始まる試合かもしれない。」と、チーム、母国、そしてヨーロッパ野球の未来をも見据えた一戦として、このオランダ戦を捉えていることを語ってくれました。

そんな重要な一戦の前にはイタリアのリリーバー、ジョー・ラソーサ(レッズ傘下)など選手たちがサンダル姿で客席エリアにあるお土産屋まできて記念グッズを物色し、それを見つけた観客と交流するなど、超が付くほどのリラックス状態。オランダは今大会初登板の21歳ジェイデン・エスタニスタ(フィリーズ傘下)、イタリアは今大会2度目の先発マット・ハービーによるマッチアップで試合開始。2回にチャドウィック・トロンプの先制ソロ本塁打でオランダに先制されるも、ハービーは力でねじ伏せた全盛期とは別人のような、肉を切らせて骨を断つ老獪なピッチングで4回を1失点で投げきり、味方の反撃を待ちます。

すると4回裏、イタリア打線はセンター方向へ中心にハードヒットを連発、打者一巡の猛攻で一挙6点を挙げ逆転。ただヨーロッパの盟主オランダも6回にザンダー・ボガーツのヒットなどで無死満塁、チャンスを迎えたところでイタリアは試合前にお土産を買っていたラソーサがマウンドへ。すると4番ディディ・グレゴリウスを1球で内野フライ、ジョナサン・スコープとロジャー・バーナディーナを連続三振、無死満塁から三者凡退で切り抜け、胸を拳で何度もぶっ叩き、雄叫びをあげるド派手なセレブレーションをかましチームメートに祝福される、この日1番の見せ場を作りました。

ピアッツァ監督も「けがしてしまうんじゃないか、というくらい心配したさ。水を差すつもりはなかったけど、さすがに落ち着け、と言ったさ!」と漏らしていました。結局イタリアが7対1でオランダを下し、5チーム全てが2勝2敗というカオス状態で全日程を終了。イタリアは失点率でオランダを上回り第3回以来の1次ラウンド突破、東京行きを決めました。

試合後の記者会見で、ボクは「全試合を通してイタリアは積極的なシフトに加え、打線もセンター方向を狙う打撃をしていた様に思われますが、それは意図していたことですか?」と尋ねたところ、ピアッツァ監督は「パナマ戦が無得点、フラストレーションが溜まっていたこともあり、何か作戦を変えなければと思っていた。今日は天候が強く、打者たちにはフィールド一杯を使って強いライナーを打ってくれ、結果ダブルプレーになっても構わない、と指示を出した。結果クラッチヒットが何本か出た。ホームにランナーを返したかったし、何より我々は家(ホーム=敗退)に帰りたくなかった。」と、状況に応じチーム打撃を徹底させる指示を出していました。また「私はチームのスタッフを十分に評価することが、正直出来ていないと思う。だけどスタッフの皆は私に「今回集まった選手たちは本当に尊敬できる」と指摘してくれた。そして、成功する監督には素晴らしいスタッフがいることも理解している。だからこそ私は、スタッフからのレポートをしっかり受け止めることが出来ている。彼らは本当に準備万端なんだ。守備や戦術をスカウティングしている。素晴らしいメンバーで、パーティー(=試合)を少しでも続けられるのは嬉しい。」と、大会を通じてチームスタッフの働きを讃え、彼らから提供される様々な情報をしっかりと利用していたことが分かりました。

亡命選手を再招集するという、かつてない補強を経て準決勝まで進出したキューバ。短期間ながらデータを駆使し、準々決勝進出という“「ヨーロッパ野球のルネッサンス」”を興したイタリア。連勝スタートも大会終盤に投手陣が踏ん張れなかったオランダ。WBCでの初白星、しかも2勝して次回は予選免除になったパナマ。そして2勝を挙げなから失点の多さで次回は予選スタートになるも、打って勝つ野球を貫き通した台湾。MLBを中心に、世界各国でプレーするトップレベルの選手たちによる5日間10試合は、全日程が文句なしの天気だったことも相まって、全てが終わったあとにタクシーで帰る道すがら、ある有名な映画の一節を引用した、こんな言葉が頭をよぎりました。

「ここは天国かい?」「いいや、3月の台中だよ」

最後に、台湾で台湾プロ野球の記者として活躍されている日本人、阿英さん( @aying108 )を通じ、台湾メディアの皆さんにはとても親切にして頂きました。またキューバ代表の公認カメラマンとしてチームに帯同されていた日本人、Yuhki Ohboshiさん( @yuhkiohboshi )にもキューバのお話を聞くことが出来ました。この場を借りてお礼申し上げます!

そしてJ SPORTSさん、次回も是非どこかにボクを派遣して下さい!

文・オカモト"MOBY"タクヤ (SCOOBIE DO)

オカモト"MOBY"タクヤ (SCOOBIE DO)

1995年結成、"LIVE CHAMP"の異名を持つロックバンド「SCOOBIE DO」のドラマー兼マネージャー。
MLBコメンテーターとしても精力的に活動し、J SPORTS「MLBミュージック」メインMC、そして2023年シーズンからMLB中継の解説を担当予定。2022年4月には初の著書『ベースボール・イズ・ミュージック~音楽からはじまるメジャーリーグ入門』(左右社)を出版。MLBに関するラジオ出演や執筆活動も多数。2021年にはテレビ東京系ドラマ『生きるとか死ぬとか父親とか』で俳優としてもデビュー。

SCOOBIE DO http://www.scoobie-do.com/
Twitter: @moby_scoobie_do
Instagram: @moby_scoobiedo

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